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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
厄災到来編

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315/343

311.いつか見たあの光景

 いつものように目が覚める。

 ガランとしていて、物が少ない質素で静まり返った部屋。

 静けさのせいか、昨日訪れた若者たちの事を思い出す。


 久しぶりに気のいい連中に会えてよかったわい。


 ドレスラードの冒険者ギルドのマスターが、時々ああやって人を寄越す。

 個々の事情は知らぬが、ランクを上げるためだけの適当な依頼。

 ワシがこの村を離れないと知っていて、ここに人を遣わせる。

 正直気に入らん。

 じゃが……仕方ないとも思っておる。

 元剣聖といえど、今はなんの力も持っておらんジジイじゃからな。


 それにここに来る人間は、どいつもこいつも実力のない者ばかりじゃった。

 おそらくランクを上げる試験に、合格できない権力者の子息とかじゃろう。

 実力に見合わぬランクを手にしたところで、その次に待っているのは死だというのに……。


「まったく、アホくさいのぉ……」

 重い腰を寝床から持ち上げ、日課を済ませる為に外へ出た。



    ◇

 

 花畑の水やりを終えると、村の見回り、そして村の周辺に異常がないか調べる。

 それが終われば、村の中央にある椅子に腰かけ、一休みする。

 もう何十年とやってきた行為。


 誰かが褒めてくれるわけでもないというのに罪悪感から、この終わった村を守り続けている自分に嫌気がさす。

 いっそのこと、ここを捨てる決心がつく出来事でも起きればいいんじゃがな。


 そんなことを毎日考えていた。

 そして頭上を照らす光が頂点に達した。

「そろそろ飯にするかの」

 村の中央にある椅子から腰を上げ、小屋へと通じる道に足を踏み出した。


 ――突然、全身を襲う濃密な死の気配を感じた。


 周囲の音が消え、自身の鼓動だけが聞こえてくる。


 不意に影がさし、暗くなった。


 自分の頭上を覆い、影を落とす“ナニカ”。

 どうあがいても覆る事はない力の差を前に、自身の生を諦めてしまった。

 ああ……ワシはここで死ぬんじゃな。

 そう思い、目を瞑ると、静かにその時を待った。


「おーい、爺さーん」


 聞き覚えのある声が、頭上から聞こえてきた。




    ◆


 俺は三人に自分の考えを伝えた。

「今から爺さんの所に行って、ママの力で花畑を復活させようと思う」

 俺の目から見ても、手入れがいき届いている花畑だったが、爺さんの思い出には程遠いのだろう。


 それに、あの時爺さんは言った。

 もう一度あの花畑を見れたのなら。離れる決心がつくかもしれない――と。

 もしも決心がついてくれたのなら、ドレスラードに迎え入れる事が出来るかもしれない。


 そうすりゃ晴れて俺らは[(シルバー)]ランクだ。

 俺のヤラカシも帳消しにできるって寸法よ。……俺、賢い。


 三人の反応は「まぁいいんじゃない?」という感じだったので、早速行動に移した。

 計画を成功させるには、ママの協力を得なければいけない。


 というわけでママに、かくかくしかじか、こしたんたんと計画を伝えた。

 するとママは頷いてくれた。


 サクッとママの協力を得られたので、早速向かうことにし――ん? どうしたのママ。


 何やらママがジェスチャーを始めた。

 えーっと、俺、とママね。二人で? 行くほうが早い、ってこと?

「つまり俺とママの二人で向かう方が早いと?」

 ママは頷いた。

 なるほど……爺さんの居る村はそれなりに離れているからな、三人にはここで待っていてもらおう。

「そういうわけだから、待っててもらっていいか?」

「おっけー」

「ソラも気をつけてね」

「頑張ってくださいね〜」


 俺はサッとママに抱き上げられると、爺さんの村に向けて移動を開始した。



    ◇


 あばばばばばば……!

