317.劇場版チェ〇ソーマン〜レゼ編〜 好評上映中
「やったぁ〜〜〜〜〜!!」
俺は、劇〇版チェンソーマン〜レゼ編〜で、マキマとのデート前にデンジが見せたジャンプばりに飛び上がった。
あれから三日街の外で野宿をしたのち、領主様より街へ入る許可が出た。
色々と制約はあるが、それはまた今度語るとしよう。
ってなもんで俺たちはママと爺さんを引き連れて、ドレスラードの門を潜った。
久しぶりのわが家を目指し、街の中を爆走している。
街の住人が道に溢れかえっていて、ちょっとした凱旋パレードのようになっていた。
いや~、どうもどうも~。
皆ドン引きしてる気もするけど俺はすごく清々しい気持ちだ。ええ、本当に。
だってママと、この街で暮らす許可を貰ったんだもの。
領主が苦虫を嚙み潰したような顔をしながら「住んでいいよ」と言ってくれたんだ。
そこまで言うなら住んでやらんこともないよね?って感じだ。
というか結局、クマさんは俺たちに会いに来なかったんだけど……。
なんで?
正式なパーティメンバーではないとはいえ、同じ家に住んでる同居人よ?
アイリさんも事情は伝えたと教えてくれたが、クマさんは言ったらしい。
「飯は自分たちで作るのかだけ教えてくれ」と。
腹いせに俺たちのご飯を作らせましたとも。
シャロに取りに行かせましたとも。
カレーライス美味しかったです。
そんなクマさんも、今日俺たちが帰ってくることは知っているので、家でパーティーの準備をしているらしい。
家に向かって街中を移動中、ある泣き声が聞こえてきた。
「オギャー! オギャー!」
周囲がめちゃくちゃザワついた。
緑の魔物ことママは赤ん坊に執着する性質を持っている。
俺はその理由を知っているので、仕方ないと納得できるが、周りの人間はそうではない。
緑の魔物と遭遇した時、誰もがこう口にする。
「緑の魔物に赤子を取られても絶対に手を出すな、母親が取り返そうとした時は、母親を抑え付けろ」と。
ママはたとえ相手が本当の母親であろうと、赤ん坊を取られると思い、抵抗する。
それこそ周囲が更地に変わるほどの抵抗を。
だからこそ、その場の全員――もといシャロ以外が緊張に包まれた。
さすがの俺も本物の赤ん坊がいる状況は初めてで、予想がつかない。
嫉妬……する、かもしれない。
ママのボウヤは俺一人で十分だ。
赤の他人の赤ん坊など……!
認めてたまるか……!
だがママは意外にもスルー。
あれ、予想では「アカチャン」と言って抱き上げると思ったんだが……。
ママに“抱っこされながら“俺は首を傾げた。
……はっ! そうか、ママはもう赤ん坊を探す理由がないんだ! 何故なら俺という、オンリーワンにしてナンバーワンのボウヤが居るからだ!
思わずクラップユアハンズしたくなるが、グッとこらえ、人差し指を立て――宣言した。
俺こそが! ボウヤ界、ナンバーワンだ!
