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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
偽物の王女編

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258.偽物の王女④

 俺たちは謁見の間から逃亡した偽王女のあとを追っていた。


 いざ部屋から飛び出してみると、王城の中にまで例の骸骨が溢れている始末だ。

 王城内の衛兵もその対応に追われているため、偽王女が側を通り過ぎても反応することができない。

 というか、謁見の間にいた人間以外、あの女が偽物だと気づいていないっぽい。


 女はかなり先を走っているため、追いつくのに時間がかかる。俺は言った。


「翼、お前たちは力を温存していてくれ。骸骨は俺が倒す」


 俺は走りながら、空中に魔法陣を描き出すと〈深淵の弩砲(アビス・バリスタ)〉で道行く骸骨の頭部を撃ち抜いていった。

 しかしアイツはどこに向かっているんだろうか。外に出るだけなら窓から飛び降りればいい。だがあの女は王城の中をまるで目的地があるかのように走っている。

 もしかして、王族だけが知っている抜け道を目指しているのか? 入れ替わった時に聞きだしている可能性はある。

 さすがに翼たちがその抜け道のことを知っているとは思えない。


 ……走って追いつくしかないか。俺の魔法を当てるという手もあるが、下手したら死ぬ可能性がある。

 翼の雷で気絶させる手もあるが、コレも通路に人が居る以上被害が出る可能性があるので使うのをためらってしまう。

 あっ、そういえば。翼は雷を体に纏ってすごい速さで動けるじゃないか。そのことを翼に提案してみたところ――。


「僕もそう考えたんだけど、あの偽物が何処に行くのか気になるんだ。もしかしたら、本物の姫様の所に向かうかもしれないし。それならこのまま走ってあとを追った方がいいかなって思ったんだ」

