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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
偽物の王女編

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262.王都からの帰路。

 王都の偽物騒動から離脱して5日が経っていた。


 俺たちは今、馬車に乗りドレスラード目指して街道をのんびり進んでいた。

 因みに行きとは別のルートだ。

 その理由としては武闘都市を避けるためだ。

 あんな脳みそが闘争に支配されている連中の街にいたんじゃ休まるものも休まらない。ということで別のルートを辿って帰ることになった。


 のんびり街道を馬車が走る――なんてこともなく。


「ぐえぇぇ!」


 俺は馬車の屋根から叩き落された。


「クソがああああああ!」


 すぐに立ち上がり馬車に駆け寄り、飛び乗る。


「ふぎゃ!」


 そんな俺の頭上をシャロが吹き飛んでいった。

 馬車の屋根に登った俺を待ち受けていたのは――クマのぬいぐるみだった。


 ――そうミーシャである。


 短い手足を駆使し俺に襲いかかる。

 俺はそれを必死に避け、隙を見て反撃を繰り出すが……ダメっ……!

 あっさり防がれ、短い前足のパンチを食らい、バランスを崩して馬車から転げ落ちた。


 なぜこうなっているのかというと。

 あれは王都を出発してすぐの頃。

 勇者がこんなことを言い出した――。



 ◆


「よしっ、じゃあ帰り道はミーシャと組み手ね」

「シズクよ、どの程度の力でやればいいんだ?」

「うーん、馬車から落ちる程度でいいかな」

「承知した」


 馬車を運転している後ろで、そんな会話が突然行われた。何の話?

 俺が振り向くと、勇者が歯をむき出しにして満面の笑みを浮かべていた。


「魔法の制御は行きでやったでしょ? 帰りは体の使い方を学びなさい。シャロちゃんと一緒に」

「え?!」


 シャロの驚く声が聞こえてきた。そっちも初耳だったのね。

 ……え?! 俺もやるんですか?!


 ◇


 そんなわけで、馬車の屋根でシャロと共にクマさんの猛攻を回避しているのであった。

 クマさんは当然のように馬車の上を飛び回り、縦横無尽に俺たちを襲い続ける。

 短い手足が防御の隙間を掻い潜り俺の顔面や腹を容赦なく襲う。


 元の世界では馬車から落ちれば大けがだが、この世界にきてレベルという概念を得てから俺の身体能力は向上し続けている。

 今では馬車から落ちても、めちゃくちゃ痛いですんでいる。だが痛いものは痛い。


 それにシャロも盾を使うことを禁止され、避けることをメインに訓練している。

 理由としては――。


「盾の耐久は有限なんだから、避けられるようにしとけー」


 ということらしい。

 敵の攻撃を一手に引き受けるシャロは、その辺も考えなきゃいけないか。

 クマさんの攻撃はだいぶモフッとしているが、馬車の屋根という足場のため、一撃でも食らうとバランスを崩してしまい、落下する。


 逆にシャロは行きの訓練で、屋根でも問題なく踏ん張れるようになっているので、クマさんの一撃が俺よりも強めになっている。

 そんな感じで俺とシャロは、この5日間を馬車の上から落とされ続けながら街道を進んでいた。


 ◇


 野営地用に整備された場所へ到着したので、一旦訓練はお終い。

 俺とシャロは地面に転がりぐったりしていた。

 マリアがその都度、回復魔法を掛けてくれていたとはいえ、痛いものは痛いのだ。


 そんな俺たちをアナとマリアが介抱してくれている。

 俺はアナの膝枕を、シャロはマリアの膝枕をそれぞれ堪能していた。

 アナの膝枕はヒンヤリしてていいな……スベスベやん。


 寝転がる俺らは、せっせと夕食の準備を進めるクマさんを眺めていた。


「ソラ。暇なら手伝え」

「うす」


 俺は立ち上がりクマさんの手伝いを始めた。

 さすがにクマさん1人を働かせるわけにはいかないからな。

 この5日間はクマさんが俺たちのご飯の準備を一手に引き受けてくれていた。

 手持ちの材料をクマさんに教えると、すぐさま献立を考え始め、その中から俺たちのリクエストを聞いたうえで料理を作り始める。

 このクマさん――有能すぎる!!