どこからともなく「WINNER SORA」という箔付きのカットインが入った。
◇
その後は何も起きることなく家に着いた。
とりあえずママは庭に居てもらうとして……何やらやみけん共が騒がしい。
どうやら「住処を荒らすな」的なことを訴えてきているようだ。
いやお前らが勝手に住み着いてるだけで、ここは俺たちの家なんだが……。
実際、庭にママが腰を下ろすと八割くらい占拠する事になる。
残った二割がやみけん共の居場所だ。
「わかったわかった。今度小屋を作ってやるから。それで我慢してくれ」
そう言うとやみけん共は湧いた。
ふと疑問に思ったので聞いてみる。
「ママ。これ、見える?」
俺の足にまとわりつくやみけん共を指さした。
頷くママ。
あっ見えるんだ。それなら話が早い。
俺はやみけんの説明を簡単にした。
「コイツらはやみけんって言って、この家に勝手に住み着いてる……まあ、益虫とでも思ってくれていいよ」
俺がそう言うと、ママは頷いたが、やみけん共は「虫扱いするな」と抗議を始めた。
「ソラ。そろそろいい?」
アナがクマさんを連れてやって来た。
おっと、やみけん共に夢中になってて忘れてた。
「ママ、このクマは元勇者の仲間でミーシャっていうんだ」
「よろしく頼む」
クマさんはママを見上げ、次に俺を見て言った。
「やっぱりお前はシズクと似ているな……やる事が滅茶苦茶過ぎる」
「俺の方がまともだろ」
いやマジで俺の方がまともだろ、アレと一緒にしないでほしい。
そんな俺の態度にクマさんはヤレヤレと肩を落とした。
「そういうところが似てるんだ。アイツをハンゾウと比べた時は、必ず自分の方がまともだと言う」
ぐぬぬぬ……何だか考えが読まれている感じで嫌だな。
ここは話を切り替えてうやむやにしよう。
「それよりも、何で会いに来なかったんだ?」
「街の外に嫌な気配を感じたからな。念の為、シャーリー亭で警戒していたが……まさか緑の魔物とは思いもしなかった」
やだこのクマさん、アレックス君たちを守る為に残ってたってこと!?
まあだからといって会いに来ない理由としては弱いな。
「異議あり!!」
「……シズクも同じセリフを言っていたな。なんなんだそれは」
俺はこれ以上傷口を広げないためにも黙ることにした。
◇
久しぶりのわが家に俺たちは湧いた。
ママとクマさんを会わせた後、爺さんの紹介もした。
「そういうことは事前に伝言を寄越せ。ベッドも用意してないんだぞ」
クマさんの小言を聞きながら、俺は爺さんにボスとやみけん共の説明した。
「お前さんは人外に好かれるのか?」
「たまたまだよ、たまたま」
同居人ってだけで、別に好かれてるわけじゃないしね。
ふと窓の外に目をやると、ママが部屋の中を覗いていた。
しまったな、ママをそっちのけで俺たちだけで楽しむなんて……。
料理を皿に取り分け、外へ出る。
「ママ~、これ、うまい、食べて~」
するとママは自身の唇を指差し、首を横に振った。
……そうか、ママは体が植物で出来ているので、物を食べることが出来ない。
食べられないんじゃ仕方がないので、俺が食べることにした。
ママの隣にいるやみけんを足で退かし腰を下ろす。
何でさっきより数が増えてんだよ、散れよ。
俺はママに話しかけるように、静かに語り出した。
雫と翼の話はしてあるが、詳しい話はしていない。
だからこそ、ちゃんと話す事にした。
俺がこの世界に来た、本当の理由――。
雫という転移者が自らを消滅させる事の出来る存在として、俺をこの世界に呼んだのだと。
話している内に、俺はある言葉が口から出るのを必死に抑えていた。
雫の魂を消滅させた時、俺は気付いたんだ。
いや……”気付いてしまった”。
それはママたちのような、転移者の成れの果てをこの世界から解放できるのではないか、と。
大切だと思った人を、俺はこの手で殺さなければいけないのだと。
そんなもの、だれだって嫌に決まっている。
そんな思いもあるが、同時にママを開放してあげたいという気持ちもあった。
……俺はどうしたらいいんだろうな。
ママがそう望むのなら……ためらいはないだろう。
だが俺の判断に委ねられるとしたら? 俺にそれが出来るのか?
黙る俺の頭を、ママは優しく撫でてくれた。
思い出すのは、元の世界に残してきた母さんの姿。
何だかんだと言っても、そこには確かな愛情があったのを思い出した。
ママの手の中、俺は目を瞑った。
意図したわけではないですが、ソラがどんどんシズクに似てきましたね。
チェンソーマンの映画とても良かったです。頭の中でザラメが熔けてゲロになりっぱなしでした。みんなも観よう!!