 

 ママに抱かれたままの俺は、高速移動の真っ只中にいた。

 森の中をものすごい速度で駆けていく。

 進行方向の木々は、すぐさま身を引き道を作る。

 その道をママは一直線に走り抜け――地を蹴り飛び上がった。


 浮遊感に包まれる中、俺は視界に入った村を指さし叫んだ。

「マ、ママ! あの村! あの村だから!!」

 するとママは、足元の根を伸ばすと、村の周囲の地面へ一瞬で突き刺し――体を引き寄せるように根を縮めた。


 グンッと体を引き寄せられる衝撃が体を襲うと、ほんの一、二秒で村の上空へと辿り着いた。


 あ、お、おぉぉぉぉ……頭が揺れる……視界がチカチカする……。

 と、とりあえず爺さんを呼ばないと……。

「おーい、爺さーん」



    ◇


「な、なんなんじゃいったい……」

 爺さんの声がママの足元から聞こえてきた。

 なんだそこにいたのか、危ない危ない、潰されてなくてよかった。

 ママに降ろすように促し、爺さんの目の前に降り立つ。

 ちっすちっす、昨日ぶり〜。なんてね。

「さっそくまた来ました!」


 俺の言葉に爺さんは目を丸くしていた。

 あー、さすがに別れて次の日に来るのは早すぎたか。

 仕方ないよね、俺たちのランクアップがかかっているんだからさっ。

「お、お前さんなんてものを連れて来とるんじゃ……」

「なんてものって……あっ紹介します。俺のママです」

 俺はママを手で指し示し、爺さんに紹介した。

「いや……意味が……うーん」

 爺さんは何故か目を瞑り、渋い顔をした。

 うーん、簡単にわかり易く紹介したはずなのになぜ伝わらない……。

 

 爺さんは、ため息を吐くと口を開いた。

「――はぁ。お前さんは常識の外側におる人間のようじゃな。それで、なぜ戻って来たんじゃ?」

「そりゃあもちろん。爺さんの望みを叶えるためにですよ!」

「ワシの……望み? はて……?」

 爺さんは首を傾げた。

 まあ今はわからなくとも、その時が来れば嫌でも思い出すさ。

 俺は爺さんを手招きしながら歩き出した。

「それじゃあ、俺について来てください」

「……わかった、変なことはせんでくれよ?」

 花畑を蘇らせるというのが変なことなら、俺は今から変なことをするね。


 俺たちは坂を上り、花畑の前にやって来た。

 さて、ここから先はママだよりだ。

「ママ、お願いできる?」

 ママは頷くと、爺さんの禿げあがった頭に触れる。

 爺さんはビックリしたように固まってしまった。


 ママは爺さんの頭に触れながら、音を紡ぎ始めた。

 それは言葉ではなく、歌のように聞こえた。


 ママを中心とした魔法陣が浮かび上がる。

 緑色に光る魔法陣は、花の咲く場所を遥かに超える範囲にまで広がっていた。


 平面の魔法陣ではなく、球体の魔法陣が広がる。

 それは今までに見たどの魔法陣よりも大きく、密度も濃い。

 一目で、次元の違う存在だと理解できた。

 俺たちの魔法とは根本から異なる、まったく別のナニカ――。


 音が途切れ、視界の全てが光に包まれた。


 眩しさが消え去り、目を開けると。

 目の前には――。


 小さな花畑がポツンと咲き誇っていた。


 ……え、あれ? さっきまでもっと立派な花畑が広がっていたのに。

 俺が困惑するなか、爺さんは膝を折り、その場に崩れ落ちた。

 

「お、おおぉ……なんと、なんという……!」

 爺さんの反応に、さすがの俺も「しまった!」と思った。

 いままで爺さんが手塩にかけて、再現しようとした花畑を台無しにしてしまったんだ。

 まさかママが失敗した?! よかれと思ってやったことが裏目に出てしまった。

「あの、その、す、すいません!」

 俺は頭を下げた。

 意味がないとわかっているが、今の俺には頭を下げることしかできない。


 そんな俺に向かって爺さんは言った。

「違う……違うんじゃ……」

 いや、そりゃあ違うのはわかっていますとも……。

 

 爺さんは続けて言った。


「違う……違うんじゃ……。ワシの記憶にある花畑は、まさにこれなんじゃよ……」

 

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― 新着の感想 ―
流石ママ……
流石ママ!完璧な仕事をしたんだね! 所で何処らへんに住み着くおつもりで…?流石なドレスラード内には来ないよね…?来てくれたら最強の防犯になってなんかたくらんでる連中も一網打尽に出来そうだけどさ…その代…
記憶のままに再現したのね
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