72.鉱山都市までの道のり1日目。
夜が明ける。
辺りがまだ薄暗い時間帯、俺とシャロは鉱山都市へ向かうべく、宿の入口に集まっていた。
「気をつけて行くんだぞ」
「風邪引かないようにね」
「シャロ、ソラに迷惑かけるなよ?」
シャロの家族から別れの言葉を貰う。
シャロ自身もドレスラードの街を出て、他の街へと行くのは初めてなのだそうだ。
実際、車なんて便利なものは無いので、移動は馬車か徒歩のみ。
そういった理由で、冒険者や商人でもない限りは、街から出ずに一生終える人間は割と多いんだとか。
シャロの両親は元冒険者なので、他の街にも行ったことはあるようだが。
「行ってら——zZ」
アナは寝起きの為か、ふにゃふにゃしていた。
部屋のベッドに戻し、出発することにした。
「行って来るねー!」
「いってきまーす!」
俺とシャロは元気にそう言うと、乗合馬車の待機所まで移動を開始した。
◇
朝一だが、わりと人がいるな。
待機所には結構な人数が馬車を待っていた。
小さい小屋があり、そこで馬車に乗る為の切符が売られている。
列が出来ているがスムーズに進んでいる。
俺とシャロも並び順番を待った。
「どちらまで?」
「ルクバトウ鉱山都市行きのをお願いします。」
「あいよ、2人分だな?ルクバトウ鉱山都市行きは、あそこの少し離れた所に止まってるから」
切符。というより木の板を受け取り、受付の人が指さす方を見る。
他の馬車より少し離れた位置に、5台くらい馬車が並んでいた。
他は1台か2台位なので、ルクバトウ鉱山都市に行く人が多い事を示していた。
受付の人に礼を言い、歩き出す。
木の板にはマークが書いてあり、馬車に付いている木の板と同じマークの所に乗るシステムになっていた。
俺達のは、何故か髑髏マーク。
幸先悪すぎる⋯⋯。
他の馬車のマークは〇や△とかなのになぁ。
目的の馬車の御者に、木の板を渡し中に乗り込む。
中に居るのは殆どが冒険者だった。
俺とシャロに気付いた面々が声を掛けてくる。
「お、ソラとシャロじゃねーか」
「貴方達も鉱山都市に行くの?」
「って事は[鉄]ランクになったんだな」
冒険者ギルドで、時々話をしたりする人達が殆どだった。
俺はアナと出会ってからは、魔女の眷属だの手下だのと言われ、面白がって絡まれることが増えていた。
シャロも俺といつも一緒に居るので、同類のように見られていた。
「こんちゃーっす」
「こんにちは、皆さんも出稼ぎですか?」
「ああ、10年に1度の稼ぎ時らしいからな」
「貴重な鉱石も掘れるかもしれないしね」
「稼げるお祭りみてーなもんだからな」
会話もそこそこに俺とシャロは、アレックス君の用意してくれた朝食を食べることにした。
出発迄まだまだ時間はあるようだし。
取り出した料理を全員がじっと見てくる。
「なんだ、それ」
「美味しそーねぇ」
「シャロの実家の、シャーリー亭の料理ですよ」
一応宣伝しておく。
取り出したのは、ピザトーストもどきである。
トマトっぽい野菜を、すり潰してから色々と加え煮詰めた物を塩で味を整えた、ケチャップっぽい物を使用した1品だ。
俺の記憶にある味とは、結構違うがそれなりに美味い。
美味いが、俺の記憶の中の物と比べればまだまだなので、ケチャップっぽい物の味の改良は、アレックス君に丸投げしてある。
〈収納魔法〉のお陰で熱々だ。美味そうな匂いが立ちのぼる。
「んー!美味し〜」
シャロはそれを美味しそうに頬張る。
それを見た周りの人達はゴクリとツバを飲む。
「それ、まだあったりするか?」
1人が声をあげる。
「ありますが」
俺が料理を作る時は割と大量に作る様にしているので、このピザトーストもどきもそれなりの量を作ってある。
「⋯⋯いくらだ?」
ほぉ?俺は素早く材料費を思い出し、シャーリー亭で出す値段を計算した。
あれがこれ位だから、あーしてこーして。
「これ位でどうですか?」
手で値段を示し、相手の反応を見る。
まだシャーリー亭でも出していない料理なので、その分の値段を少しだけ追加する、少しだけな⋯⋯。
その後、俺の手持ちにあるピザトーストもどきは完売した。
さーて、早速不測の事態になったな⋯⋯。
馬車の全員が食事をし終わる頃には、馬車の出発時刻となっていた。
「ルクバトウ鉱山都市行き出発しまーす」
ゆっくりと馬車が動き出した。
◇
ガラガラと音を立て馬車が街道を進む。
⋯⋯振動が凄いな。
今まで乗っていたのが高級な馬車だったせいか、質の低い乗合馬車の振動にケツが悲鳴をあげていた。
〈収納魔法〉から事前に作っておいたクッションを取り出し、ケツの下に敷く。これで少しは良くなるだろう。
シャロがジッと見つめて来る。
「いいなー」
「⋯⋯ほら」
〈収納魔法〉から、念の為に作っていた、シャロの分のクッションを取り出し渡す。
「流石ソラー!ありがとー!」
