52.異世界転移は城からスタート。〜勇者side〜
友人の空と共に教室の扉を開けると、強烈な光が視界を埋め尽くした。
突然の事に体が硬直していた。
視界が白く染まり目眩がする。
目が慣れてきた頃。
自分の周りから声が聞こえてきた。
「おお!成功だ!」
「我々は偉業を成し遂げたぞ!」
「早く、陛下にお伝えしなければ」
他にも色々な人間の声がする。
まだ目がチカチカする。
その場に片膝をつき、荒くなっていた呼吸を整える。
近くで、ヒールという声が聞こえてきた。
暖かい何かに、身体が包まれるような感覚と共に、体調が良くなるのを感じた。
目も、もう大丈夫だ。
下を向いていた顔を上げ、辺りを見回すと。
そこは見覚えのない場所だった。
石造りの部屋に、一目見て魔法使いと思える様なローブを着ている人たち。
なんだ、ここは⋯⋯?。ドラマや映画のセットなのか?それにしては、やけに手が込んでいる。まるで本物の様だ⋯⋯。
はっとして叫ぶ。
「空!?」
自分の周りを見渡すも、空の姿が無い。
先程まで一緒だった友人を探すも、それらしき人物は何処にも居なかった。
心臓の鼓動が早くなる。
ドッキリにしては手が込み過ぎている。
そもそもドッキリなんてする意味が無い。自分は有名人でもない、ただの一般人だ。
「勇者様。お加減はいかがでしょうか?」
ローブを着た人物が近づいて来て、そう告げる。
勇者様?僕の事を言っているのか?状況がわからない⋯⋯。
流石に警戒した方がいいか。
肩に掛けていた手提げカバンの持ち手を握り、何時でも振り回せるように身構える。
僕の仕草を見て、目の前に立つローブの人物は慌てた様に言う。
「お、お待ちください。我々は、貴方様に危害を加える気はございません!」
目の前に居るローブの人物、声からして男だろう。
そのローブの男は、そう言うと両手を肩より上に上げ敵意がない事を示した。
⋯⋯だからと云って、素直に信じる様な状況じゃない事は確かだ。
身構えたまま周りを見ると、周りも同じように手を肩より上に挙げていた。
正直どうしたらいいのかわからない。
こんな時、空が側に居てくれていれば⋯⋯。
このままでは埒が明かない、目の前に居る人物達の目的を知らなくては。
「あなた達は一体、何者なんですか?」
声が少し震える。
こんな状況では仕方ない。
それでも、精一杯の虚勢を張る。
「我々は、アガーレムヴ王国に所属して居る宮廷魔術師です。この度は、勇者召喚の儀により。勇者である貴方様を、異世界より召喚した次第にございます。」
一歩前に出たローブの男が言う。
⋯⋯?何を言っているんだ?勇者?僕が?
目の前の男が何を言っているのか、理解が出来なかった。
アガーレムヴ何て国の名前は聞いたことが無い。
それに魔術師と言ったか?勇者召喚?異世界?意味が解らない。頭の理解が追い付かない。
「言っている、意味が、理解出来、ないんですが⋯⋯」
言葉が詰まる。
男の言う事が本当なら、ココは地球ではないという事か?
その考えが過った事により更に鼓動が早くなる。
異世界⋯⋯、つまりそれは⋯⋯。
空や家族とは、もう会えないという事か?
