49.祝福と呪い
ドンドンドン!
「ソラー!準備出来たよー!」
部屋の扉が乱暴に叩かれる音で目を覚ます。
⋯⋯あ?ああ、寝てたのか
ベッドから体を起こし、自分が何時の間にか眠っていたことに気づく。
乱暴な音が鳴り続ける扉へと向かい、扉を開けるとそこにはシャロが居た。
「なに?寝てたの?」
「あー、そうらしい」
どうも俺は帰って来てから、そのままの格好で寝てしまっていた様だ。
変な体勢で寝てたのか、胸当てが食い込んで痛いな。
「着替えたら向かうから先行っててくれ」
寝起きのまだ働かない頭で、この後のことを考えながらシャロに先に行くよう伝えた。
「オッケー。アナちゃんも先に連れてくねー」
「おーう」
扉を閉めてから、再度ベッドに腰掛ける。
あー、なんか夢を見た感じがする。
俺は直前まで見ていた夢を思い出そうとしていた。
内容は覚えてないが、夢を観たと言う感覚だけはある。
なーんか重要な夢を見ていた気がする。何だっけか。
⋯⋯ダメだ。思い出せん
まぁ、思い出せないって事は、たいした夢じゃないんだろう。
気にしても仕方ないか。
それよりも、早く着替えて下に行かないとな。腹減ったわ。
俺はサッと着替えて下に向かう事にした。
下に着くと、俺達が何時も使う4人掛けのテーブルに、シャロだけが座っていた。
「あれ、アナは?」
「アナちゃんも着替えたら来るってー」
「なるほど、それなら始めるのは揃ってからにするか」
「もちろん!」
シャロと向かい合うように座る。
こうして2人っきりで喋るのも2日振りだな、なんだか懐かしい気がした。
「そう云えばシャロはこの2日間何してたんだ?」
俺とアナが依頼で街を出ている間に、何をしていたのか気になったので聞いてみた
「えーっとねー。適当にゴブリン狩ってたかな」
「ゴブリンを?大丈夫だったのか?」
「あそこら辺まだ人多いからね。逸れてるのを主に狙ったよー」
1人で狩りは危ないと思うが。無茶はして無い様だからいいか。
「無茶はするなよ?」
「ゴブリンなんて怖くないから大丈夫だよー」
「相変わらずだなー」
2人で話していると、アレックス君が料理を運んできてくれた。
「おかえり、ソラ。怪我とかはしなかったか?」
アレックス君⋯⋯。共に戦う仲間のシャロですらしない俺への心配を彼はサラっとしてくれる。
シャロも見習えよ?
「シャロも見習えよ?」
「は?何が?」
「緊急依頼に行っていた、俺への労いだ」
「えー?スゴイスゴーイ、ガンバッタネーこれでいい?」
「⋯⋯まぁいいだろう」
俺らのやり取りを観て、アレックス君は笑っていた。
「はははは。ソラには感謝してるよ、シャロと仲良くしてくれてるみたいだし」
「まぁ、仲間。だからね、ハーハッハッハッー」
「ああ、それにシャロの呪いも受け入れてくれてる様だしな」
「ハーハッハッ、⋯⋯今なんて?」
いきなり物騒な単語が出てきて俺は驚愕した。
俺の反応を見て、アレックス君もキョドる。
「え?!あ、え?シャ、シャロお前話してないのか?!」
「んー?聞かれてないし、別にいいかなって」
悪びれもしないシャロの態度に、アレックス君は頭を抱えていた。
「⋯⋯悪い、ちょっと親父呼んでくる」
アレックス君は、親父さんを呼びに裏に引っ込んで行った。そんなに不味い事なの?
呪い⋯⋯って言ってたしな。シャロの顔をまじまじと見る。
目が合うとウィンクしてきた。
⋯⋯そんなに大事ではなさそうな気がしてきた。
アレックス君が親父さんを、連れて来るよりも早くアナが2階から降りて来た。
「お待たせ」
そう言った彼女の格好は、黒いタンクトップの上から薄手のカーディガンを羽織り、ショートパンツを履いて、太ももを大胆に出していた。おいおい最高か?
