251.クマさんのミーシャ
とりあえず血が足りないので、遅めの昼食をみんなで取ることにした。
うめっうめっ。
空腹の体に具沢山のスープを流し込んでいく。
ホーンラビットの丸焼きにもかぶりつき、足りない血を作るために、どんどん胃袋に食べ物を詰め込んでいった。
ある程度、腹が膨れたころ。
「で、いつになったらその人のこと話すのよ」
「あたしも気になってたー」
ニノとシャロが騒ぎだした。
まったく……子供はすーぐぬいぐるみに反応するな?
確かにクマさんはリアル寄りの見た目をしているが、ファンシーな見た目をしている。
二足歩行時で身長は120cmあり、茶色の毛並みはモッフモフだ。
何故かツキノワグマのような模様が胸にある。毛色違くない? ツキノワグマなら黒だろ、とツッコミを入れたいところだが、作ったのは勇者だからな……どうせ何となくでそうなったんだろう。クマさんの見た目はそんな感じだ。
……さすがにそろそろ紹介するか。
「えー、こちらは100年前の勇者パーティの1人、ミーシャだ」
「……ミーシャだよろしく頼む」
くっそ渋い声でクマさんは言った。
見た目と全然違う声のせいで違和感が凄い。
俺たちの紹介を聞いた面々は首を傾げ、最初にアインが口を開く。
「ミーシャと言えば、2mはある大男のはずだろ。その――見た目が全然違うじゃないか」
「……あっ! わかった! 鎧の中に入ってたとか?」
ニノの答えに、クマさんは首を振り否定した。
「残念だが違う。オレの種族は『リビングアーマー』という特殊なものだ。そうだな……簡単に言えば、鎧に憑り付き操ることが出来る。今はコレに憑り付いて、操っている」
「リビングアーマー……聞いたことないわよ、そんなの」
「当然だ、オレ以外は全員消えた」
そうだな。勇者が言っていたな、ミーシャはリビングアーマーの最後の生き残りだと。そのせいで文献もほとんど残っていないのかもしれない。
というかミーシャって何歳なんだ?
「ところでミーシャは何歳なんだ?」
「ん? オレか? そうだな……500から先は数えるのを止めたな。あまり意味があるとは思えなかったからな」
500から先は数えてないってことは、少なくともそれ500歳以上ってことだよな。
「ああ、そいつは大体600歳くらいよ。カッコつけてるだけで、本当はちゃんと数えてるから」
「……お前というやつは本当に変わらないな」
勇者の指摘に、クマさんがぷいっとそっぽを向いてしまった。可愛いじゃん。
ん? 何してるんだコイツ。
シャロがゆっくりとクマさんに近づき――抱き付いた。
「おー! モッフモフー!!」
シャロがクマさんをワシャワシャと触りまくる。
クマさんは、すごく鬱陶しそうな顔をしている……。モフモフかいいなあ。俺も触りたい。触ろ。
「おー! モッフモフじゃーん!」
俺もクマさんをモフることにした。
そこにニノも参戦。
「触っていいの?」
「……構わん、好きにしろ」
「わ〜い!」
物わかりのいいクマさんだ。
3人で好きなだけモフモフしたあと、翼が口を開く。
「空、そろそろライラ様のことを話した方がいいと思うよ?」
「ライラ? ……ああ、お姫様が偽物だって話か」
アインが目を見開き、声を荒らげた。
「ちょっと待て! 今のはどういう意味だ?!」
「えーと、俺の見た姫様と、翼たちが見てる姫様の見た目が違うって話だよ」
「そうだね。どうやら、空にはライラ様が別の人物に見えてるみたいなんだ」
アインが口に手を当て、つぶやくように言った。
「なん……で黙ってた?」
「わざと黙ってたわけじゃないって。俺は本当にその人がお姫様だと思ってたんだよ。翼と勇者の話を聞いて、『あれ?』って思ったんだ」
「じゃあどんな見た目だったんだ?」
「そうだな……」
俺は翼たちの時のように、王都で見たお姫様の外見を話した。
話し終えると、アイン、ニノ、ミカサさんの3人は沈黙した。今まで会っていた人物に、偽物の可能性が出てきたんだ。そうなるのも仕方ないか。ましてや自分の住む国のお姫様だ。
最初に口を開いたのは、意外にもアナだった。
「国のゴタゴタはそっちで何とかしてね。私たち、早くドレスラードに帰りたいから」
「一応、国の一大事かもしれないんだぞ?」
「私が子供の頃、小屋に閉じ込められてても、国は何もしてくれなかったんだよ? だから私の知ったことじゃない」
アナの言葉にアインは押し黙る。
まあそうだよな。お姫様が偽物かどうかなんて調べるのは、俺ら冒険者の仕事じゃない。国のそういう機関がやるべきことだ。
翼は勇者という立場上、解決する側に回ることになるだろう。俺としては手伝えるなら手伝いたいが、アナたちとパーティを組んでいる以上、彼女たちを俺のワガママに付き合わせるわけにはいかない。
3人が帰りたいというのなら、俺もそれに従おう。
ということで、俺は黙ることにした。
下手に発言して面倒な展開になるのはゴメンだ。俺も早くおうち帰りたいのよ。
「いや、わかってる。お前らをこれ以上付き合わせるわけにはいかない。この件は俺らで何とかする」
「そお? なら私たちは王都に戻ったらそのまま帰るから」
「わかった」
話がまとまったようだ。
ここから先は一旦、王都に帰ってからだな。俺は手をパンッと叩き、言った。
「そんじゃあ、早速王都に戻る……と言いたいが、正直今日はもう動きたくない。移動は明日でもいいか?」
「そうだね。僕もヘトヘトだからそうしてくれると助かるかな」
俺と翼は魔王を倒したんだ。少しくらい休ませてほしい。多分横になったらすぐ寝られる。それくらいヘトヘトだ。
「わかった。ニノ、ミカサ。お前らもそれでいいよな?」
「もちろん」
「はい、大丈夫です」
向こうはいいみたいだ。さてこっちは……。
アナをチラリと見る。
「もちろんいいよ。今日はちゃんとベッドで寝てね? 頑張ったんでしょ?」
「ああ、超頑張った。その代わり、武器と胸当てが死んだ」
「じゃあ早くドレスラードに戻って、新しいの作らないとね」
「そうだな」
ヴィーシュさんになんて言われるやら……落ちてたから拾った武器を使って、新しいの作れるかな〜? この際だし、ちゃんとした予備も作っておこうか。
街へ帰ってからの予定も決めたので、俺は早めに横になることにした。
血が足りなくてフラフラする。
「俺は先に横にならせてもらうぞ? さすがにキツイ」
「それじゃあ、私と行こっか」
「イキマース!」
足元をふらつかせながら、アナに支えてもらい、小屋へ向かった。
作者はアイン君が嫌いというわけではないのですが、それはそれとして、彼にはガンガン胃を痛めてもらいますね。
 




