51.異世界転移は突然に 〜勇者side〜
夢を見ていた。
ここ最近、よく見る夢。
何時も僕は一人の男と対峙していた。
「なぜ君と戦わなければいけないんだ!!」
目の前に居る男に。
僕は声を荒げ、叫んでいた。
「他に⋯⋯、他にも何か方法があったはずだ!」
その問いに答える様に、男が何かを言っている。
けれど、その声が何を発しているのか解らなかった。
夢の中の男は腕を持ち上げ、僕に掌を向ける。
すると黒色と緑色に輝く魔法陣が浮かび上がり、黒い矢の様な物が高速で打ち出された。
咄嗟に回避し、直ぐに手に持つ剣を構え身構える。
空中に幾つもの魔法陣が出現する。
先程と同じ黒い矢が何本も撃ち出してくる。
それも何とか回避し、それでも避け切れない矢は、手に持つ剣で弾き。防いだ。
そうか⋯⋯。
君はもう⋯⋯。
1つの考えが頭の中を支配する。
覚悟を決めなければいけないのか。
それならば、いっそ僕の手で。
男に掌を向け、呪文を唱える。
――瞬間。
空気を切り裂く稲妻が自身の掌から迸る。
寸前の所で其れを回避され。
相手も魔法を発動させた。
地面に黒と緑色に輝く魔法陣が浮かび上がり、太く長い円錐状の棘が幾つも飛び出して来た。
地を蹴り。何とかソレを飛び上がる事で回避する。
空中に魔力で作り出した足場を蹴り、距離を取った。
十分に距離は取れた。
ココからは、本気で君を⋯⋯。
切り札の、とある呪文を唱え。
バチバチと云う音と共に、その身に雷を纏う。
手に持つ剣を再度握りしめ、地を蹴り距離を詰める。
男に向けて剣を振り下ろすも、男は手に持った剣で軽々と受け止め。
反撃の為の魔法を即座に撃ち出して来た。
その魔法を空中へと飛び上がり回避し、唱えた雷の魔法が男に向けて降り注ぐ。
当たった! 雷が直撃し男は悶える。
「ぐぅぉおお!」
男は苦し紛れに、幾つもの魔法を放った。
破れかぶれの魔法なのか、狙いが甘い。
男の動きが鈍い、まだ体が痺れているのだろう。
地に降り立ち。切っ先を男に向け。速度を重視した突きを繰り出すべく構える。
コチラの動きを見た男は、肩に剣を構えた。
一瞬の静寂。
地を蹴り一気に駆け出す。
自身が身に纏う、雷の光の軌跡を空間に残しながら。
時間にしてほんの一瞬だが、僕にとっては永遠とも言える様な時間だった。
そして。
僕の剣はあっさりと男の胸を貫いた。
その事に、酷く驚いた。
その手には、何の抵抗も感じなかった。
だからだろう。
「な、なんで⋯⋯」
消え入りそうな声で、何とかそう呟いた。
きっと僕は驚いた顔をして、男を見ているのだろう。
あまりの事に、後づさり。その拍子に刺さった剣が胸から抜け。
ガシャンと、手から零れ落ちた。
男は口から血を吐きながら。
前のめりに倒れそうになった。
それを咄嗟に受け止める。
受け止めた手の震えが止まらない。
「どうして⋯⋯。なんで、こんな事を⋯⋯」
男の口が動いた。
しかし、その口から零れる言葉が何なのか。
僕は知る事が出来なかった。
◆
ピピピピピ。
携帯からアラームの音が鳴り響く。
⋯⋯朝か。
寝覚めは最悪だった。
最近、見るようになった夢のせいだ。
初めの頃は曖昧だったが。日数を追うごとに、どんどん鮮明になっていく。
それに、ここ数日はやけにリアル感じる。
音や匂い、肌に伝わる感触。
全身の痛みも感じていた。
その中でも1番嫌なモノは、掌に伝わるあの感触。人を刺した事は無いが、あんな感触なんだろうか。
「⋯⋯ハァ」
思わず溜息が漏れる。
「⋯⋯そろそろ準備しないと」
夢のせいだろうか、重たい体を無理矢理起こし、学校へ行く準備を開始する。
「行ってきます」
家族に声をかけ、家を出た。
扉を閉めた瞬間。
なぜか、もう逢えないのではないか。
そんな考えが頭を過った。
「まさかね」
