292.カチコミ一番乗り
マリアの後を追いかける。
里の人たちも、集団で里入口へ向かっている。
なんか皆、畑仕事してる時と人相違くない? なにかキメてる?
集団の先頭が叫んだ。
「みんな!! “回復薬”キメろォォ!!」
「「「おおっ!!」」」
キメるなよ。
住人たちは回復薬を走りながら飲み干した。
「楽しい人たちだねー」
「そうかなぁ?」
「これだけ人が多いと、私は広範囲の魔法は撃てないけど、どうする?」
「そうだな……里の人たちが死なないように、サポート頼めるか?」
「ん、わかった」
こんな狭い道でアナの氷魔法を使うと、全員滑って落ちちゃうからな。
これだけの人数が居るんだ、あの変なスライムの魔物を狩るだけの火力はあるだろう。
そう思っていると――。
「えぇ〜、なんで血濡れの魔女が居るんですかぁ? 面倒ですねぇ。一個しかない貴重な子ですが、魔女の相手は任せますねぇ〜」
ローブの女は大きな魔石を取りだし、地面に叩きつけた――すると地面に魔法陣が描かれ、一体の巨大な魔物が姿を現した。
氷の嵐と共に現れたソレは、氷柱のように鋭い翼を持ち、全身を白銀の鱗に覆われた氷の竜。
「げっ、ブリザードドラゴン……」
アナが呟くように言ったその名は、かつてアナが死闘を繰り広げたドラゴンの名だった。
「それじゃぁ〜、あの魔女の相手はお願いしますねぇ〜」
ブリザードドラゴンが咆哮をあげると、アナ目掛けて一直線に向かってきた。
「ソラ、シャロちゃん。アレは私が片付けるから、マリアをお願いね」
アナは向かって来るブリザードドラゴンを引きつけるように、別の方角へ走り出した。
クソッタレ……アレはアナに任せるしかない。さっさとスライムを片付けて、加勢に向かうしかないな。
「すまん! 直ぐに助けに行くから待っててくれ!」
「――うん! 待ってるね!」
ブリザードドラゴンが頭上を飛び去り、アナ目掛けて氷のブレスを吐いた。
離れていても伝わるほどの冷気。
同じ属性のアナでは相性が最悪だ。
さっさとローブの女をどうにかしないとな。
マリアが入口へ繋がる道の中程へ来た時、ローブの女が更なる手を打ってきた。
「アムちゃん。吐き出していいですよぉ」
女がそう言うと、謎のスライムは風船のように膨らみ、幾つもの肉塊を吐き出した。
肉塊は蠢き、四肢の様なものを地面に突き立て体を持ち上げる。
その姿はどれも、この里に来る時に見かけた魔物に似ていた。
決定的に違う点は、どれも毛皮や皮膚が無くなっており、肉が剥き出しの状態になっていた。
そんな不気味な姿の肉塊が、何十体と産み出された。
その光景を目の当たりにした里の住人も思わず足を止め注視する――が、マリアは止まらない。
肉塊の群れにダイナミックエントリー。
もうほんと頭痛い。
俺は叫んだ。
「マリアに続けぇえ!!」
「「「「お、おおお!!」」」」
「シャロ! 数が多すぎるから〈挑発〉は使うな!」
「オッケー。『恐怖に打ち勝ち、あたしの声を聞け! 恐れる事は無い! なぜならー、あたしが居る!』〈勇敢な心〉!!」
シャロを中心に光の輪が広がり、体を駆け抜けると――俺たちの恐怖心が消えた。
ほんと頭痛い……。
恐怖心の消えた里の住人が、肉塊へと殺到する。
あーもーめちゃくちゃだよ。
「シャロはマリアの援護に行け。俺は出来る限り数を減らしておく」
「はーい」
剣に魔力を込め、近くの肉塊を両断する。
里の住人も肉塊を圧倒していた。
毛皮や皮がなく、肉が剥き出しだから当然か。
剣を腰だめに構えて突進したり、チャカと称した弓矢を連射している。
強いなこの人たち……。
殆どの住人がワケありで、放浪の末この里へ辿り着いたらしいので、それなりの実力はあるのだろう。
肉塊を切り伏せながらマリアの傍に行くと、シスター服が返り血に塗れていた。
そうね、マリアって最初の頃は鈍器を使っていたが、今は拳を自分の血で固めて戦っている。
肉丸出しの肉塊を殴れば、返り血が凄いよね。
「マリア、怪我はないか?」
「はい、シャロさんのおかげでこの通り〜」
「わるいな、まさかあんな魔物が居るとは思わなかった」
「いえいえ、こうしてちゃんと来てくださいましたし、私はそれだけで十分です〜」
「そうか」
「お喋りもいいけどさー、ソラが倒してくれないと終わらないよ?」
シャロは肉塊の攻撃を防ぎながら言った。
コイツも逞しくなったな……。
肉塊を両手に持つ盾で華麗に弾き飛ばして、俺とマリアの会話時間を稼いでくれていた。
「わかったって。シャロ、マリア。行くぞ」
「おー!」
「はい!」
まだ大量にいる肉塊に向き直ると、巨大なスライムが肉塊を押し潰しながら、降ってきた。
着地の衝撃で足元が揺れる。
それと同時にローブの女も舞い降りた。
「はぁ〜、やっぱりゴミは足止め程度にしかなりませんねぇ。生け捕りにしなきゃいけないので殺しはしませんが、両の手足くらいは折りますねぇ」
「やってみろやクソアマ!」
「魚の餌にしてやんよォ!」
「今のうちに回復薬キメろォォ!!」
回復薬をヤクとか言うな。
まあいいさ、今までは乱戦だったので俺の魔法が使えなかったが、的がこんだけデカいんだ。“超”簡単っスよ〜〜。
「ソラー」
「どうしたシャロ」
「ちょーっと試したいことがあるんだけど、やってみてもいい?」
「……わかった許可する。危なくなったらすぐ言えよ?」
「オッケー!」
シャロには何か考えがあるようだ。
どんな試みかはわからないが、ここは任せてみよう。
シャロは一つ息を吐き、呪文を唱えた。
「〈挑発〉!!」
そしてもう一つ――。
「〈最強の盾〉!!」
アムちゃんって呼び方だと『しゅごキャラ!』のあむちゃんと被りますね。別に意味はないですが気付いたので心をアンロックしました。




