304.名も無き村
注)この話は、作者自身にアルコールを一滴も入れずに書いてます。
街道から外れた道を進む。
あまり整備はされていないが、確かに道がある。
街道を外れても、アナは謎の気配を気にしてる様だ。あの道の先に何が居たんだろうか。街に戻ったらアイリさんに聞いてみるか。
ガタガタと馬車が揺れる。
◇
徐々に傾斜が上がっていき、どんどん山の中に入っていく。
小窓を叩き、マリアに問い掛ける。
「魔物の気配はどうだ?」
「今のところ何も感じませんね〜」
やはりここら辺は魔物の数が少ないのか? そういう地域もあると聞いた事があるが、モルソパの周辺は大人しい魔物が多いんだっけ。
魔物全部がそうならいいんだけどな。
しばらく山道を走らせていると――。
村が見えてきた。
村の周囲を木の柵が、ぐるりと囲んでおり、その様子を見た俺の感想は。
「……本当に人が住んでるのか?」
家はどれもボロボロで、とても人が住んでいるようには見えない。
村の門を潜り、中央へと馬車を進める。
人の気配が無い。
しんと静まり返る無人の村。
これは……もしかして、ギルドマスターにいっぱい食わされたか?
「廃村?」
隣に座るアナがそう呟き周囲を見回し、小窓からシャロとマリアが顔を覗かせる。
「誰も居ないねー」
「魔物の気配もしませんね〜」
行けばわかる。ってのはこういうことだったのか? 周囲を見回したが、これといった異変は見つからない。
どうするかな……とりあえず村を一周してみるか。
手綱を操り馬車動かす。
◇
ふむ……道があるな。
村を一周してみて気づいたが、村の入り口とは反対側に、馬車では通れない幅の道が敷かれていた。
「これ道だよな?」
「そうだね。あっ、そこに足跡があるよ」
アナが指をさした地面を見ると、確かに足跡があった。
見た感じ裸足のものではなく。靴の様な形状をしているし、魔物の足跡でもなさそうだ。
そして、その数はおよそ一人分。
本日二度目のどうするかなタイム。
道の先は上り坂になっており、そこから先が見えない。
仕方ない。俺が先行して偵察に行くしかないか。幸いマリアの魔物センサーは無反応だ。不意に襲われることはないだろう。
馬車から降り、三人に告げる。
「俺が先に行って様子見てくるから、ここで待っててくれ」
「わかった。気をつけてね?」
俺は歩き出し、坂の頂上を目指した。
えっちらおっちらと坂を登り、見えてきた景色。
そこには一軒の小屋と、花畑が広がっていた。
ほお……これは見事なものですね。
花畑には、色とりどりの花が咲いており。規則正しく咲いている、というわけでもなく、かといって乱雑に咲いているわけでもない。ちゃんと管理されている花畑だった。
素人の俺の目で見ても、何となく意図的にそうしているのだとわかる。
俺は声を張上げた。
「ごめんくださーい! 誰かいますかー?」
そうすると、小屋の中から一人の老人が顔を出した。
◇
「ほっほっほ。わざわざドレスラードからよく来たのぉ」
三人がこちらに来る間に、俺は老人にここへ来た経緯を簡単に説明していた。
「君らの様な冒険者は何度も来ているからのぉ。何も無い所じゃが、まあゆっくりしていきなさい」
そう言って老人は、椅子を取り出すと腰を下ろした。
そこへ三人がやってきた。
全員揃ったので、自己紹介。
「ハーデンベルギアのソラです」
「シャロっていいまーす!」
「私はアナスタシア・ベールイです」
「マリア・フォン・ネペンテスと申します」
俺たちの言葉に、老人は立ち上がると言った。
「これはこれは御丁寧に、ワシの名前はアーサーじゃ」
アーサー……!? え、もしかして……俺の、育てのおじいちゃん……?!
俺の脳内に、この世界に来た当初に作り上げた設定が頭を駆け巡った。
山に捨てられていた俺は、爺さんに拾われ、すくすくと育ち。爺さんの最後を看取り、残してくれた魔道具を頼りに、なんとかドレスラードへとたどり着いた――という設定だ。
その後生えてきた追加の設定で、名前がアーサー・ペンドラゴンになった。
つまりこの人は、俺のお爺ちゃん……?!
その瞬間――頭の中に存在しない記憶が駆け巡る。
魔法を使わない偏屈な爺さんだったが、確かな愛情があった。厳しくもあったが、俺が風邪で寝込んだ時は、夜通し看病してくれたっけ……。死ぬ最後の瞬間のことは今でも覚えている。
「ソラ。あとはお前の好きに生きなさい。どんな試練や困難も糧とし、お前だけの道を進むんだ」そう言ってスマホ型の魔道具を渡し、最後は満足そうに逝ったな……いや待て、こんな記憶俺知らない。
謎の記憶を胸に宿し、死んだ爺さん?との再会に、心を震わせた。西野カナですら「震えすぎ」と言わしめるほどの震え……!
「お、おじい……ちゃん?」
俺がそう言うと、お爺さんは「なんだコイツ」という目をしてきた。
そこで今日は珍しく冴えているシャロが言った。
「ソラのお爺ちゃんって、死んでなかったっけ?」
「そうだな、よく覚えてたな」
俺はスンッとなった。
そうだ、爺さんは俺の心の中でいき続ける……! きっと多元宇宙迷宮でのカミナの兄貴みたいに、ここぞという時に熱い展開をかましてくれるはずだ!
というかシャロは俺が異世界人であるということを理解していない気がする。
「シャロさん、ちょっと来てくれ」
「なーにー?」
シャロの方を抱き寄せ、声を潜め内緒話を初めた。
「お前、俺が異世界から来た人間って理解してる?」
シャロも俺に合わせて、ヒソヒソと声を潜める。
「してるよー、シズクさんやツバサさんと同じ“異世界って国“から来たんでしょ? いつか連れてってよー」
あー、なるほど。そういう認識か。
確かにシャロの様な認識でも、ある意味正解か? 俺は実際に異世界から来たから理解できるが、シャロたちには実感がわかないか。
仕方がないので、再度口止めの意味を込めて告げた。
「残念だか連れて行くことは出来ないんだよ。もう滅んでるからな。だから異世界って国の話は、なるべくしないで欲しい。悲しくなるからな。代わりと言っちゃあなんだが、シャロが行きたい所に連れて行くよ」
「ほんと? 約束だよー?」
「ああ、任せろ」
その時は皆で行こう。
だって俺達みんな・・・仲間だもんげ!
シャロから手を離し、お爺ちゃんに向き直り、言った。
「さてアーサーお爺さん。俺たちと一緒に、ドレスラードへ来る気はありますか?」
「お前さんの精神状態はどうなっとるんじゃ……」
何故か哀れみの目が向けられた。
すごくどうでもいい話ですが、作者自身はソラが一番人気だと思っていますし、万が一にコミカライズやアニメ化した際は、三人娘よりも多くのコスプレをした書下しイラストができることを切に願っています。




