61.アネモス家令嬢
デカい門を通り抜け、屋敷の中を進んでいく。
門から屋敷へと続く道は、馬車が2-3台余裕で通れる位の道幅があった。
庭にも、色とりどりの花が植えられており〈照明魔法〉によって、その姿がライトアップされていた。
金の掛け方が違う、素直にそう思った。
そのまま道なりに進み。
いよいよお屋敷の正面へと到着した。
⋯⋯おやー?
馬車はそのまま正面を右に曲がり、別の方向へと向かった。
なんで?⋯⋯ああ、パーティー会場は別にある感じか。俺は1人納得した。
「んー?」
何やら、アナさんも疑問に思ってるご様子。
「あれ、もしかして何時も、さっきのトコから入るの?」
アナは以前から、何度か来た事が有るらしいので聞いてみた。
「何時もはそうなんだけど⋯⋯。うーん」
何か訳アリなのか?
さっきまで暢気に、楽しんどけばいいやとか思ってたんだが⋯⋯。
馬車はそのまま進み、屋敷の裏側に止まった。
裏側ではあるが、正面と同じくらい手が行き届いている。
うーん、貴族はこういう所も手を抜かないのか。
そう思っていると、馬車のドアが開きメイドさんが声を掛けて来た。
「アナスタシア様、ソラ様。御到着致しました。足元にお気をつけて、お降りください」
最初からここが目的地だったのね。
俺は行きと同じように先に降り、アナの手を取り降りる手助けをした。
漫画やアニメとかだと、こんな感じだよな?
「ありがとう」
俺とアナは馬車を降り、メイドさんの指示に従い後を付いていく。
アナが腕を軽く絡めて来たので、そのまま腕を組みながら歩く。
なんだか、いよいよパーティーに参加するぞって感じがして来た。
裏側にもそれなりの大きな扉があり、そこから屋敷へと入って行った。
「こちらでお待ちください」
そのまま、メイドさんに部屋に通され、待つように言われた。
「パーティーってこんな感じなの?」
アナに普段もこんな感じなのかを聞いてみると、どうも違う様だ。
「ううん。何時もは正面から通されるんだけど⋯⋯。何企んでるんだか」
アナの眼つきが少し鋭くなり、何かを考え事をし始めた。
どっちにしろ、イレギュラーな事態って事ね。おk、把握。
「それにしても⋯⋯」
そこで言葉を区切り、部屋を見渡す。
「すっげぇ豪華な部屋だな」
メイドさんに通された部屋は、かなり豪華な部屋だった。
広さだけでも、シャロんちの宿屋位ある。
凄い模様の絨毯に、細かい意匠の施されたテーブルと椅子。
カーテンもかなり高そうな雰囲気を出していた。
天井にはシャンデリアもあり、キラキラ輝いていた。
正直此処がパーティー会場と云っても納得する位、豪華な部屋だった。
「うーん。ここ来客用の一番いい部屋だね。⋯⋯まぁいいや、座ろ?」
アナはそう言い、椅子に座り隣を手でパンパン叩く。ここに座れって事ね。
断る理由もないしな。俺は素直に隣に座った。椅子ふっかふか~。
少しだけ2人の時間を過ごしていると、部屋の扉がノックされ。
その後、ガチャリと扉が開き。
メイドさん、初老の執事、金髪で豪華なドレスを着た女性が入って来た。
「何企んでいるの?」
お互いの挨拶を飛ばして、アナが言い放つ。
「あら、こんばんわの挨拶も出来ないのかしら?相変わらず、せっかちな方ですこと」
ホホホと笑う女性。
金色に輝くウェーブの掛かった金髪に、ド派手な赤いドレスを着た女性は、アナに負けず劣らずの美少女だった。
「さて、貴女の事はご存じですけれど。そちらの殿方を紹介してもってもいいかしら?」
「⋯⋯ッチ。コチラは”私”のパートナーのソラよ」
なんか、すごい私という部分を強調したな。えーっと。
俺は立ち上がり答える。
「初めまして。本日は御招き頂き、ありがとうございます。アナスタシア=ベールイのパートナーとして参りました。ソラと申します。以後お見知りおきを」
⋯⋯こんな感じでいいか?俺の知識をフル稼働して、それっぽい感じにしてみたが。
金髪の女性は、真っ直ぐに俺を見つめ言う。
「お初にお目にかかります。フィーロ・アネモスの娘。アウラ・フォン・アネモス・ドレスラードと申します」
ドレスの裾を軽く持ち上げ、背筋を伸ばしたまま挨拶をした。
おお、リアルカーテシーだ!漫画やアニメで見たあの動作を生で見られて少しテンションが上がった。
勿論、表には出さない。
凄い。只の挨拶なのに気圧されそうだ。
コレが生の貴族令嬢。
「それで。何でこの部屋に通したの?」
アナが普段は見せない様な、ぶっきらぼうな態度をとっていた。
⋯⋯仲悪い感じ?
アナの問いに、アウラお嬢様が椅子に腰かけ答える。
「本日のパーティーは全員、認識阻害の仮面を着けてもらいますの。貴方の採った魔石のお披露目ではありますが、その場に血濡れの魔女がいらっしゃると、他の方々が怯えてしまいますもの。必要な処置だと思ってくださいまし」
アウラお嬢様のその物言いに、俺はムッとなったがアナに手で制された。
「つまり、私たちが正面から入るのを、誰にも見られたくなかったって事でいい?」
「ええ。一応、他の方よりも早めに来てもらいましたの」
アナは少しだけ考える仕草をし。
「⋯⋯ソラに危害加えたら殺す」
「⋯⋯何で俺?」
思わず声に出た。
「ホホホ。貴方の側を離れなければ、問題はございませんわ」
え、俺。危害加えられる恐れあるの?え?
「セバス」
アウラお嬢さんが指パッチン。
執事の人が何かを俺達に差し出した。
「⋯⋯仮面?」
同じ柄の仮面を2つ渡された。
セバスという執事の人が説明をしてくれた。
「こちらの仮面を着けますと。仮面を着けた者の認識が、ぼやける効果があります。実際着けてみた方が効果を実感しやすいかと」
⋯⋯なるほど。なるほど?取り合えず着けてみればいいのね。
俺は仮面を着けた。アナも同じように着ける。
うーん、何か変わったか?俺の眼に映るアナは、仮面を着ける前と、そう変わらない姿をしていた。
「へー。初めて着けるけど、本当に効果あるんだ」
アナはどうやら違う見え方をしている様だった。
お、俺だけか?⋯⋯ハッ!
ははーん。そうか、解ったぞ。そう云う”体”で楽しむ感じだな?それなら俺も乗っておかないとな。
「なんか不思議な感じだな、こう、うまく言えないけど」
あやふやな感じで答える。
アナは仮面を外し、更に問いただす。
「それで?私達はどうしてたらいいの」
「特別な事は何も。今宵のパーティーをお楽しみくださいまし」
アウラお嬢様はそう言うと、立ち上がり。
「それでは、ごきげんよう」
お嬢様特有の別れの言葉を残し、部屋を出て行った。
メイドさんがその場に残り、執事はお嬢様に付いて行った。
3人だけの場に沈黙が流れる。
アナも何かを考えている様子だし。
俺は手に持つ仮面を眺めながら、時間が経つのを待った。




