300.狂王神教
薄暗い部屋に、一人の老人が椅子に座り目を瞑っていた。
その後ろには、円柱状のケースがコポコポと音を立て、褐色の肌をした肉片が漂っていた。
静寂が訪れる部屋に、わざとらしく足音を立てながらローブを着た女が入って来ると、椅子にドカッと腰を下ろし、非難するように言った。
「――チッ、マジいきなり招集とか、何の用なん?」
次いで別の人物が入ってくる。
「あれ~、まだそろってないの? 僕、すぐ研究に戻りたいんだけど待たされる感じ?」
背丈が低く、ローブの裾を地面に引きずりながら現れた人物も自分の席に腰を下ろした。
それから5分ほど経ち――。
「すみません、遅れました。もう全員揃って――フェルシアがまだでしたか。珍しいですね」
最後に来た男が席に着くと、老人が静かに告げた。
「フェルシアが死んだ」
何の感情もなく、ただ報告するように告げられた言葉に、三人は声をあげる。
「は? え、ちょっとゴメン、もう一回言ってくんない?」
「そうだよ~。もしかしてボケちゃったの? 遅刻してるだけだって~」
「……どうなんですか」
老人は無言で“10個の球がはめ込まれたオブジェ”を取り出す。
そこには光が灯った球が四つ。残りの六つは光を失い、ひび割れていた。
そのオブジェを見た三人は目を見開き、声を荒げた。
「誰にやられた!」
「は~? 本当に死んだの? 嘘でしょ?」
「何時頃、光が消えたのですか?」
老人は手を顔の前で組み、答えた。
「今日だ――故に全員招集した」
場がシンと静まり返り、ローブの女が叫ぶ。
「今すぐフェルを殺した奴のところへ行くべきでしょ!」
「落ち着いてください。それで、彼女はどこに行ってやられたのですか?」
三人の視線が老人に集中するが、老人は首を左右に振った。
「あの子が行き先を告げぬのはお前らもわかっているだろう」
その言葉に背丈の低い人物が大きなため息を吐いた。
「ハァ~。じゃあ手掛かりはないってこと? どうすんのさ、もう少しで長年の悲願が達成できるっていうのにさ~」
「あやつは元々、人間を調達するのが仕事だ。もうすでに必要な数は揃っているのだろう?」
「いや、まあ揃っているけどさ~。同胞が死んだってのに、冷め過ぎじゃな~い?」
「元より勇者に半分以上殺されたのだ。今更一人死んだとて、心は揺らがぬ」
背丈の低い人物は「そうですか……」と言って肘をつき、そっぽを向いた。
そのやり取りを見たローブの女が、拳をテーブルに叩き付けて言った。
「それがどーしたってワケ!? 最後にあの子いた場所どこ!? あーしが全部まとめて爆破してやる!!」
「落ち着いてください。それで……フェルシアがいなくなりましたが、計画に支障はないのですか?」
「ああ、問題ない」
「――っ」
ローブの女は椅子を蹴り飛ばし、部屋を出ようとした。
「何処へ行く?」
「うるさい。適当な村か街を爆破してくる。もしかしたらあの子の仇がいるかもしれないし」
「――ハァ。好きにしろ」
ローブの女はそのまま部屋を出ていき、再度静寂が訪れた。
静寂を破り、男が口を開く。
「それで、今後はどうします? 大人しくするべきですかね?」
「いや、近々とある街に“あるモノ“が現れる。それを利用して狂王様の居城を築きあげる為の下準備をする」
「とある街、ですか?」
「ああそうだ」
老人はテーブルに地図を広げると、一点を指差し――告げた。
「ここだ」
二人は老人の指差した箇所を覗き込む。
「この街――”ドレスラード”を更地にする」
老人は静かにそう告げた。




