67.お帰りはあちらです。
俺達は後始末に追われていた。
アウラお嬢様は、給仕と何時の間にか現れていた、メイドさんや執事達に、指示を飛ばして忙しそうだ。
その隙に、俺とアナはせっせと〈収納魔法〉にシャロのお土産用の料理を詰め込んでいく。
もちろん、アウラお嬢様の許可は得ている。
「⋯⋯そのくらいでしたらお好きにどうぞ」
呆れながらも、そう言ってくれた。
なので俺達は、遠慮することなく料理をお持ち帰りする事にした。
招待客もメイドさんに連れられ、会場から退出を始めている。
⋯⋯メイドさん達、こんなに居たのか。
給仕の数より明らかに多い。
何時の間にか、数を増していっているのでどこかに隠れていたのだろう。
メイドさんが料理を取り分けてくれるので、お皿を受け取りながら、そんな事を考えていた。
招待客が全員帰る頃には、俺達の回収作業も終わりを告げていた。
正直ここから先は、アネモス家の仕事だ。
俺達はどうするか⋯⋯。
アナの魔法で拘束した連中も、メイドさんや執事達に拘束されている。
その様子を見ながら、アナに問い掛ける。
「俺達も、もう帰っていいかな?」
「そうだね。後はアネモス家に任せとけばいいと思うし。帰ろっか」
帰る事になった。
アナがアウラお嬢様に、帰る事を伝える。
「あらそう⋯⋯、では、馬車を用意させますので少々お待ちを」
そう言ったアウラお嬢様は、メイドさんに指示を出す。
用意が終わるまで、何をしようか⋯⋯。
あっ。
俺は思い出した。
アウラお嬢様に近寄り胡麻をする。
「実はですね。俺の着けてた仮面って元々壊れていたみたいでして⋯⋯」
俺の着けていた仮面が元々壊れていた事を伝え、それは俺のせいじゃないとアピールした。
「あら、そうでしたの。⋯⋯なるほど、だからあの時わたくしの事が解ったのね。仮面につきましてはコチラの不手際、貴方が気にする事ではございませんわ」
ゆ、許された⋯⋯。
頭をペコペコしながら、アナの元へと戻る。
「どうしたの?」
「いや、俺の持ってた仮面が元から壊れてたからな、その事を伝えてきた」
「そうなんだ。⋯⋯パーティーの時、私だって気づいて貰えた時嬉しかったんだけどな〜?」
⋯⋯ニコッ!
俺は満面の笑顔で誤魔化した。
アナが硝子玉のような眼で見つめてくる。
「⋯⋯すいませんでした!カッコつけたかっただけなんです〜!」
と、俺が謝ると、アナはプッ!と噴き出して笑った。
「アハハハ!良いよ、そんなに怒ってないし。でも、今度同じ事があったら、ちゃんと見つけてね?」
「もちろん!」
俺は力強く頷いて、それに応えた。
「アナスタシア様、ソラ様。馬車の御用意が整いましたので、こちらへどうぞ。」
近づいてきたメイドさんにそう告げられ、俺とアナは事後処理に追われるアウラお嬢様に、別れの挨拶を告げる。
「本日はお招き頂きありがとうございました。とても楽しかったです」
「次は事前に話通してね?それと料理ありがと、またね」
「ええ。御二人には、多大な御迷惑をおかけしてしまいましたわね。次、御呼び致す機会がございました暁には、このような事に巻き込みませんので、ご容赦くださいまし」
そう言ったアウラお嬢様は、ペコリと頭を下げた。
そんな簡単な動作でも気品のある所作だった。
「では、俺達はこれで失礼します」
「さようなら」
「貴女方で最後ですから。お見送り致しますわ」
俺達3人と、メイドさん数名で馬車へと移動を開始した。
⋯⋯何故か俺を真ん中にして2人が腕を絡めてきた。
アナは分かるが、何故アウラお嬢様も?
その行動にアナが噛みつく。
「貴女なにしているの?」
「あら、何か問題でも?⋯⋯それともヤキモチかしら?お可愛いこと」
オホホと笑うアウラお嬢様に、アナは更に噛みつく。
「離れて。はーなーれーてー」
アナがグググッと、アウラお嬢様を押し退けようとするも、ビクともしない。
「オホホホ。非力ねぇ、そんなんで殿方を捕まえておけるのかしら?」
「キーッ!」
⋯⋯しょうがないか。
俺はアナに体を、グイッと寄せてくっ付く。
明確に差をつけておけば、落ち着くだろうと思ったからだ。
「アナも落ち着きなって、アウラお嬢様もからかわないでくださいね」
「う、うぅぅ⋯⋯///」
「ふーん。仲がよろしいのね。」
「そうよ。貴族なのに、未だ婚約者のいない貴女と違ってね?」
「⋯⋯今。何かおっしゃいました?」
「いいえ何も~」
俺を挟んで火花を飛ばさないでほしい。
無言で火花を飛ばしながら通路を進む。行きとは違う道だな。
⋯⋯ああ、ココ玄関か。
行きの時はスルーして裏口から入ったが、その時見た正面玄関から俺達は外に出た。
そこでアウラお嬢様はパッと手を放し別れの言葉を述べる。
「今宵は御出席頂き誠にありがとうございます。わたくしは此処までとなりますので、お帰りの際はお気をつけ下さい」
アウラお嬢様は優雅なお辞儀をし、馬車を手で指し示した。
サッとメイドさんが馬車のドアを開け、俺達が入るのをサポートしてくれた。
「今日はありがとうございました」
「それじゃあね」
俺達は再度別れの言葉を告げ、馬車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、走り出す。
あー、なんかドッと疲れが出て来た。
ただパーティーに参加するだけかと思ったのに、まさかあんな事に巻き込まるとはな。
アナも疲れたのか、椅子に腰を深く落とし一息ついていた。
労いの言葉を投げかける。
「御疲れ様、お互い大変だったな」
「そうだね。戦うの事態はたいしたことないけど⋯⋯」
「ないけど?」
何だか含みのある言い方だな。
「胸がキツくて⋯⋯」
「え、あ、お、おぅ⋯⋯」
予想外の返しにキョドる、そう言われると視線がそこにいってしまう。
可能な限り見ない様にしていたのにな⋯⋯。
「それにしても、シャロちゃんへのお土産いっぱい出来たね~」
アナが話題を切り替えた。
よし、思考を切り替えるチャンスだ。消え去れ煩悩。
「そうだな、これであの腹ペコ娘も納得してくれるだろう」
馬車は走り続け、閑静な街並みから徐々に騒がしい街並みへと、移り変わって云った。
離れていたのは、ほんの数時間なのに随分と懐かしく感じる。
優雅のゆの字も無いこの街並み、地面に転がっている酔っ払い達。
煌びやかな世界から、一気に質素な世界に変わった事で、普段の生活に戻ったのだと実感した。
もう少しで宿屋に着く。
アナがそっと体を寄せ、手を添えて来る。
⋯⋯まぁ、宿に着くまでは2人の時間を楽しもう。
俺はアナの手を握り返した。




