54.勇者パーティー結成〜勇者side〜
いきなり第1騎士団と、訓練をする事になったんだけど。
訓練と言われてもなぁ。
剣なんて持ったことも無いし、そもそも喧嘩自体が経験ないんだけど⋯⋯。
団長さんが口を滑らせて、僕が勇者である事をバラしてしまった事により、面倒な目にあっていた。
「本当にお前が勇者なのか、試させてくれないか?」
短髪で眼つきの悪い男が、近寄り木剣を突き出し、そう告げる。
見た感じ同い年位だろうか。
いきなり知らない人を、勇者だと言われても信じられなかったんだろう。
それは仕方のない事なのだろうが、もう少し別の方法は無いんだろうか。
「どうします?」
団長さんに助けを求めたが、あっさり断られた。
「うーむ。まぁ良いんじゃないか?俺も君の実力は知っておきたいしな」
ダメか。チラリと副団長さんを見るも。
「危なそうなら止めます。すまないが、付き合ってもらえないだろうか?」
ダメか⋯⋯。ハァ、この2日で何回溜息をつけばいいのだろうか。
正直、体育の時の剣道位でしかこう云うのは、触ったことが無いんだけどなぁ。
手渡された木剣は、記憶にある竹刀よりも重い。
これを振り回して叩き合うのか⋯⋯。
当たれば痛いで済まされないぞ。
それに当たり所が悪ければ死ぬ可能性すらある。
ゴクリと息を飲む。
⋯⋯しょうがない、覚悟を決めよう。
他の人達が円になり場所を作っていた。
そこに向け足を動かし進みだす。一歩が重い。手が震えているのがわかる。
もういっその事、開き直ってこの人に八つ当たりしてしまおう。
いきなりこんな世界に呼び寄せておいて。
自分は忙しいから他の者に任せると。
王様だから仕方ないのかもしれないが無責任過ぎる。
⋯⋯段々と腹が立ってきた。
そもそもなんだよ、手紙に書いてあったから召喚したとか。
そんな理由で僕は、人生を棒に振らなくちゃいけないのか。
ムカつくな⋯⋯。
足の重さが消えた、手の震えも⋯⋯もう無い。
うまくやれるかはわからないけど。
⋯⋯目の前の男には悪いが、この怒りをぶつけよう。
円の中心に行く。
お互いが距離を取った位置で立ち止まり、構える。
僕のは剣道の基本の構え、名前は中段の構えだったかな。
相手は足を肩幅位に開いて、剣を下向きにして構えている。
下から切り上げる感じかな⋯⋯、それとも他の振り方があるのかもしれない。
意外と冷静な自分がいる。
団長さんが、中央に立ち宣言する。
「それじゃあ。審判は俺がやる、お互いやり過ぎるなよ?よし、では⋯⋯。始め!!」
合図とともに、男が地を蹴り向かってくる、対して僕は動かず相手の出方を見ていた。
予想通りというべきか、下から上げる様に木剣を、切り上げる。
⋯⋯うーん?思ったより早くないな。
木剣を引き後ろに一歩下がる、それだけで相手は空振りした。
振り上げた木剣を、素早く手前に戻し突きを繰り出す。
何だかこれも遅く感じる。
木剣の中ほどで突きを弾き、弾いた勢いを使い剣道の様に小手を繰り出す。
当たった。
⋯⋯当たるんだ。でも油断は出来ない。
手に当てた木剣を素早く引っ込め、少し距離を取る為に数歩下がる。
周りから、「ほう」だの「やるな」だの聞こえて来る。
一気に決めるか?いや、罠の可能性もある。相手の出方を見よう。
ピタリと止まり、相手の出方を伺う。
⋯⋯ん?なんだか、雰囲気が変わった気がする。なるほど、手加減していたのか。
なら、ココからが本番か。
今度は木剣を肩に担ぐ様に構え、突っ込んで来た。
男は肩から斜めに振り下ろす。
それを木剣で受け、剣の腹を地面に向け倒し。そのまま木剣を滑らせるように、胴体へと木剣を叩きこんだ。
⋯⋯しまった!思ったよりも勢いが付き過ぎてしまった。
木剣を叩きこんだ相手は体をくの字に折り曲げ、そのままゴロゴロと転がって行った。
勢いは付き過ぎたが、力はそこまで入れてないんだけど⋯⋯。
「勝者ツバサ!」
団長さんが、決着を告げる宣言をした。
「⋯⋯クソッ!」
男は拳を地面に打ち付け、悪態をついていた。
