68.俺とシャロ、歓喜の時
馬車が無事、宿屋の前に辿り着いた。
御者をしていたメイドさんが、ドアを開けてくれた。
俺は先に出てアナが降りるのをサポート。
行きでもやったやつだ。
するとアナが「あっ」と声を漏らした。
俺もアナが見ている方向に振り向くと。
フォークとスプーンを持ったシャロが立っていた。
⋯⋯まだ起きてたのか。
「お帰り!お土産は?!」
「⋯⋯ハァ、ちゃんとあるから落ち着けって」
シャロの食い意地が、どんどん増して行ってる気がする。
最初はそんな事無かったんだけどなぁ。
俺が料理し始めた辺りからか?関係ないと思いたい。
「フフフ。ただいま、なんと!魚料理もあるよ~」
「うおおおおお!やったぁあああ!」
シャロがクルクル回って喜びを表現する。
これだけ喜んでくれるのなら、俺も嬉しい気持ちになるな。
よし!
「ほら!店の前だと邪魔になるんだから中にいくぞ!」
「「はーい」」
俺とアナは部屋着に着替え、1階で打ち上げを開始した。
アナも酒瓶を何本か奪っていたらしく、それを飲みながら3人で料理を食べる。
魚料理うまー!酒うまー!
途中から夜の営業を終えた、シャロの家族も交じり皆で騒いだ。
大変だったが、終わってみれば楽しい一日だったな。
◇
⋯⋯ん?ベッドが硬い。
寝ぼけた頭を起こし、辺りを見る。
「⋯⋯何で外?」
俺は宿屋の表に転がされていた。
⋯⋯なるほど。
シルバーファングはこんな気持ちだったのか。
次からはもう少し優しく、起こしてあげようと心に誓った。
地面で寝ていたので土汚れがひどい。
〈清潔魔法〉でサッと汚れを落とし目を覚まし、宿屋に戻る。
あ”ー、体がバッキバキだ。地面で寝るもんじゃないな。
宿屋の扉を開け中に入ると、シャロが朝食を食べていた。
「あ、おはよー。よく寝れた?」
「地面で寝かせておいてよく言えるな?」
「えー!ソラが自分から、『俺は外で寝る』って言ったんじゃん」
⋯⋯俺そんなこと言ってたの?アホなのか?
いや、記憶に無いからシャロが嘘を言っている可能性もある。
「おう、おはよう。外の寝心地はどうだったんだ?」
⋯⋯本当に自分で外に行ったのか。
俺は答える。
「あー、次からは部屋で寝ます」
「出来ればそうしてくれ」
ホントにな。しっかりしてくれよ俺。
シャロの向かいの席に着き、俺も朝食を取る事にした。
シャロが思い出したように言う。
「あ、そういえばさ。昨日アイリさんがお店に来ててね、今日冒険者ギルドに来てほしんだってー」
「アイリさんが?用件は言ってたのか?」
「いやー、明日来たら分かるーだって」
ふむ。一体何の用だろうか。
何もやらかしてないよな?記憶には無いがもしかしてってのもあるか。
「これ食べたらギルドに向かうか」
「そうだねー」
そういう事になった。
◇
俺達はアイリさんに呼ばれたので、冒険者ギルドへと足を運んでいた。
えーっとアイリさんはっと。
⋯⋯いないな。なら仕方ない。
俺は筋肉モリモリマッチョマンの三人組を探した。
居た。
俺達は3人に声を掛ける。どうも~。
「どうもー!」
「ん?ソラとシャロかどうした?」
「よお、魔女とは仲良くしてるか~?」
「へっへっへ、話をするのは久しぶりだな」
「はい、実はアイリさんに呼ばれてきたんですけど。どこにいるかしりません?」
「アイリの奴にか?俺が家を出る時はまだ寝ていたが」
「コイツラ未だに一緒に暮らしてるからな~」
「へっへっへ、仲の良い兄妹だよなぁ」
この三人組のリーダーと、アイリさんが兄妹というのは正直信じられない。
兄は劇画風の顔なのに、アイリさんは可愛い系の美人さんだ。
以前聞いた話では、兄が母親似でアイリさんが父親似だという。
割と意味が解らない。異世界だからだろうか⋯⋯。
居ないんじゃ仕方がない。
また後で来るか、それともこのまま待つか⋯⋯。
「ん?噂をすればきたぜ~」
指差す方を見ると、受付の席にアイリさんが座ろうとしている。
「アイリさーん!」
シャロが突撃した。
俺は3人に別れを告げてから、シャロを追いかけた。
「アイリさん来たよー。用事ってなーにー」
「おはようございます。昨日宿に来てもらったのに、不在ですいません」
「2人共おはようございます。お気にならず、食事に寄ったついでなので。それでは、2人に要件を伝えしますね」
「ゴクリ」
「ごくり」
2人して息を飲む。
「[鉄]ランクへの昇格が可能となりました。昇格されますか?」
⋯⋯!?
「[鉄]ランクへの昇格!本当ですか?!」
「アイリさん!それ本当?!」
「ええ、本当ですよ」
「うおおおお!やったあああああ!」
「やったー!」
やっとブロンズから卒業できる!これで俺達も本格的な冒険者になる事が出来るわけだ。
世間では[銅]ランクは駆け出しのヒヨっ子扱いだからな。
[鉄]ランクでようやく、冒険者を名乗ることが出来る。
やっと俺達の頑張りが認められたのだ。
答えはひとつだ。
「[鉄]ランクへの昇格手続きお願いします!」
「あたしも!お願いします!」
「はい。ではコチラで手続きを開始しますね。2人共、おめでとうございます」
俺とシャロは今日、駆け出しのヒヨっ子を卒業し、1人前の冒険者への道を、1歩踏み出した。
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