「お、いいね~。もうちょっと胸元開けてみようか~」
シャロはエロオヤジみたいなこと言ってるし⋯⋯。
「フフフ、ありがとう」
華麗にスルー。
そのままアナは、俺の隣の椅子に腰を下ろした。
丁度いいや、シャロの呪いについて、アナも何か知ってるか聞いてみるか。
「さっき聞いた話なんだが。何でもシャロが呪われてるらしいんだけど、治す方法とか知ってたりする?」
「呪い?ああ、⋯⋯シャロちゃん、加護持ちなの?」
「加護持ち?なんだそれ?」
「一応ねー。ソラにはまだ言ってなかったねー」
「⋯⋯そうみたいだな。ソラ、すまん。俺からも伝えておくべきだった」
シャロの親父さんがやって来て、謝罪された。
謝られても俺は加護についての知識が無い為、なんのこっちゃとい感じだった。
そんな時は素直に聞くにかぎる。
「それで⋯⋯加護ってなんですか?」
「知らないのか?」
「全然、これっぽっちも」
今度はシャロの親父さんが頭を抱え出した。
その反応を見るに、生活魔法並の常識みたいだな。
いやはや、異世界の常識がちゃんと身につくのはいつになるやら。
「また俺何かやっちゃいました?」
異世界定番のセリフを吐きヤレヤレと肩を竦める。
「⋯⋯ハァ。わかった、一から説明するからよく聞け」
その後の、親父さんの説明をまとめると。
この世界では5歳になると、教会にある魔道具で自身の属性やらを調べる決まりになっているらしい。
その時に、属性と加護の有無が判明する。
加護とは言うが正確に言うと[祝福と呪い]。
メリットである祝福と、デメリットである呪いがまとめて付いてくるお得セットの様なモノらしい。メリット、デメリットとあるが効果と種類はバラバラで完全ランダムのクソ仕様だ。
そして消すことが出来ない
そして今回話題のシャロの加護。
祝福が[身体能力向上]
レベルアップ時に自身の身体能力が、普通の人よりも上がりやすくなる。
呪いは[恐怖心の欠如]
文字通り、シャロは生まれつき恐怖心が無い状態で生まれてきた。
一瞬メリットのように思えたが、恐怖とは生存本能の一つだ。
命の危機をもたらす状況や敵と遭遇しても、シャロは何も感じない。
死ぬかもしれないと頭で思っても、それに対する恐怖を抱くことが出来無い。
シャロは怖いもの知らずなのではない、怖いを知らないし、知ることも出来ない。
親父さんの話を聞き終わり、俺は唐突にあの時の出来事を思い出す。
「⋯⋯お前まさか、ハイゴブリンの時言ってた「いけると思うよ」ってのは本当にただいけると思っただけなのか?」
「え?そうだよ?怖くなかったし」
「うーわっ!あっぶなー!下手したらあの時死んでるじゃねーか!」
「いいじゃん倒せたんだしー」
相変わらず悪びれもせず物を言う。コ、コイツ⋯⋯。
そのやり取り見ていたアナは納得したように言う。
「ああ、だからシャロちゃん。私の事、怖がらなかったんだね」
「そうだよー。皆怖い怖い言うけど。アナちゃんこんなに可愛いのにねー」
ケラケラと笑い、自分のコップに酒を注ぎ始めた。シャロの中では、この話はもう終わったようだ。
親父さんが溜息を1つ吐き、頭を下げる。
「すまなかった。承知の上で組んでるものと思っていた。お前が言ったように、シャロの判断1つで死んでいたかも知れない、冒険者が危機感を感じないのは致命的だ。今後についても良く考えてくれ」
今後⋯⋯ねぇ。
直接的な事は言ってないが、シャロとコンビを解消しても口出しはしないって感じか。
⋯⋯まぁ、俺の答えなんて決まってるけど。
隣に座るアナが先に口を開いた。
「大丈夫ですよ。ソラなら⋯⋯ね?そうでしょ?」
今更シャロを手放す訳もない、恐怖心が無いのなら俺が代わりに感じ取ればいい。
答えは決まっている。
俺はアナに人差し指をさし、言う。
「それな」
それでこの話は、今度こそ終わった。
親父さんも目を瞑り、もう一度頭を深く下げ。
「娘をよろしく頼む」と言った。アレックス君からも、「妹を頼む」と深く頭を下げられた。
⋯⋯今後もコンビ組むだけだよ?なんでそんな覚悟決めてる感じなの?なんか変な誤解してない?大丈夫?
シャロは笑いながら、2杯目の酒を注ぎ始めていた。




