74.ルクバトウ鉱山都市
太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。
街道に光る石が埋め込まれているようで、目的地までの道を淡い光が照らしてくれていた。
周りも、他の街から来たであろう馬車の光で少し明るくなっていた。
どの馬車も足並みを揃えるように、同じ速度で走っており、ひと塊の集団となっていた。
都市はすぐ側だ。先行して孤立するよりも固まっていた方が何かと安全だからだろう。
⋯⋯いよいよか。
3日間の馬車に揺られる旅も、終わりを迎えようとしていた。
冒険者ギルドへ行くのは明日でいいか。
俺は鉱山都市に着いて、初めに何をするか考えていた。
今日はもうアナの別荘でゆっくり休みたい、クッションを用意したとはいえ、馬車の振動でお尻が痛いし。
俺のお尻は悲鳴をあげていた。
他の冒険者から、ヒールポーションをかけると大分楽になると聞いたので、着いたら試してみよう⋯⋯。
シャロも流石にキツイ様だ。
窓から外を見ると、鉱山都市の外壁が見えてきた。
暗くて全貌は見えないが話によると。山の半分位をぐるりと囲む程の長さがあると云う。これも魔法のなせる技か⋯⋯。
この世界では、大工も魔法を使う。
もちろん技術も持ち合わせているが、建築に魔法も取り入れ、一軒家位なら数日で建てることが出来る。魔法ってすげーと思った。
そんな外壁に大きな門が1つ。
あそこが鉱山都市への入口だ。
扉の前には馬車が列をなし、チェックを受けていた。
これだけ人が多いのだ、変なのが紛れているかもしれない。
10年に1度の鉱石掘り祭り、なんて冒険者の間では言われており、希少な鉱石を狙った輩も多いのだろう。
少しでも入口で、そういう輩は弾く必要がある。
今回は、過去に犯罪歴が有る者は入れないそうだ。
俺とシャロは大丈夫だろう。身に覚えは無いし。無いはず⋯⋯。
◇
門の前では順番に馬車が呼ばれると、馬車を降りて例の水晶に手をかざす。
そこで問題ない人達は再度、馬車に乗り込み鉱山都市へと入っていった。
体感で30分位だろうか。
それくらい待ち、いよいよ俺達の乗る馬車の番になった。
結果から言えば、特に問題らしい問題もなく。
全員無事に、鉱山都市へと入ることが出来た。
そのまま門の近くにある、馬車の待機所へと止まった。ここが終点のようだ。
「ルクバトウ鉱山都市へ到着しました〜。またのご利用お待ちしております〜」
御者がそう言うと。
「やっと着いたー」
「良い宿残ってるかしら」
「おい、1杯やりに行こうぜ」
「宿取ってからにしろや」
ゾロゾロと馬車から降り、おもいおもいに行動を開始した。
「俺達も降りるぞー」
「はーい」
馬車を降り、空気を吸う。
ドレスラードとは違う匂いだ、鉄の匂いと云うかなんというか、炭の様な匂いも交じってよくわからんな!兎に角なんか匂いが違う。
匂いもそうだが、街並みも結構違うな。
ドレスラードだと木造の家が多かったが、ココは石造りの家の方が多いな。というより、ほぼ石造りしかない気がする。
やっぱりあれか、鍛冶が盛んだから家が燃えない様にしているのかな?実際の所はわからないけど。
着いてからの予定は事前に馬車で話し合っていたので、早速アナの家に向かう事にした。
「うーん。貰った地図だと⋯⋯。大雑把すぎるな⋯⋯」
「あっちの方かな?」
シャロが指さす方を見る。
確かに地図もあっちを指してる気がする。
というか、地元の人間に聞けばいいじゃないか。そうと決まれば⋯⋯。
俺は辺りを見回し、良い感じに暇してそうな人を探す。
あそこの屋台のおっちゃんに聞いてみるか。なんか旨そうなの焼いてるし。
「よし!シャロあの屋台で聞いてみよう」
「あの美味しそうなの焼いてる屋台だよね?早く行こ―!」
早速屋台に聞き込みを開始した。
「いらっしゃい!兄ちゃんも冒険者かい?」
「そうです。あ、その串2本下さい」
「あたしは3本ー!」
⋯⋯シャロの分も注文したつもりなのだが。まぁいいか。
気を取り直して、アナの家の場所を知ってないか聞いてみる。
「あー、ところで。[白金]ランク冒険者のアナスタシア=ベールイの家ってどこに在るかわかりますか?」
「⋯⋯兄ちゃん、そんな所に何の用があるんだ?」
「え、あー、実は掃除を頼まれてまして⋯⋯。地図は渡されたんですが、どこに在るのかわからないんです」
「そうなのか⋯⋯。気の毒に⋯⋯無理矢理押し付けられたんだろ?1本オマケしとくから、気を落とすなよ?」
