50.報酬の行方
シャロが、加護持ちだということが判明した。
そのせいで恐怖心が無いと言う。
だからどうしたという話だが。
俺自身に、何かしらの被害があった訳でもないしな、寧ろメイン盾として何度も助けられている。
感謝こそすれども、蔑ろにする理由にはならない。
今まで通りの関係で居ればいいさ、本人も気にしてないっぽいし。
その後アナから他に、どんな加護があるのかも聞いてみた。
1番有名なものでは、勇者の仲間が持つとされる加護。
祝福が、一定時間自身の存在を極限まで無くせるという物。
そして呪いは、そばを離れると他人からの自分の記憶が曖昧になるという。
一日位なら問題ないが日数を追うごとに、名前、顔、体型などが、どんどん曖昧になる。実際勇者の伝記にもそう書かれていた。
勇者と他2名はしっかりと特徴何かが書かれているが、その彼もしくは彼女は、性別すらあやふやで本によって見た目がバラバラだと云う。
他にも、自属性の強化/武器を持てない、なんてのもあるらしい。中には祝福が極端に強いが、呪いは時々耳鳴りがする程度だったり、運の要素が強く出ている。というか運である。
そういう意味では、シャロはましな部類なのだろう。
俺も今度教会に行った方がいいか?
加護の話も落ち着き、緊急依頼の話になった。
行きに馬車で送迎されたり。
野営地までのスパルタ教育の話や、アナが持つ野営用の小屋の凄さを、シャロに聞かせた。
極めつけはなんと言っても、あの詠唱魔法だ。
言葉で説明をするにしても、俺の語彙力が足りない為、あの時の感情を上手く伝えられたかわからない。
それでもシャロは、スゲースゲー!と聴いていてくれた。
アナの事も褒めると、照れてるのか酒の影響なのかはわからないが、顔を赤くしていた。可愛い。
それはそうと、シャロの酒のペースが早い。
普段よりもバカスカ呑んでいる。
だからだろうか。
珍しく顔を紅くし、フラフラとしていた。
「そろそろお開きにしますか〜」
俺もいい感じに、アルコールが回ってきている。
「フフフ、そうだね」
「アナはまだ余裕そうだな〜」
「ううん。私も結構酔ってるのかな?こんなに楽しく呑めるの初めてだし」
「なんだ〜?野営の時は楽しくなかったって言うのか〜?」
俺はダル絡みをしていた。
すると、俺の唇にアナの人差し指がピタッと触れ。
微笑み、頭を傾けながら内緒話をするように発した。
「それはソレ、でしょ?2人っきりと3人とでは、また別なんだから。――ね?」
アナの白い肌は紅潮しており、その妖艶な雰囲気に俺は思わずドキリとした。
「ふ、ふーん!そうか!それは仕方ないな!」
そう言って席を立ちシャロの側による。
アナとのそういう駆け引きでは、俺に勝ち目は無いのだろうと思った。
頭がフラフラしているシャロを立たせ、部屋に連れて行くことにした。
俺とアナで肩を支え3人共、覚束ない足取りで進む。
くそっ、地震か?やけに地面がグラグラする。
フラフラしながらシャロの部屋の前に着き扉を開ける。
昼間より散らかってる⋯⋯。
アナと2人でシャロをベッドに座らせる。
「部屋に着いたぞ、お前ももう寝ろよ~」
そう言って部屋を出ようとすると。服の裾を掴まれた。俯いているシャロに声を掛ける。
「どした~」
「⋯⋯ありがとね」
「?⋯⋯おう!」
俺は良く分からず答えた。
多分部屋に連れてきた事へのお礼だろう。
その後はアナとお互いの部屋の前で別れた。
「ソラ、おやすみ」
「おやすみ~」
◇
今日はモーニングコールが無かった。
朝の鐘の音で起きた俺は、シャロが来なかったことに首を傾げた。
珍しいな、もしかして寝坊か?しゃーない、たまには俺が起こしに行ってやるかー。
俺は階段を降り一階のシャロの部屋へと向かった。
そして向かう途中に食堂でシャロを見つけた。起きてますやん。
「あ、おはよー」
「おはよう、今日は起こしてくれなかったん?」
何時もの席に座りシャロに問いただす。
「たまにはゆっくり寝たいと思ってねー。あたしもさっき起きたし。アナちゃんは?」
「そうなのか、アナは多分まだ寝てるんじゃないか?寝起き悪いみたいだし」
これまでの感じからしてアナは朝に弱い様だしな、寝ぐせもすごい。
何時も髪がストレートなのに、寝起きはライオンみたいになってる。
其れさえも〈清潔魔法〉を使えば真っ直ぐなストレートに戻るのだから良い魔法だ。
元の世界で使えれば、かなり金が稼げるのでは⋯⋯。
そんな邪な考えがよぎった。戻るすべが無いから意味ないが。
久しぶりにシャロと2人で朝食を取った。
