73.2日目と3日目と・・・。
レッドボアの調理と引き換えに、解体代をチャラにしてもらう為、旨い飯を作らなければいけない。
ブラウンボアの様に、ハンバーグにするのも芸が無い。
かと言って、ただ焼くのも同じことだ。
何かあったか⋯⋯。
〈収納魔法〉の中を物色し、何かないかと考える。
うーん、これを試してみるか。
俺は〈収納魔法〉から、大きめの鍋と油を取り出す。
作ってみますか、トンカツを!
火おこしはシャロに任せ、その間に下ごしらえを終わらせておく。
貰ったレッドボアの肉を切り、小麦粉、卵、パン粉の順で付けていく。
トンカツソースが無いのは痛いが、塩で食べる感じでいいか。
「火ついたよー」
シャロの火おこしも終わったようなので、鍋に油を注ぎ温度が上がるのを待つ。
パン粉を少し散らし、パチパチと直ぐに揚がる。
頃合いだな。
準備しておいた肉を、油に投入する。
バチバチと良い音を奏でる。
きつね色に成るまで、ひっくり返したりして揚がるのを待つ。
丁度いい色で引き揚げ、油をきり。
包丁で食べやすいサイズに切り分ける。
良い色だ。匂いも食欲をそそられる。
早速味見を。
シャロと半分ずつに分け、塩を振りかけ齧り付く。
ザクザクとしたパン粉の触感に、レッドボアの肉の旨味が口いっぱいに広がる。
うまい。肉の味がしっかりしている。これなら塩を掛けなくてもいいかもしれないな。
「美味しー!!」
シャロも絶賛していた。
追加でもう一枚揚げ、解体現場に持っていく。
これでチャラになってくれると良いのだが。
◇
「うまい!向こうに着く迄、解体が必要なら声掛けな。料理と引き換えにタダでやってやる」
解体代はチャラになった。やったぜ。
「追加で肉と必要な材料渡すから、もっと作ってもらってもいいか?」
「まぁ、いいですよ」
「それじゃ頼む」
肉の塊を渡された。
頑張るか⋯⋯。
調理場に戻ると人が集まっていた。
「あ、ソラー!なんかね、さっきの作ってほしいんだってー」
匂いにつられたか、揚げ物の匂いは食欲を刺激するよな。
とは言え、俺もタダ働きをする気はない。
そう思っていると、相手側から提案があった。
「タダとは言わん。必要な材料はコチラで出す、それに夜の見張りも俺達が受け持つ。それでどうだ?」
なるほど⋯⋯。見張りもやってくれるのか。
乗合馬車に関してだが、冒険者は他の客より安く乗ることが出来る。
理由は、道中の護衛を引き受ける事と、夜の見張りを冒険者達で交代で行う。
そういった理由で、冒険者は格安で乗合馬車に乗る事が出来る。
冒険者が1人だけの場合は、どうなるか分からないが。
そんな事は早々無いのであまり気にする必要は無いと思う。
乗合馬車を使うのは冒険者の割合が多いからな。
話を戻そう。
俺達が乗っていた馬車の冒険者、全員分を作る事になりそうだ。
それで夜グッスリ寝れるなら、悪くはない⋯⋯か?
やるか⋯⋯。
シャロには肉にパン粉を付けるまでやってもらい、俺はひたすら揚げる作業をした。
揚げては切り、揚げては切り。
全員が満足した頃、俺達は自分の分を夕食を作っていた。
揚げたカツをパンに挟み、カツサンドにして食べる。
これはこれでうまいが、やっぱりトンカツソースが欲しいな⋯⋯。
鉱山都市へ向かう1日目の夜は、料理をする時間が大半だった。
腹も膨れたら後は、ゆっくり寝させてもらおう。
スヤァ⋯⋯。
◇
2日目。
道中魔物の襲撃が2回ほどあったが、冒険者達は難なく蹴散らしていった。
通常の4倍位の人数が居るしな⋯⋯。
魔物を数で囲んで叩けば、大体死んでいる。
俺とシャロの様に[鉄]ランクの冒険者は、馬車の周りを警護するよう言われていた。
時々、前線を抜けて来た魔物が居るので、それを囲んで叩く。
夜は初日と同様、俺が料理番になっていた。
全員が差し出してきた材料と睨めっこをし、メニューを決め作る。
昨日は揚げ物だったから別のにしようと思ったが、揚げ物希望が多数の為。揚げ物になった。
油も〈清潔魔法〉の効果が効くらしく。
試しに使ってみると元の奇麗な油になっていた。
今日襲撃して来た魔物は鳥系の魔物だったので、唐揚げにした。
昼の内に解体してもらい。
ぶつ切りにした肉を調味料で漬け込んでいた。
あとはバッター液に潜らせ、油で揚げれば完成だ。
片栗粉を使いたいが、それっぽいのが市場では見当たらなかったので諦めた。
揚がった側から冒険者たちが群がり、貪る。
シャロ、お前も手伝ってほしいんだがな⋯⋯。
シャロは旨そうに食べていた。
ひたすら揚げる作業が続く。
漬けていた肉の在庫が無くなる頃、冒険者たちは満足したように、自分たちの巣に戻って行った。
俺もようやく夕食タイム。⋯⋯アレックス君が作った料理は旨いな。
そうして2日目は終わった。
◇
3日目の朝。
何故か俺が、昼食を作る事になっていた。
夜の見張りの内にそう決まったらしい。
その分、道中の魔物の対処はしなくてもいいらしい。
朝は適当に済ませ。
揺れる馬車の中で、シャロと共に昼の下ごしらえをする。
話によれば、陽が暮れる頃に着くので、野営はなしでそのまま走るのだそうだ。
馬車の中で食べれるのも用意しとかないとな。
無事に昼食も食べ終え、馬車は走り続ける。
徐々に枝分かれした道が集合する様に、道はどんどん広く大きくなり始めていた。
それに伴い、馬車の数も少しずつ増え始めている。
他の冒険者に教えられ。
街道の遠くに見える山脈。
そこが今回の目的地である、ルクバトウ鉱山都市なのだそうだ。
目的地が目に見える範囲にあると、ワクワクする。
シャロも目を輝かせていた。
「ソラー!見て!おっきいよ!」
フフ、シャロもまだまだ子供だな。
俺はこの位じゃ目に見えて興奮しないのさ。大人だからな。
「あ、ドラゴン!」
「なに!どこだ!」
俺は馬車の窓から身を乗り出し空を見る。
あ!ドラゴン!ドラゴンだ!かっこいい!
冒険者の1人が言う。
「あれはワイバーンだな。んー、人が乗ってるからどっかの竜騎士か?」
ドラゴンじゃ⋯⋯ない?それでもワイバーンと云えば、ほぼドラゴンみたいなものだ。あのフォルムだけでもうカッコいい。
俺もその背に乗ってみたいな。
馬車は進む。
馬車の数が増えてきたせいか、魔物の襲撃は鳴りを潜めていた。
馬車は進む。
次第に山脈は大きさを増し。
その全貌を露わにする。
山の低い位置から、斜面を利用する様に都市がくっ付いている形をしていた。
ココがルクバトウ鉱山都市。
鉱石を掘る音と、それを加工する音が日夜鳴り響く鉱山都市。
[鉄]ランク初めての依頼。と言っても鉱石を掘るだけの仕事だが⋯⋯。
陽も暮れ始め。
どんどん都市へと近づいていく。
3日間の馬車の旅は終わりを告げようとしていた。