「あははは、ありがとうございます⋯⋯」
「ありがとー!」
「魔女の家は、そこの大通りを真っ直ぐ行って、突き当りを左に曲がってさらに真っ直ぐだ。明らかに場違いな家があるから、直ぐにわかると思うぞ」
「わかりました。ありがとうございます」
屋台のおっさんに礼を言い、受け取った串を食べながら教えられた道を歩いていく。
うまいなこれ。何の肉かわからんが。
何故かオマケの串はシャロに盗られた。
大通りを突き当りまで歩き、左に曲がりさらに歩く。
場違いな家ってのはどんな感じなんだろうか。
ここら辺は身分が上の人達の住む場所なのかな⋯⋯。
家の見た目が少し豪華になり始めていた。
そんな事を思いながら歩いていると、明らかに異質な家があった。
両サイドの家は2階建ての大きめの家だが、その間に挟まれ。
同じくらいの敷地に、ポツンと中央に小さい小屋が立っていた。
⋯⋯確かに場違いな家だ。
大きさ的に云えば、以前アナと野営した時に寝泊まりした小屋より一回り位大きい。
まぁ、アナらしいっちゃらしいか。
「可愛いお家だねー」
「かわ⋯⋯いいか?」
「アナちゃんらしいでしょ?」
「⋯⋯そうだな、アナらしいな」
良く分からんが肯定しておこう。
見た目は普通の小屋だと思うんだがなぁ。
アナから預かった鍵を取り出し、扉を開ける。
因みにこの鍵を使わないと、何かの魔法が発動し、痛い目にあうらしい。防犯機能的なやつらしい。
中に入り、〈照明魔法〉で部屋の中を照らす。
部屋の中は、いたって普通だな。
テーブルと椅子が二つに、大きめのベッドに小さめのキッチン。
野営の時に使っていた小屋と、ほとんど同じ見た目だった。違いは少し部屋が広い位だ。
テーブルを指でなぞる。結構埃が溜まってるな。
休む前に軽く掃除しないとな。
シャロと手分けして掃除を開始した。
宿屋の娘という事もあって、シャロは掃除をする手際が良い。
〈清潔魔法〉は意外と魔力を使う為、掃除すべてに使うとぶっ倒れる可能性がある。なのでほどほどに使い、残りの箇所は道具を使って簡単に埃を取り払った。
あ、忘れる所だった。俺は一番大事な事思い出した。
それは⋯⋯トイレに居るスライムの事である。
便座を外し中を覗き込む。
見事に干からびた何かが居た。
「⋯⋯〈水生成魔法〉」
水をかける。
少しの水を掛けると、干からびた体が水分を得て徐々に丸みを帯び始めた。
追加で水を、もう少しだけかける。
トイレのスライムは、プルンとしたボディーを取り戻した。
コレがスライムの特性らしく、飲まず食わずで長時間居ると、干からびて仮死状態になるのだそうだ。消費エネルギーをほぼゼロにして、生き延びる為にそうなるのだとか。意外とたくましい奴らだ。
スライムも復活したので、トイレの心配は無くなったな。
部屋に戻り、掃除の続きをする。
◇
大分奇麗になったな。
眼に見える埃は大体掃除出来たので、今日の分はこれで終わる事にした。
残りの掃除は別日にしようかな、正直疲れた。
シャロも椅子に座り机にグデーッと両手を乗っけて突っ伏していた。
「お腹空いた⋯⋯」
「さっき串食べてなかったか?」
「もっと食べたいー」
「しゃーないな、ほらコレでも食べな」
俺は〈収納魔法〉から取り出した料理をシャロに渡す。
「ありがとー!」
受け取った料理をシャロはムシャムシャ食べる。
そういう俺も少し腹が減ったな、中途半端に食べたせいで食欲が湧いてきちゃったか。
俺も自分の分を〈収納魔法〉から取り出し、シャロと共に遅い夕食を取った。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさまでした」
夕食も食べ終わったので、今日はもう寝る事にした。
シャロがベッドで俺は床でいいかな。そう思っていた。
俺が床に寝袋を敷くのを見たシャロが言う。
「一緒に寝ないの?」
「⋯⋯いや、一応、男と女ですし」
「前野営で一緒に寝てたじゃん。ホラおいでー」
そう言ってシャロがベッドを半分開け、手で叩く。
アナは寝る時は大きいベッドを使いたがるので、この小屋のベッドも2人位なら余裕で寝れる位の大きさがある。
「⋯⋯じゃあ、隣失礼します」
「はーい」
シャロの隣に横になり目を瞑る。
前回はシルバーファングが居たから何とも感じなかったが、今回は2人っきりな訳で、少しドキドキしながらも、俺は秒で眠りについた。
スヤァ⋯⋯zzZZZ