俺等が食べ終わる頃に、寝ぼけたアナが階段から下りて来た。
「ご飯⋯⋯」
「〈清潔魔法〉」
シャロの容赦ない〈清潔魔法〉を浴び、アナは目を覚ます。
「っは!⋯⋯お、おはよう」
「はい、おはよう」
「おはよー」
さて、今日の予定は。
⋯⋯そう言えば冒険者ギルドに行かなきゃいけなかったな。
ギルドマスターとやらをアイリさんが捕獲しておくとか言ってたし。
⋯⋯癖の強い人なんかな。
アナ曰く。
「カス」
だそうだ。
カスなのか⋯⋯。
どうカスなのかまでは教えてくれなかった。
「会えばわかる」と。
昨日の打ち上げの時に聞いたせいか、あまり詳しくは教えてくれなかった。
楽しい時間に水を差したくないとも言ってたな。
それ程のカスなのか⋯⋯。
約束の正午まで時間は有るが、早めに行っておいた方が良いか。
そういえば、倒したダイアウルフもまだ売り払っていなかったな。
それなら早めに行っておいた方が良いか。
「俺は早めに行こうと思うがアナはどうする?」
「私も一緒に行こうかな。特にやる事無いし」
そう云う事ならサッサと行った方が良いか。バラバラに行って二度手間になるよりはましだな。
シャロはやる事があると、その場を離れたが。
俺はアナが、朝食を食べ終わるの待った。
◇
諸々の準備を終わらせ。
冒険者ギルドへと到着した俺達は、ダイアウルフを売り払った後に、アイリさんを探していた。
パッと見て受付には居ないな。どこだろうか。
そうしている俺達を見兼ねて、他の受付のひとがアイリさんの居場所を教えてくれた。
あ、ギルドマスターの部屋に?わかりました。
ギルドマスターの部屋で待機しているという。
なので早速向かう事にした。
昨日通った道を進み。少しだけ豪華な扉の前まで来た。
俺がノックをしようとするも、アナがノックもせずに扉を開け放つ。
扉が開かれ、前日見た光景に変化があった。
床に縄でぐるぐる巻きにされている男と、その傍らにアイリさんが片手に紐を持ち立っていた。
⋯⋯この人がギルドマスターか。
縄でぐるぐる巻きにされた男はニッと笑い、声を出した。
「助けてくれ。大本命のスライムレースが待ってるんだ」
俺のギルドマスターへの第一印象は決まった。
ギャンブルカスである。
隣に居るアナはため息を吐いていた。
なるほど、コレはカスだ。
因みにスライムレースとは。
スライムをレースさせて、どれが勝つか賭けるものだった。要は競馬と同じである。この世界での定番の賭け事らしい。
ビタンビタンと、浜にうち捨てられた魚の様に跳ねていた。
「君らが、アイリ君の言って居た冒険者だな!さ、早いとこ話を終わらせて俺を解放してくれ!」
床を跳ねながら、ソファーまで近づき乗り上げ、告げる。
「ん?君は⋯⋯、血濡れの魔女か。という事は緊急依頼の報告でいいのかな?」
「さっき、そう言いましたよ」
アイリさんが呆れたように付け加える。
「んー?そうだったか⋯⋯。いやーすまんすまん、次のレースの事を考えていた」
うーん、このカスっぷり。アイリさんも深いため息を吐いていた。
「さて、では手短にいこうか。今回の依頼を受けてくれて感謝する。ココに居るという事は、討伐まで終わったという事でいいんだな?」
「ええ。私とソラで終わらせました」
アナが答える。
「そうかそうか。一応魔石は俺も確認してある。アレだけ大きいのは珍しいからな。それでだ、あの魔石はアネモス家が買い取りたいそうだ。勿論、相場よりも高い額でな」
アネモス家?うーん、なんだっけか。どこかで聞いた気がするが。
俺が?マークを浮かべているとアナが教えてくれた。
「この街を治めてる領主の家門だよ」
ああ、それだ。何度か聞いたことがある。
直接会う事は無いから、そんなに気にしていなかったな。
俺等のやり取りを見て、ギルドマスターは続ける
「そう、そのアネモス家だ。実際の価格の交渉は後日になるが。その時は俺もアイリ君も出るから安心してくれ」
アイリさんをチラッと見ると。なんで私が、と言う様な表情をしていた。
「では、それでいいので御任せしますね」
アナが気だるそうに答える。魔石の買取について、本当に興味が無いのだろう。
代金は丸々アナに行くから俺には関係ないしな。
「交渉がまとまり次第、連絡しますので」
そう言ったアイリさんは疲れた顔をしていた。
ギルド職員と云うのも色々と大変なんだろう。
「それじゃ私達はこれで失礼しますね?」
そのままアナに手を引かれ、ギルドマスターの部屋を後にした。
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