326.ダンジョンが生えてきた
朝食を食べながら、「今日はどうする?」と四人で話し合っていた。
すると――いきなり机が揺れ、次に家全体が揺れ始めた。
その現象に対して俺は「おっ、地震か」という感じで軽く考えていた。
俺のいた世界――特に地震が多い日本という国で生まれ育ったから、多少の揺れには耐性がある。
とはいえ、この世界に来てから地震そのものを経験するのはこれが初めてだったので、さすがに少し驚いた。
「あわわわわっ! な、なんですかこれ!」
そう言ってマリアは俺に抱き着いてきた。
二つの双丘が俺の頭を守るかのように包み込む。
その光景を見たアナもまた、地震に対する恐怖心が芽生えたのか――。
「わー、コワイー」
そう言って俺に抱き着いてきた。二つの双丘が俺の腕を優しく包み込む。
そしてシャロもまた――。
「こわーい」
俺の背中に抱き着く。
シャロは生まれつき恐怖心が死んでいるので、何が怖いのかわからないが、とにかく怖いらしい。怖いものは仕方ない。
背中に慎ましい双丘の感触がした気がする。
そんな三人に抱き着かれた俺は、爺さんとボスがいる手前、心を無にして対応せざるをえなかった。
そんな爺さんとボスは、俺たちのことなんて気にも留めずに朝食を食べ進める。そんな中、キッチンからクマさんがやって来るとこう言った。
「何やら揺れたな、近くにダンジョンでも生えたか?」
ダンジョン――。
それはこの異世界に存在している地下に広がる謎の空間。何層にも連なり、中には魔物が蔓延っており、宝箱まである。
問題があるとすれば、ダンジョン内で死んだりすると、そのままダンジョン内に吸収されてしまうので、入ったきり出てこない人間もいる。
一説ではダンジョンも一つの大きな魔物という説もある。
宝箱で獲物を誘き寄せ、魔物という手下を使い獲物を仕留め、ダンジョン内で吸収する。
その説が本当かどうかはわからないが、俺はその説はある程度間違っていないと思っている。
何かの資料で読んだが、ダンジョンの最奥にあるコアを壊すとダンジョン自体が消えてしまうとか。
これに関しては、あくまでも仮説だと資料に書いていたので、確かめる術はなさそうだ。
その仮説を証明しようとしたらしいが、ダンジョンコア自体がとんでもなく硬いので、未だ破壊できたことがないそうだ。
そもそも壊すメリットがないので、その仮説を証明する実験以外で壊そうとする人間もいない。
そんなわけで、ダンジョンがドレスラード周辺に生えてきた可能性があり、「今日はどうする?」の話し合いから「ダンジョン探しに行こうぜ」という話し合いに変わった。
「ダンジョンが生えたとして、どこに生えると思う?」
俺の問いかけに三人は頭を捻る。
「先程揺れたばかりですし、何も情報がありませんから、地道に探すしかないと思いますよ〜」
「まあそうなんだが、探すんだったらある程度どこを探すか決めておきたいしな」
「あんまり人が行かなそうなとことかー?」
「案外、勇者シズクの家があった所に出来てたりしてね」
そんなアナの一言に俺たちは沈黙した。言った本人すら、難しい顔をして何かを考え始めた。
勇者シズク――百年前に存在していた勇者で、俺と同じ転移者。
俺がこの世界に来た直接的な原因でもある。
雫の願いである「自分を殺せる存在」。その願いを叶える為に、俺はこの世界に飛ばされた。
正確には、翼の転移のオマケみたいなものだが……それでも何故か俺が選ばれ、この世界に来た。
俺が最初に足を踏み入れたあの草原で、願いを叶えるために百年もの間、ただ一人で待ち続け――そこへ俺が現れ、出逢った。
出会ってから知ったが、やることなすことがハチャメチャな奴で、魔王を倒す旅の途中で悪徳貴族や悪人なんかをかなりの数殺して回ったらしい。
それだけ聞くと極悪人のようにも聞こえるが、そのお陰で今の貴族はある程度落ち着いてる人間が多いんだとか。
殺した数以上に、救った人間の方が多いというのも紛れもない事実だ。
そんな雫だが、この世界に来てからかなり苦労をしたらしく、この世界の事が心底嫌いらしい。
自分の死後、確実に最悪の使徒になると本人が言ったくらいだ。
そんな雫も、もうこの世にはいない。
俺がこの手で――その願いを叶えたからだ。
原理はよくわからないが、雫が言うには俺の魔法なら魂すらも消滅することが出来るのだそうだ。
だからこそ俺は雫の願いを叶え、その魂をこの世から消し去った。
魂が消えた先に何が待ち受けているのか俺にはわからないが、願わくば安らかな眠りであってほしいと、心からそう願っている。
雫――あれで本当に良かったんだよな……。
俺の心の中に、ダブルピースしながら笑う雫の顔が浮かんだ。
思い返す雫の顔が笑顔ばかりなら問題ないか。
俺はそう思うことにした。
「とりあえず……行ってみるか?」
「そうだね。シズクなら有り得そうだし……」
「でしたら、またピクニックということで来ましょうか〜」
「さんせーい! さっそくお弁当作ろー!」
そういうことになった。
俺たちで手分けしてピクニックの準備を進めていると、来客を知らせる鐘の音が響いた。
「はいはー『シャロ、出るな』――なんで?」
「多分メイド長だ。絶対さっきの揺れを俺のせいにするつもりだろう。だから居留守を使う」
ここ最近ドレスラードで起きている怪現象の全てを、俺のせいにされてきたんだ。今回もそうに違いない。
俺の気分は完全に皆とピクニックに傾いているんだ、邪魔されてたまるか。
「それなら私に任せて」
そう言ってアナが玄関へ向かった。
――あっ、すまんメイド長……今度店で「メイドさん特製・おいしくなるおまじない付きオムレツ」と「めにしゅき♡カジツっしゅ!」を頼むから勘弁してくれ。
というか今来ている来客がメイド長と決まったわけじゃないんだ、多分別の人物だろう。
俺がそう思っていると、戻ってきたアナがこう言った。
「メイド長が迎えに来てたけど、追い返しておいたよ。明日に出直すって言ってたから、そのつもりでいてね」
「……わかった、ありがとう。……よしっ。気を取り直して準備するぞー!」
問題の先送りだが仕方がない。
俺は皆とピクニックに行きたいんだ。
準備を終えた俺たちは、留守番をするクマさんとボス、そして爺さんに別れを告げ家を出発した。




