62.パーティー開始!
時間が来たら呼びに来ると言われたが、特にすることが無い。
とりあえず受け取った仮面を眺める。
顔全体を隠すタイプではなく、鼻から上を隠すタイプの仮面だ。
紐などはついておらず、顔に着けると落ちずに引っ付く。
頭を降っても落ちないが、手で引っ張ると簡単に取れる。不思議ー。
アナは何か考えてるみたいだ。
メイドさんも、身動きひとつせず無言で佇んでる。
やることないな〜と思いながら、アナに話を振る。
「ところでアナは仮面つけた時、俺のことどういう風に見えてたんだ?」
「え?あー、髪と服の色が違って見えたかも。あと⋯⋯なんか全体的に印象に残らない感じになってた、かな?いや、どうだろ、仮面の模様はハッキリ覚えてるけど、なにこれ記憶が曖昧になってる?」
アナは頭を捻りながら、さっき見た事を必死に思い出しながら答えてくれた。
なるほど、こんな感じにボヤけるのか。
仮面つけるだけで効果があるなんてお手軽すぎるな。
⋯⋯ハッ!?俺は閃く。
「これ使えば誰にもバレずに、色々出来るのでは?」
「その仮面、貴族以外が所持してると、問答無用で捕まるやつだから、気をつけてね?」
俺の考えをアナはバッサリ切り捨てる。
「マジ?そんなん渡されたのか⋯⋯」
「そうだよ?と言っても、効果があるのはこの屋敷の敷地内だけだから、あんまり気にしなくていいよ」
範囲は決まってるのね、なら大丈夫か。
終わったらすぐに返そう。
◇
それから暫く待たされ、ノックの後部屋のドアが開いた。
現れたのは先ほどの執事の人だった。
「大変お待たせ致しました。
準備が整いましたので、ご案内致します。
こちらへどうぞ」
執事の人に連れられ部屋を出た。
やっとか、暇すぎて手持ち豚さんがブーブー鳴いていて大変だったところだ。
腹の虫もグーグー鳴いてる。
執事の人の後をついて行く俺とアナ。
あとメイドさんが、後ろから音もなく付いてくる。
広いなーと、思いながら屋敷の中を移動。
所々に高そうなツボや絵画が飾られており、それは頭の中で思い描く様な、貴族の屋敷そのものだった。
長い廊下をぬけ、何度か曲がり角を曲がると少し豪華な扉にたどり着いた。
ここが、パーティー会場か。
ちょっとドキドキしてきた。いや、かなりしてきた。
「ここより先は、仮面をお付けになられてからのご入場となります」
俺とアナは例の仮面を付ける。
アナより少し前に出て、肘を曲げ脇を軽く開けてスペースを作る。そこにアナはスっと手を添える。
お、いい感じにできたな。
よくテレビとかで有名人がしている様な腕組み、男性が女性をエスコートする時にするやつだ。
腕に幸せの感触が伝わる。
「それでは、お楽しみ下さいませ」
そう言うと執事の人とメイドさんが扉を開けた。
「おおー、ココが貴族のパーティー会場か」
扉の向こう側は、見たことも無い光景だった。
明るく照らされた室内は、煌びやかな世界を映し出し。
床や柱、天井に至るまで細かい意匠が施されており、どこも汚れ1つなくキラキラ輝いていた。
楽器を弾いてる一団も居り、この雰囲気を邪魔しない様に、優しくも静かな音楽を奏でている。
招待客の仮面を付けた人達も居るが、それ以上に給仕の人の方が数多く居り、忙しなく働いていた。
俺が惚けていると、飲み物を給仕の人が持ってきてくれた。
それをアナは、慣れた手つきで俺の分も受け取る。
「どうぞ、ソラ」
「ありがとう」
仮面でお互いの表情が読めないな。
まあ、この光景を見た俺のアホ面を晒さずにすんで良かったと思っておこう。
⋯⋯口元隠せてないやん。ポケーっと口開けてなかったよな?口を引締めた。
アナが、受け取ったグラスを差し出してきたので軽く合わせる。
チンっと軽いガラスの音が鳴り、グラスに注がれたお酒が微かに揺ぎ、中の細かい泡が弾けて混りあった。
アナが一口飲むので、それに習い俺も一口、口に含むと口の中に炭酸の刺激が広がる。少し辛めで、ほのかに柑橘系の香り?⋯⋯いや葡萄か?⋯⋯わからん、とにかく美味い!そんな味だった。
残りを飲みそうになるが我慢。
アナもひと口飲んで止めている。
マナーが分からん⋯⋯。
取り敢えずはアナの真似しとこう。
仮面を着けた人達は、バラバラに固まっていた。
まぁ、見た目がボヤけるらしいし、知り合い同士で固まるよな。
俺もアナの隣を離れる気ないし。
それにしても⋯⋯、料理が無いな。
テーブルは幾つかあるが、白いテーブルクロスが敷かれているだけで上には何も載っていなかった。
ぐぬぬ、当てが外れたか?