一応僕の勝ちでいいのか。
⋯⋯僕は片膝を付いて、悔しがっている男に近づいた。
「いい勝負でした。その⋯⋯また、手合わせを御願いしてもいいですか?」
男に手を差し出し、そう告げる。
男は僕の手を取り立ち上がり、言う。
「お前が勇者だって認めてやる。でも⋯⋯次は負けねー。」
「ええ」
自分から仕掛けて置いて、負けるのもどうかと思うが、それを口にするほど馬鹿じゃない。
それに空は何時も、自分が負けても相手を褒めてたしね。
真似をする位はいいだろう。
団長さんは、うんうんと頷いていた。副団長さんは、僕を見る目が真剣な物になっていた。
何はともあれ、怪我が無くてよかった。それに木剣で殴って少しだけストレス解消にもなったし。
その後は、お昼頃まで第1騎士団の訓練を一通り見学した。
あの男以外に、挑んでくる人が居なかったのは幸いだったかな。
昼食のタイミングで、メイドさんが呼びに来てくれたので、それに従う。
正直疲れた。見学だけのつもりが木剣で打ち合ったりしたし、その後も色々理由つけて訓練に参加させようとしてくるし⋯⋯。
昼食が用意してあるという部屋の扉を開けると、更に疲れる事がわかった。
第2王女のライラ様がそこにいた。
「勇者様!お待ちしておりました」
僕の顔を見ると、パッと笑顔になったお姫様は席から立ち上がり、小走りで近寄って来る。
腕にギュッと抱きつかれた。
腕に、胸を押し付けるのはやめて欲しいな⋯⋯。
「ささ、勇者様。此方へどうぞ」
「ライラ様、その、腕に抱きつかれると歩きづらいのですが⋯⋯」
正直離れてほしい。どうも胸の大きい娘は苦手だ。
「うふふ。勇者様ったら、よろしいではないですか」
宜しくないんだが、本当に離れてほしい。
無理矢理席に着いて、一緒に昼食を取る事にした。
⋯⋯ハァ、本当に疲れる。
「そうだわ!勇者様、この後パーティーのメンバーを紹介いたしますね」
「⋯⋯パーティーメンバー?初めて聞いたのですが」
「あら、ブルーノから聞いていませんか?騎士団から1名、宮廷魔術師から1名、教会から1名。勇者様の為の、パーティーを組むために選出してもらいました」
「その顔合わせをこの後すると?」
「はい。その通りです」
なるほど、今後はそういう感じで進めるのか。
少なくともその3人とは仲良くしないといけないか。
その位なら問題ないか⋯⋯。
ライラ様と昼食を取り、その後また別室へと向かわされた。
広すぎて移動だけでも時間が掛かるな⋯⋯。
当然の様にお姫様は隣を歩いて、異世界の事や僕の事を色々聴いてくる。
よく喋る子だ、僕の中のお姫様ってのは、もう少し大人しいイメージなんだけどなぁ。
前を歩くメイドさんが、ある部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。
やっと着いたか。
部屋の中には、団長さんに、白いローブの人、それともう1人、教会の人が着るような服を着た老人がいた。
隣にいるお姫様を見て、3人は直ぐに膝を折り跪いた。
「楽にして構いませんよ」
お姫様は、先程とは打って変わった、威厳のある声でそう告げた。
年相応の声から、一気に大人びた声に変わって一瞬ギョッとした。
⋯⋯なるほど、これが王族か。
切り替えの仕方が凄いな。
3人は立ち上がり、教会の人が代表して話し出す。
「姫様。本日はどの様な、ご要件でしょうか」
「勇者様のお仲間になる、方々を見に来たのです。構わないでしょう?」
「そうでしたか。此方としては何も、問題は御座いません」
メイドさんが椅子を持ってきて、お姫様の隣に置いた。
「ライラ様。お椅子をお持ち致しました。こちらへどうぞ」
「ええ。私はココで座って観ているだけだから、気にしないでちょうだい」
そう言って椅子に座った。
「では、隣部屋の方々を連れてまいりますので、少々お待ちください」
メイドさんはペコリと一礼し、部屋を出ていった。
5人とも無言のまま時間が流れ、ガチャりと扉が開いた。