 アレックス君とクマさんは絶対に引き合わせた方がいいな。

 俺の「楽して美味しいご飯を作ってもらおう計画」の礎になってもらおう。

 多分アレックス君にカレーを教えると、スパイスの調合やら何やらを勝手にやってドンドン種類を増やしてくれるだろう。

 だがそうなると――米がほしい。

 やはり日本人たるもの、米と醤油と味噌が欲しくなる。体が欲している。


 クマさんなら知ってるかな? 聞いてみた。


「米? ああ、シズクが言っていたアレか。すまんな、それらしい物は見たことがない。醤油や味噌というのも、俺は物が食えないので味見できないからな。それもわからん」


 残念。そう都合よくはいかないか。


 そんな会話をしている内に夕飯が出来上がった。

 テーブルに料理を並べていると、シャロ、アナ、マリアの3人がワ~ッと寄ってきた。


 全員がテーブルを囲んだのを確認し、言った。


「いただきます」

「「「いただきまーす」」」



 美味しい夕飯に舌鼓を打ち、俺たちは就寝した。



 ◇


 4人が寝静まったころ。

 シズクから声をかけられた。


「ミーシャ。話あるから来て」

「……わかった」


 この女が何を言いたいのか、何となくだが予想がつく。

 リビングアーマーである自分だからこそわかるのだ。


 ソラが眠る馬車から飛び降り、離れた木の下にやってきた。

 さて、シズクが切り出す前に聞くべきか。

 この女は、自分自身に関する本当に致命的な問題は隠す傾向がある。

 それ自体は悪いことじゃない。自分自身の弱点を他人に晒すのは避けるべきだ。

 だが仲間である以上、俺はシズクの為ならばどんな犠牲も問わない覚悟がある。


 今回の件は……力になれるかどうか。


 黙ってシズクの出方を待っていると、シズクは口を開いた。


「ミーシャ。お願いがあるんだけどいい?」

「……珍しいな。お前がお願い事とは、何時もみたいに適当に頼むんじゃダメなのか?」


 シズクは少し笑い、続けた。


「ふふっ、ううん。これはちゃんとしたお願いじゃないとダメなの。ミーシャにだって何か目的があるでしょ?」

「オレの目的か……」


 オレの目的。それはかつての仲間たちの軌跡を探るものだ。リビングアーマーという創られた種族が、どうやって生まれたのか。

 シズクたちと旅をして、少しはその謎がわかったが、依然として謎は多いままだ。

 シズクたちとの――仲間とする旅を経験したオレは、シズクたちと別れたあと、本来の目的である”リビングアーマーの軌跡を探すこと”を止めてしまっていた。

 いや、1人で旅をすることがつまらなく感じていたのだな。

 だからこそ寄生霊なんぞに体を乗っ取られてしまったのだろう。


 あの時、思わず思ってしまったな。


 このままでいれば――またシズクたちに会えるんじゃないかと。

 まあ、100年も経っていたというのは誤算だったな。1人でいると時間の流れがわからなくなってしまう。

 仲間と旅をした時間のほうが、1人でいた時間よりも長く、永遠に思えた。

 シズクたちと出逢って、何時の間にか俺の目的は、随分とちっぽけなものになってしまっていた。

 今更目的を理由に離れる気にはならない。


 見届けよう、シズク――お前の最期を。


 オレはシズクに、“あること”を聞くことにした。


「シズク。お前の残り時間はどれくらいある?」


「なーんだ。気づいてたの?」

「同じような体なんだ、わかるさ。お前と俺の違いくらい。それに――共に旅をした仲間だ。あの4人よりは、お前のことをわかっているつもりだ」


 シズクは「ふーん」と言い、黙ってしまった。

 しばらく沈黙が続き、不意にシズクが語り出した。


「ミーシャ。今から私が話す事を黙って聞いててくれる?」

「わかった。聞こう」

「ふふっ、ありがと。えーと、まずはね――」


 シズクは語り出した。