⋯⋯ふざけるな!何の権限があってそんな事が出来るんだ!声に出せない怒りが沸き起こる。
此処で怒りに身を任せても、状況は悪くなるだけだ。
湧き上がる怒りを、理性で無理矢理押さえつける。
その時、扉がバンッと開かれる音がした。
その瞬間まで、扉の存在を認識できていなかった。
部屋である以上扉は有るはずなんだ、その事を失念していた。
もしも扉から近かったなら、そこから逃げ出すことも出来ただろうに。
扉の方を見ると、意匠の凝ったローブを着た人物が立っていた。
それに色も違った、他が黒いローブを着ているのに対して、この人物は白いローブを着ていた。
その白いローブの人物が声を大にして言う。
「陛下がお待ちだ。勇者殿を連れ、直ぐに謁見の間へと参られよ」
他の黒いローブを着た人達が、頭を下げていた。
恐らく、この白いローブの人物が一番偉いのだろう。
周りの黒いローブが距離を詰めて来た。
⋯⋯素直に従った方が良いだろうか。
只の高校生の僕が抵抗したところで、対した脅威にはならないだろう。
それならいっそ、流れに身を任せた方がましなんじゃないだろうか。
様子を見る為に、一旦白いローブの言う事を聞くことにした。
「わかりました」
周りを黒いローブの人達が固める。
隙をついて逃げるのは無理そうか⋯⋯。
その後、石造りの部屋を出た。
どうやら最初に居た部屋は地下だったらしく。
階段を上る事が多かった。例の陛下と云う人物に会うべく、道を進んでいた。
歩いていると徐々に通路が豪華になっていった。
テレビで見るような宮殿の様だ。
白いローブの人の後を付いて行き。
大きな扉の前に辿り着いた。
他の扉に比べ、意匠の凝った造りをしている。
一目見て、この扉の向こうに居る人物が陛下なのだと感じた。
扉の側に待機していた、兵士が扉を押し開ける。
扉の向こうは見たことも無い程の豪華な空間が広がっていた。
柱や天井、細部にわたって意匠が施されており、金や銀、所々に宝石も散りばめられたその空間は、見るものを圧倒する光景だった。
先程までの怒りは消え失せ、見たことも無い光景に息を飲んだ。
思わず入り口で立ち止まるも、ローブの人達に急かされ前へと進まされた。
1歩部屋に足を踏み入れると、ピリピリとした空気が伝わってきた。
レッドカーペットが中央に敷かれ、その上以外は立ち入らせないという様に、レッドカーペットの脇に鎧を着込んだ人間がズラリと隊列を組むように並び、身動き1つせずに佇んでいた。
自ずと視線は前に向けられた。
数段高くするための階段があり、その上には一目見て玉座とわかる豪華な椅子があった。
そこに1人の人物が座っている
見た目の歳は4-50位だろうか、自分の親と比べて老けているという印象があった。
白い髭を蓄え、ガッシリとした体格をしている、煌びやかな衣装を身にまとい。頭には金色の王冠を載せていた。
「良くぞ参った。異世界の勇者よ」
⋯⋯威厳のある声だ。
その声で、周りのローブの人達がいつの間にか、膝まづいていた事に気づいた。
慌てて周りの様に、膝まづこうとした時。
「畏まらずとも良いぞ、勇者よ。立ったままで構わぬ」
白いローブの男をチラリと見ると、頷いた。
言われた通りにした方がいいのだろう。
曲げかけた膝をのばし、胸を張る様にして立つ。
「ふむ。良い面構えだ」
さて、喋ってもいいのだろうか⋯⋯。
王様と向かい合う、なんてした事が無いからわからない。いや、そもそも一般人にそんな経験ある方がおかしい。
黙っている僕に、王様の横に控えている恰幅のいい男が喋り出す。
「陛下。勇者殿は、困惑なされているご様子です。わたくしめから、状況のご説明をしても宜しいでしょうか?」
「うーむ。困惑するのもやむを得ん⋯⋯か。大臣、任せるぞ」
恰幅の良い人は大臣なのか。
丁度いい、この状況の説明をしてくれるなら、それに越したことは無い。
その後、大臣から聞いた話をまとめると。
100年程前にも、勇者が異世界より召喚され。幾つもの国の争いが無くなったという。
争いを収めた勇者はフラリと何処かへ消え、時折様々な地でその名を轟かせたという。
勇者召喚より100年が経ち。平和な世が続いたが最近になって、ある問題が起きたという。
王国内にある領地の街を1つを、魔王に占拠されてしまったとの事。
魔王となっているが、占拠した本人がただそう言っているだけで、実際に魔物や魔族を引連れて、悪さをしているということも無いらしい。
本当にただその街に居座っているだけならいいが、元々の住人達は追い出され、街に入ろうとする者は排除されているらしい。
正直、放っておけよ。と思ったがそうもいかないという。
魔王の占拠した街は特殊な鉱石の採掘地であり、これを手放すのは大きな痛手だという。
軍を差し向けるも、その全てを撃破。
器用な事に重傷者は居るものの、死者は居ないという。
武器や鎧だけが壊され只々、出費だけが嵩むという。
そんな事が半年続いたが、先月。
魔王が国の使者に手紙を届けさせた、内容は。
[半年待つ、勇者を連れてこい]
手紙には、それだけしか書かれていなかったという。