馬鹿な考えだ、そう思いかぶりを振り歩き出した。
きっと夢のせいで、ナイーブになっているんだと思う。そう思う事にした。きっとそうだ。そう自分に言い聞かせ、歩き出した。
何時もの通学路。
毎日通うその道は、なんの変化もなく。それが当たり前だと云う様にいつも通りだった。
当たり前の光景。
後ろ姿でもわかる、その人物は何時もの様にそこに居た。
普段通りに声をかける。
「おはよう。空」
「おう、おはよう」
立ち止まり、振り返った彼は普段通りだった。
彼の隣に移動する為、少し小走りになる。
彼とは幼稚園の頃からの友達だ。僕は彼の事を親友だと思っている。
彼の名前は宮野空。
出会いは幼稚園の頃、両親の都合でこの街に引っ越してきた僕は、幼稚園に途中から編入し、1人で過ごしていた。
編入が秋の頃だった為、それぞれ仲のいい友達も出来上がっている頃だったからか、僕はあまり馴染めずにいた。
部屋で1人静かに遊んでいた僕に、空は声を掛けてくれた。
その事は今でも覚えている。
「超協力プレイしようぜ!」
いきなりやって来た彼が何を言ってるか分からなかった。
そんな僕に構わず、彼は続けた。
「あれ?お前仮面○イダー見てねーの?」
「見てるけど⋯⋯」
「なら力貸してくれよ! アイツらつえーんだわ」
そう言いながら外を指さす。
そこには、腕を組んで佇む2人が立っていた。
「早くやろーぜ」
「こっちはもう待ってんだから」
「おーう! ほらっ」
「え? わわっ!」
ガシッと腕を捕まれ外に連れ出された。
「俺、空ってゆーんだ。お前は?」
「僕は。⋯⋯翼」
声を掛けてくれた彼は、空と名乗った。
明るい外へと連れだしてくれた男の子は、澄み渡った大空の様な笑顔を浮かべていた。
その後も一緒に遊ぶ機会が増え、いつしか何時も一緒に居る友達へと変わっていった。
幼稚園ではクラスが違っていたが、それ以降は何の奇跡かずっと同じクラスになる事が出来た。
だからだろう。今でも学校へ行く時は自然と一緒に行く様になっていた。
学校へ向かう通学路を歩く僕たちは、他愛のない話をしながら進んでいた。
その途中で空が思い出したように言う。
「そう言えば今日変な夢見てな~」
本人も詳しくは覚えていないらしいが、断片的に聞こえて来る話を聞き、自分が最近よく見る夢と同じ内容の様に思えた。
「僕もここ最近、同じ内容の夢を見るんだよ。なんだか空の見た夢と似ている気がするよ。もっとも、僕の場合は刺す方なんだけどね⋯⋯」
夢の中のリアルな感触を思い出され、無意識に自分の掌を見つめていた。
「まぁ、知らない誰かじゃなくて。お前に殺されるなら別に構わんよ。どうせ夢の話だしな」
笑いながら言う空に。
「例え夢だったとしても。君を殺すなんて事はしたくないよ⋯⋯」
ほんの少しだけ、怒っている自分がいた。
「⋯⋯そうか」
お互い黙ってしまい、少しの間沈黙が続いた。だからだろう。
「そういえば。昨日出された数学の課題でわかんねー所あるんだけどさ、答え教えてくんね?」
空の方がこの空気に耐えられなかったのか、話題を変える為にそんな事を言い出して来た。
空は昔から暗い雰囲気は苦手だったからね。どうにかしたかったんだと思う。
心の中でくすりと笑い、答える。
「⋯⋯まったく、写すのは良いけど。今度、埋め合わせはしてよ?」
その後は学校までの道のりを他愛のない話をしながら一緒に歩いて行った。
何度も繰り返した、何時も通りの光景。
少なくとも学生が終わるまでは、ずっと続くだろうと思っていた。
学校に着き、空が教室の扉を開けた時。
そんな事が起こるなんて、 夢にも思わなかった。
空が扉を開けた瞬間。
僕の視界は光に包まれた。
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