そう思っていると、急に音楽の雰囲気が変わり何かが入場する時の様な音楽に変わった。
そして会場にある一番大きな扉が開き、布の掛かった大きな何かが運び込まれてきた。
「⋯⋯なにあれ?」
「なんだろうね?」
「パーティーには、必ずある的な奴じゃないの?」
「あんなの見た事無いかな」
アナとヒソヒソと何だあれはと言い合う。
アレはパーティーに、毎回ある何かではない様だ。布の形からして球体みたいな感じだな。
良く分からない物体は、会場の中央に置かれ、そこに仮面を着けた女性が歩み寄って来た。
アウラお嬢様だ。
物体の前まで来ると、仮面を外し。
その素顔を、周りに現した。
周りを見渡し、アウラお嬢様は、声を張り上げ告げる。
「本日は、御集まり頂き誠にありがとうございます。
まず最初にお詫びから申し上げさせていただきます。わたくしの父である、アネモス家が当主フィーロ伯爵が今朝、急遽王都より召集を受け、母と兄を引き連れ王都へと向かう事となりました。ですので急遽、今宵の晩餐会をわたくし、フィーロ伯爵が娘、アウラが取り仕切る運びと相成りました。皆様方、どうかお楽しみいただければ幸いです」
アウラお嬢様はそう言うと、優雅なお辞儀をその場に居る者たちに披露した。
なるほどー。アナと再度ヒソヒソ話をする。
「娘に任せるって、そんな事あんの?」
「普通はあんまり無いけど、⋯⋯何か企んでるとしか思えないかな」
なるほど。俺は納得した。
マジで俺の身の危険が危ない感じがしてきた。
何事も起きませんよーに!心の中でそう願った。
アウラお嬢様の話はまだ続く様だ。
「それでは本日の目玉である、ロックタートルの規格外な魔石を、ご覧に入れましょう」
そう言うと、控えていたメイドさんが布を取り払った。
⋯⋯あ、そういえばその為のパーティーだったな。俺はパーティーの目的をシンプルに忘れていた。
アナも「あ~」と言っている。
お互い忘れてたね、と2人してハッハッハと笑い合った。
「ていうか魔石あんな球体だっけ?」
「見栄え良くしたんじゃない?」
「もったいない⋯⋯」
元々魔石はゴツゴツした見た目だったのだが、奇麗な球体になっていた。
確かにこっちの方が見栄えは良いが⋯⋯。
削った魔石がちょっと勿体無いな。
「削ったのも、それはそれで使い道有るし、良いんじゃない?」
そんなものか。俺の中の勿体無いお化けが勿体無いと言いながら成仏していった。南無。
魔石を見た仮面の人達は、皆一様におお~と歓声を上げていた。
それ、俺の隣の子が採ったんですよ?とか自慢したら悲鳴上げるかな?
一応、血濡れの魔女が採ったと周知されてるだろうし。
おもむろに仮面取って、どうも~とかしたらどうなるかな?気になるがやめておこう。
そんな事を考えていると、何処からともなく良い匂いがして来た。
俺のお腹の虫がビートを刻みだし、知らないハゲが「ファッキンテンポ!」と言い出した。誰やねん。
別の扉が開き、料理を乗せた台車が次々やって来た。待ってました!魔石とかどうでもいいよね!
台車から降ろされた料理が、テーブルにドンドン設置されていく。
俺の視線はもう魔石から外れていた。
アナと共に、スススとテーブルに移動し、どんな料理が有るのか見る事にした。
ほぉ、流石貴族の料理。
見たことも無いものばかりだ。
テリーヌっぽいなあれ。
あれはローストビーフか?牛なんていたっけ?似たのは居るか。
なんかパイっぽいなあれ。
おー、デカい鳥の丸焼きだ。
パンも有るが普段食べてるのに比べて、元の世界のパンに見た目が近いな。
やっぱり庶民とは食のレベルが違うな⋯⋯。
そして俺は2度見した。
さ、魚だ!魚料理がある!
この世界〈収納魔法〉のお陰で生鮮食品も売られている。
売られているが、海鮮系は総じて高い。
気軽に朝食は、塩鮭~なんて事は出来ない。
だからこの世界に来てから、魚を口にしたことが無い。
テーブルの上に載っている料理は大きい魚の姿煮っぽい。いやデカいな小学生の子供位あるぞ。
側にシェフっぽい人が居るから、取り分けてくれるのかな?
そうしていると料理が出そろったようだ、設置されているテーブルには所せましと料理が並んでいた。
アナと視線が合い、お互い頷く。
さあ始めようか、パーティーを!
お皿を片手に料理に突撃した。
アウラお嬢様は何かまだ喋っていた。