時間にしても、1分位だが長く感じた。
「御三方をお連れ致しました」
部屋に3人の人間が入ってきた。
⋯⋯1人は昼間打ち合った、目つきの悪い男だ。
残りの2人は女性で、見るからに魔法使いの格好をした小柄な子と、シスター服を着た女性だった。
3人はそれぞれの上司?の前に移動した。
年齢がみんな若い気がするんだが⋯⋯。
「よし!それじゃ3人とも、自己紹介をしてくれるか?」
団長さんが男の肩をパンと叩き促す。
「俺の名前はアインだ」
目つきの悪い男はアインというらしい。
⋯⋯終わり?終わりらしい。次の子が喋りだした。
「えーっと、私の名前はニノよ。⋯⋯背は低めだけど、宮廷魔術師の中では最年少で、才能があるわ!私が仲間になってあげるんだから、光栄に思いなさい」
生意気そうだなー。空なら速攻で身長をいじるだろうな。
「ミカサと申します。まだまだ半人前ですが、よろしくお願いします」
普通だ。多分この3人の中で1番頼りにできそうな人だ。
「異世界から来ました。ツバサといいます、これからよろしくお願いします」
僕も無難なのでいいか。
僕達が自己紹介を終えると、上司の3人がそれぞれ選んだ理由を話し出した。
「本当は、別のヤツに任せるつもりだったんだかな。昼間の打ち合いで、一緒に学ばせた方がいいと思ってな、急遽コイツに変えた」
この人は思った以上に単純だな。
「この子が言った通り、宮廷魔術師の中では最年少でね、生意気だが根はいい子だ。仲良くしてやってほしい」
⋯⋯同年代と過ごさせる為に選んだのかな?
「彼女は神託によって、選ばれた聖女なのです。きっと、勇者様のお力になるはずです。どうかよろしく頼みます」
彼女だけちゃんと理由があるみたいだ。
勇者と聖女か、よくある組み合わせだね。
教会側の思惑でもあるのかな?
そのあとは特に語ることも無く。
顔合わせは終わった
その後、勇者パーティーはお姫様のお茶会に連行された。
お妃様も居たので、3人とも緊張していたな。
陽も沈み。
王様一家と夕食を共にし。
ようやく解放され、部屋に1人になる。
「疲れた」
備え付けのソファーに、座り込み項垂れていた。
あー。⋯⋯あれでも見て癒されよう。
前日、教わった生活魔法とやらの〈収納魔法〉を開く。
取り出したのは、一緒に転移してきた学生鞄。
カバンの奥の底板を外し、1冊のアルバムを取り出し。
パラパラ捲る。
1枚1枚、撮った時の思い出を振り返る。
この時のは幼稚園の遠足だっけか。
これは小学生の頃のだな。
幼い頃の面影のある顔を見ると、自然と笑みがこぼれる。
アルバムを捲りながら思い出に浸っていると最後の写真になってしまった。
空きはまだ有るが、それを埋める手段がこの世界には無い。
最後の1枚。
体育祭での写真だ。
空が借り物競走で、僕をゴール迄引っ張って行き、見事に1位を取った。
その時に撮った写真だ。
写真には、二人の男が肩を組んで笑っている姿が映っていた。
⋯⋯片方の男が手に持つ紙には【親友】と書かれていた。
僕は、〈収納魔法〉の奥底に大事なアルバムをしまい。
ベットの上で瞼を閉じた。
「また会いたいよ、空⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「ぶえっくしょん!!」
「うわ!汚い!いきなり何すんのさー」
「悪い悪い。急にくしゃみが⋯⋯」
「それよりさー。明日はどうするー?早速狩り行く?」
「いや、俺に狩りはまだ早い。ギルドで少し鍛えてからにするわ」
「ふーん。じぁさ、あたしが鍛えてあげるよー!あたしタンクだから、防御には自信あるんだよねー」
「良いのか?」
「もちろん!」
「それなら、お願いします」
男はペコリと頭を下げた。
別々の場所
別々の出会い
それぞれが進む道が違っていても
いずれ交わるその日まで
2人の異世界人は、お互いのやるべき事をなすだろう
その道の先が、どんな結末であろうとも
*次回からソラの話に戻ります。