 なぜこの姿になっているのか、なぜ異世界人のソラと共に行動しているのか。

 自分が死んだとき、最悪の使徒になる可能性があるということ。その未来を回避するために、自分はやってはいけないことをしたのだと。


 馬車に視線を向ける。

 そこで寝ているのはソラだ。シズクと同じ異世界人。本来はこの世界に存在するはずのない存在。

 シズクは呼んでしまったのだ――自分を消滅させることの出来る力を得られる異世界人を。

 そして、自分の目的をソラが了承してくれたと。怒鳴ることなく、拒絶することもなく、笑いながら受け入れてくれたと。


 全てを話終えたシズクは、ソラに謝罪の言葉を呟き続けた。


 ……なるほど。ソラはオレが思う以上に強い男のようだ。

 できるだろうか、オレにそんなことが……。


 シズクは気を取り直したように明るく振舞った。


「まあ、ね! そういうわけだからさ、あの子たちの面倒見てあげてくんない? 私の一生のお願い!」


 シズクは両手を合わせ、深々と頭を下げ、そしてすぐに顔を上げ上目遣いでオレを見上げる。

 ……はあ、全く。変わらんな。


「わかった。少なくとも、お前が死ぬまでは側にいよう。そこから先は……その時に決める。それでもいいか?」

「うん。ありがと。少しでもあの子たちを強くしておきたいからさ」


 そう言ってシズクは、4人が眠る馬車と小屋を見た。

 一度も見たことのない、慈愛に満ちた目だ。

 正直気味が悪い気もするが、シズクがそういう風に人のことを考えるというのも悪くはない。そう思えた。


「もう遅い。寝よう」

「……そうだね。じゃおやすみ~」


 シズクは馬車に向かって飛んでいってしまった。


 木の幹に腰を下ろし、思案する。


 そうか……ついにオレ1人になってしまうのか。

 リビングアーマーの仲間を求め、さまよっている俺の前に現れた2人の女――シズクとヴァイス。

 初対面のヴァイスがなぜかケンカを売って来て、それをシズクが止めたんだっけか。

 まあ結局、やり合うことになったんだったな。


 〈収納魔法(アイテムボックス)〉から一枚の紙きれを取り出し、眺める。

 そこには3人の人間と赤錆まみれの鎧を着た自分が映っていた。


 シズク、ヴァイス、……ハンゾ……ハンゾウだ。本当に面倒な『呪い』だ。こうして写真を見ないと思い出せないとは。

 3人で旅をし、ハンゾウと出会い、いろいろなことをやったな。悪徳貴族を殺したり、盗賊団を殺したり、魔王の息のかかった魔物を殺したり、冒険者崩れの組織を殺したり……殺すことしかしてないな。

 そのおかげで助かった命はきっと沢山あっただろう。そう思うことにした。


 オレの色あせない大切な思い出。

 ヴァイスは悲劇の中で死に、ハンゾウは恐らく寿命で死んだだろう。そして――シズクも。


 アイツの命は残り少ない。

 本来であれば、本に魂を留めておくなんぞ至難の業だ。過去に挑戦し、失敗した結果出来たのが、リビングアーマーや寄生霊だ。


 本当にあの女と一緒に居ると飽きないな。


 オレと仲間の旅も、終わりを迎えるのか。

 そう思うと、寂しいという感情が押し寄せてきた。

 泣くことの出来ぬこの体が、今この瞬間だけは恨めしく思えた。





 夜は更けていく。


 2人の異世界人が見た、夢の続き。


 その果てに待ち受けた結末。


 そして始まる新たな物語。


 始まりがあれば終わりがある。


 終わりがあるとするならばただ1つ――100年続いた1人の少女の旅路。


 その旅の終わりを迎える時は近い。


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翼に代わるシリアス担当、ミーシャ ただし絵面はふわふわクマさんだ!
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