「なるほど。それなら距離を取られすぎない程度に調整するか」


 実際あの女を守る骸骨はもういないわけで、疲れてきたのか走る速度も遅くなり始めている。

 女はヒイヒイ言いながら走っている。お姫様生活を送っていたせいで運動不足にでもなっていたのだろう。

 若い俺たちからしたらなんてことない距離だ。これが老いって奴か……。

 そろそろサライが流れ始めようとしていた時、女が通路の曲がり角を曲がった。

 俺たちも警戒しながら曲がると――。


 そこには――女の姿がなかった。


 あっやべ、やらかした。俺はそう思った。

 女の姿は消えているし、しかもその先は袋小路になっており、扉も窓もない。完全に見失ったのである。


「しまった! あの女どこ行きやがった!」

「隠し扉があるんじゃないでしょうか。探ってみましょう」


 アインが悪態をつき、ミカサさんは直ぐに壁を調べ始めた。

 ちびっ子ニノは杖で床を叩き、言った。


「〈探索(サーチ)〉――駄目ね、なにも反応がない。急に消えるなんて」


 どうやら本当に姿を消したらしい。

 こういう時は素直に勇者に頼ろう。俺は腰から本を取り外し言った。


「勇者の魔法で、何かわからないか?」

「んー? 何でもかんでも私が答え教えたら君ら成長しないでしょうが、自分で何とかしな~。ヒントは壁をよく見ろ」

「ぐっ……壁だな、でもそれってもう答えなんじゃ――」


 俺は言われた通り壁をジッと見た。

 ……黒いオーラが邪魔だな。俺は〈限界突破(リミット・ブレイク)〉を解除すると、黒いオーラは空気中に四散した。

 さて、壁壁……あっ、見つけた。


 壁の一部に魔法陣が描かれているのが見えた。俺はその場所を指差し言った。


「あそこの壁だ、ニノ。お前はわかるか?」

「えー……ごめんなさい。わかんない」

「そうか。みんなちょっと離れてくれ――〈深淵の砲弾(アビス・シェル)〉」


 俺はその壁目掛けて黒い砲弾を放つ。

 黒い砲弾は魔法陣に当たると、黒く光り、ガガガという音と共に魔法陣ごと壁を球状に抉り取った。


 壁の向こうには空洞が広がっており、その奥に下へ続く階段があるのがわかった。

 お、どうやら当たりっぽいな。俺たちは顔を見合わせ、頷くと階段を降り始めた。


 ◇


 階段には、女が灯したであろう〈照明魔法(ライト)〉が残っており、俺たちが何処に向かえばいいのか教えてくれていた。

 しばらく階段を下りた先には、鉄格子がいくつかあり、そのうちの1つが開かれている。


 俺たちはすぐにその鉄格子に近付くと、そこには――偽物と本物の王女様がいた。


 鎖に繋がれた本物の王女様はやせ細っており、お世辞にも元気とは言えない状態だった。

 目だった傷はないが、光が殆ど届かないこの場所に鎖でつながれているため、かなり衰弱している。

 表情は虚ろで、俺たちが来たことにさえ気づいていない様子だ。


 偽物が王女の首に手を回し、叫ぶ。


「ち、近づくな! なんでよ、なんで私が偽物だってわかったのよ?!」


 手にはナイフを持っている。これでは近づいた瞬間に王女の首にナイフが刺さるだろう。

 まあよくあるパターンといえばそうだが、どうするかな……。

 ここで王女を助けても、傷をつけられたりしたら最悪、王族から恨みを買う可能性がある。出来ればそれは避けたい。平和が一番。交渉するしかないか。


「落ち着け。お前はもう逃げられないんだ、これ以上罪を重ねるとどうなるのかわかってるのか?」

「良くて処刑じゃない?」


 アインの言葉にニノがサラッと返した。怖いなぁ。悪くてなんなんだよ……。

 とりあえずは、平和の使者である俺が落ち着かせるとしよう。


「まあまあ、どっちも落ち着いて。どしたん?話聞くよ?」


 俺は笑顔でそう言った。

 俺の対応が気に入らないのか、女は喚き始めた。


「なんなのよ! もう少しで私は幸せになれたのに、なんで邪魔するのよ! 勇者様だっていつも私に優しくしてくれてたじゃない! いいじゃない、私は今まで酷い目にあってきたのよ? これからの人生は素敵なものになるべきでしょぉ! あの男たちは絶対に大丈夫だって言ってたのよ……なのに、なんで……。そ、そうよ。私は利用されていただけなのよ。私は悪くない、だってそうでしょ? アイツらが勝手に計画したことに巻き込まれて、この女と入れ替わっただけなんだから。この女にだって、私は傷ひとつ付けてないわ。私は被害者よ。それに、勇者様もいずれは、別の誰かの入れ物にするとかいっていたもの。私もそのときにこの女と体を入れ替えて、本物のお姫様になる予定だったのに……あ、そうよ、魔王! 魔王も悪いわ! アイツが余計なことを喋らなければ、こんなことにはならなかったのに……。なんでいつも私ばかり……なんで、なんで。ね、ねえ勇者様、あなたは私の味方でいてくれるでしょ? 今まで貴方と過ごしたのはこの女じゃなくて私なの、見た目が気になると言うのならもう少しだけ待っててちょうだい、直ぐにあの男たちに言って、この女と見た目を変えてもらうから。ね? いいでしょ? 私を助けてよ!! 私だけの勇者様でいてよ!! 貴方だっていきなりこの世界に呼ばれた被害者でしょ? ね、逃げましょうよ。私と一緒にどこか、遠くへ。お願いよ、私だけの勇者様ぁ」





 ……うん。

 俺は、何も言えなかった。

 目の前の女がまくしたてるように言った言葉は、完全に自分勝手な言い分ばかりだ。


 シンプルに言って、カス。以上。


 だが、翼は俺の予想に反した行動をとった。


「そうだったんですね。貴女もさぞ辛かったでしょう」


 翼は、手に持つ剣を鞘に収めながら、ひどく優しい声でそう告げた。

 珍しい。翼が女相手にこんな声をかけるなんて……俺は何度も聞いてるが。


 その翼の言葉に、女は目を輝かせながら言った。


「ああ、勇者様……やはり貴方は私だけの勇者様なのですね」


 翼は、微笑みながら近づき、手を差し伸べた。


「さあ、僕と行きましょう。どこか、遠くへ」


 女は、目を潤ませながら声にならない声で頷き、王女から離れ。


 翼の差し出した手を握った。


「ありがとう。僕を選んでくれて」


「もちろんです……勇者様ぁ」









「〈雷撃(らいげき)〉」


 瞬間――女の全身を雷が駆けめぐる。

 声も出せないほどの威力に、女はそのまま気絶し、床に倒れ伏した。



 女を見下ろす翼の瞳は、ひどく冷たいものだった。

 この目には覚えがある。

 俺ですら数度しか見たことのない目だ。たしか俺が中学の頃に、翼のことが好きな女子から、ひどく陰湿な嫌がらせを受けていたのが翼にバレた時だったか……あの時女に詰寄った時の目と同じだ。要はガチギレしている時の目だ。怖ぁ。