「はいはい」
どうせシャロは、その辺の対策を考えてないと思ったが、当たりだったか。
馬車は進む。
ヤバイ暇すぎる⋯⋯。
馬車の椅子に座っているが何もする事が無い、他の人と喋ってもネタは尽きる訳で。
寝ている人もいるが、起きている人は全員無言だ。
そう思っていると。
馬車に備え付けれられている、鐘が鳴り響く。
「魔物だー!!」
俺達を含め、冒険者が馬車から飛び出す。
今いる場所は左右に草原が広がっていた。
左側の草原から、猪の様な魔物が群れを成して襲って来ていた。
1人の狩人が叫ぶ。
「レッドボアだ!」
レッドボア。
ブラウンボアと姿は似ているが、体毛は赤く、体も大きいブラウンボアよりも強い魔物だ。
そして肉が旨いらしい。
「殺せー!」
「逃すな!」
「うまい肉だー!」
ベテラン冒険者達は、アレをうまい肉としか見ていなようだった。
何人か馬車の護衛に残し、全員突っ込んでいった。
⋯⋯ん?後ろから一匹はぐれたのが、こっちに向かって来るのが見えた。
俺達はアレをやるか。
「シャロ!後ろだ!タゲ取り頼む!」
「んー?あ、オッケー!」
シャロに指示を飛ばし武器を抜く。
「〈筋力増加〉!〈挑発〉!」
シャロが自身にバフを掛け、ヘイトを向ける。
レッドボアは、シャロ目掛けて進路を変え、襲い掛かって来る。
進路上に向け、黒く輝く魔法陣を描き。呪文を唱える。
「〈闇の棘〉!」
タイミングを見計らい発動。
魔法陣より漆黒の棘が勢いよく飛び出し、レッドボアに襲い掛かる。
当たった!
だが、威力を少し殺す程度の効果しかなかった。
漆黒の棘が刺さった状態でも、レッドボアは動きを緩めない。
俺の〈闇の棘〉をモノともせず、直ぐにシャロの構えた盾目掛け、その巨体を叩き付ける。
シャロはそれを受け止め。少し後ずさり耐えた。
今だ。
俺は手を上に挙げ、”ある魔法”を唱える。
つい最近覚えた新しい攻撃魔法。
「〈闇の投槍〉!」
黒く輝く魔法陣が出現し、1本の漆黒の槍を作り出す。
魔力によって作り出された漆黒の槍を、レッドボアに狙いを定め、打ち出す。
漆黒の槍はレッドボアの頭を貫通し、地面に突き刺さると四散した。
頭を貫かれたレッドボアは動きを止め、地に倒れ伏せた。
ゴブリン相手に何度か使ったが、レッドボアにも通用するな。
それにしても、ブラウンボアよりも二回り位デカいな。暫く肉には困らなそうだ。
他の冒険者達も終わったようで、雄たけびを上げていた。
〈収納魔法〉にレッドボアを収納した面々が、ゾロゾロ戻って来る。
「いやー儲け儲け」
「美味しいお肉GET出来たねー」
「幸先いいなー」
ベテラン連中は、本当に只の肉位にしか思ってないのか⋯⋯。
夜、馬車が止まったタイミングで解体してみるか。
その後魔物の襲撃はその一回で終わり、日が暮れ始めた頃に最初の野営地へと辿り着いた。
1日目の移動はこれで終わりか、残り2日順調に行けばいいが⋯⋯。
馬車から人々が降り始め、各々テントを張り始める。
よし、俺達もテントを建ててからレッドボアを解体するか。
テントをシャロと協力して建てた後に、他の冒険者が少し離れた所で解体作業を行っているので、そこに移動する。
1人の男が凄い速さで解体を行っていた。
「おー、ソラとシャロかどうした?」
同じ馬車に乗っていた冒険者の1人だ。
俺は答える。
「俺達もレッドボアの解体にきました」
「なんだ、お前らも狩れたのか?やるじゃないか、俺が解体してやるから貸してみな」
「いいのー?」
「ああ、他の連中も俺に任せっきりだしな。まぁ、その分代金は取ってるがな」
お、楽できそうな感じか。
ブランボアと同じ要領だろうけど、デカい分大変な予感はしてたんだよな。
それが金で解決するならそれでいいか。
念の為シャロにも確認を取る。
「シャロもそれでいいか?」
「もちろん!お肉!お肉!」
「ハッハッハ、レッドボアの肉は旨いからな期待しとけ。⋯⋯それはそうと、ソラ」
「なんでしょう」
「聞いた話なんだが、シャーリー亭の料理。あれ、お前が考えたらしいな?もしかしてレッドボアの肉を、更に旨く出来たりするか?」
俺は少し考える。
ふーむ、正直どうだろう。レッドボアの肉は焼くだけでもうまいらしい。
食べた事無いから、どう旨いのか分からないからなぁ。
味見してから考えるか。
「レッドボアは食べた事無いので、味をみてからじゃないとわかりませんね」
「そうか!ならこれ使ってくれ」
そう言って小さめの肉の塊を渡された。
これを味見用に使っていいって事ね。
「その間に、お前らのを解体しておくから。旨い飯作ってくれるなら、代金はチャラでいいぞ」
ああ、そういう目的ね。俺は了解した。
「わかりました。じゃあちょっと試してみますね」
「お肉ー!」
俺とシャロは調理場になっている場所に移動した。