「アイン、縛るもの持ってない?」

「え、あ、ああ、ある、あるぞ。ちょっと待ってくれ」


 アインは動揺しながら〈収納魔法(アイテムボックス)〉から縄を取り出し、女をグルグル巻に縛り上げた。


 翼は女の対応をアインに任せ、本物の王女に近寄り、魔力を込めた剣で繋がっている鎖を断ち切った。


「ミカサ、回復魔法をお願い」

「わ、わかりました」


 倒れ込む王女を抱き留めた翼は、ミカサさんに介抱を任せると立ち上がり、言った。


「他の牢屋も念の為に見てみよう。誰かいるかもしれない」

「そうだな」


 俺は頷いた。切り替えはえーなー。

 俺と翼はニノを引き連れ、他の牢屋も見て回った。


 するとそのうちの1つに――。


「ファウスト様!」


 ファウスト……たしかニノの上司で、謁見の間では、そいつがいた場所に“例のローブの男“がいたんだったな。


 翼が牢屋の鉄格子を切り落とし中に入ると、壁や床に魔法陣がびっしりと書き込まれていて、ほのかに光を放っている。


 なんだこれ?

 そう思っていると、翼の剣が纏っている雷が四散した。

 そのようすに翼も首を傾げる。


 腰にぶら下がった勇者が、言った。


「珍しいね〜。かなり昔に使われてた魔法を封じるやつだね。小さい部屋にしか効果はないけど、その分強力なやつよ。まっ、私には効かないけどね〜」


 なるほどね、この牢屋に入れられて無力化されてたのか。

 剣に魔力を纏えないんじゃ鎖は切れないよな、どうやって救い出すか……。


「ソラの魔法で牢屋の外から、壁か床を打ちなさい。それで効果なくなるから」

「……わかった。〈深淵の砲弾(アビス・シェル)〉」


 俺は言われた通り、壁に魔法を当てた。

 すると、ほのかに輝いていた魔法陣から光が消えた。

 外側からの介入に弱いやつだったか。


 すぐにニノが駆け寄り、ファウストなる人物に声をかける。


「ファウスト様! ご無事ですか?! ミカサ、こっちにも来て!」


 すぐにミカサさんがやって来て、回復魔法をかけ始めた。すると直ぐに意識を取り戻し、絞り出すように声を出す。


「き、君たちは……わたしよりも……ひめさまを……」


 こちらも衰弱しているのかだいぶ辛そうだ。

 ファウストの言葉にニノが答える。


「ライラ様はお救いしました、安心してください」

「そう……か。きみが……誰か知らないが。ありが、とう……」

「え……」


 そう言ってファウストは気を失った。

 どうやら、ニノが慕うファウストは最初から偽物だったのだろう。そうなると、1年も前からこの人は、ここに閉じ込められてたのか? よく死ななかったもんだな。


 ニノはショックを受けているようだが、ここでのんびりしているわけにはいかない。早く戻って本物を保護したことを伝えなくては。


 翼がファウストを担ごうとしていたので、俺は止めた。お前が運ぶのは別の人だ。


「翼、お前はお姫様を運べ」

「え? なんで?」

「お前は勇者だ。お姫様を抱き抱えながら現れた方が絵になる。わかるな?」

「言いたいことはわかるけど……わかった。言われた通りにするよ」


 翼はファウストを床に置き、王女の所へ向かった。よし、このおっさんは俺が担ぐか。ヨイショっと――うわ、軽! 大丈夫かこの人。早く治療したほうがいいな。


 牢屋を出ると、縄で縛られた女をアインが抱え、王女を翼がお姫様抱っこで抱えていた。

 ベネ。非常にいい絵面だ、様になってる。素敵。まるでサイゼの壁に掛かってる絵画のようだ。おっさんよりも何十倍もいい。やはり俺の親友である以上、こういう見栄えには気を使って欲しい。勇者がおっさんを抱えて、他の男が姫様を運ぶのは、いろいろとまずい気がしたからな。

 満足した俺は言った。


「よし、謁見の間に戻るぞ」

「うん」

「ああ、急ぐぞ」

「わかったわ」

「行きましょう」


 さあ、行こうか――。


 この戦いを――終わらせに行く!!! ドンッ!!

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― 新着の感想 ―
なるほどつまり翼の召喚からしてニセモノたちの仕事だったわけか 面白くなってきた
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