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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
夢の続き⋯⋯

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245.寄生霊の最後

 暗い闇の中、自分は、生まれた。


 かつては同胞と呼べる存在がいたが、今では意識があるのは自分だけとなった。

 長い年月のうちに、皆、自己というものを失っていった。


「お前は違うのか」って?


 そうだ。


 我は、他とは比べものにならないほどに、“特別”なのだ。

 多くの同胞たちは、動かぬ物体に憑いたり、小さな生き物に取り憑いたりした。

 そしてそのまま自我をなくし、自分が何者なのかわからなくなる者が後を絶たなかった。


 自分がそうならなかったのは、より大きな生き物に取り憑くことができたからだろう。

 考える力……というものが大きかったからだろうか。

 自分にも、それが良かったのかどうか、よくわからない。


 そうやって、長い年月を過ごしてきたある日、得体のしれない人物に出会った。

 そいつは魔物を使役し、「人間」という種族に反旗を翻していた。


 特にこれといった理由はない。

 理由はなかったが、なんとなくそいつについていっていた。


 それからしばらく行動を共にした。

 恐らく、我に対する向こうの認識は、数多の中の1匹の魔物だ。

 ヤツの命令を受けても、心の中で従っていた訳ではない。ただ単に周りにあわせていただけだ。


 ヤツの命令に従い、人間を襲い、ときにはバラバラに散って身を隠す。

 そんな生活を続けているうちに、ときおりローブを着た人物がヤツと接触していることがわかった。

 忌々しい。

 コイツらは、あの連中――自分たち寄生霊を作った連中と同じ気配がした。

 厳密には違うのだろう。だが、同じ種類の存在なのだろう。直感でそう思った。

 数多の同胞をあのような姿にした者たちと、同じ匂い。

 なぜ、我らと同じ力を与えなかったのか……解せぬ。


 今は、このままでいいだろう。

 いずれ我が力をつけるためにも、この男のそばにいるのが最も効率がいい。

 今寄生している魔物から、より強い魔物へと移り変わっていく。

 そうすれば、より強い魔物の肉体が手に入る。

 いずれは――寄生霊という種が、すべての頂点に立てるように。


 そんな日々を過ごしていると、“ヤツ”が現れた。

 噂には聞いていた、皆が勇者と呼ぶ存在。圧倒的なまでの強者。


 そして、我々と勇者との戦いが始まった。

 それは、ようやく戦力が揃い、人間への総攻撃を仕掛けるのと同じタイミングだった。

 なんと間の悪い……いや、逆を言えば、ここで勇者を倒せば、残りの脅威など無きに等しい。


 いざ戦ってみると、考えは変わった。

 強い。強すぎる。何だあの女は。

 無尽蔵ともいえる魔力から繰り出される多種多様な魔法。まさに人外の存在。


 勇者も脅威だが、残りの3人も今まで出会った人間を、遥かに超える強さを有していた。

 全てを凍らせる銀髪の女。

 どんな魔物でさえも、力でねじ伏せる赤い錆まみれの鎧を着た大男。

 気付けば背後におり、首を斬り落とす謎の人間。


 生まれて初めて恐怖というものを感じた。

 その感情を自覚した時――自分は全てを投げ捨ててその場から逃げ出していた。

 後ろを振り返らず、必死で逃げ続けた。


 必死で逃げ回って……どれ程の月日が経ったのだろうか。

 あれから人を襲わず、時折瀕死の魔物の体を奪い、生きながらえる生活を送っていた。


 そんなある日、ある物と出逢った。

 とある遺跡跡、たまたま立ち寄った場所に”ソレ”は居た。


 座るように置かれた“真紅の鎧“。


 今まで生き物にしか寄生してこなかった自分から見ても、その鎧は美しく――魅力的だった。


 何故このような所に、これ程の物が存在するのか……疑問はあったが、中に人間が居ないことを確認し、取り憑いた。



 ――クソッ!!

 リビングアーマーの宿った鎧だったか!!

 寄生霊と同じように生み出された存在の癖して、奴らは鎧のみに取り憑き、自我を長期間保てる。狡いなんてものじゃない。

 最初から人型で行動出来るずるい奴らだ。


 こんな奴らと同じ鎧など虫唾が走る!


「何だ貴様は」


 不意に声が聞こえてきた。

 コイツ……何故、我の支配を受けて平然としている。余程強力な個体とみた。


『この体は貰い受ける』

 そう告げると。


「ほお? 貴様……寄生霊か。オレの体の主導権を奪うとは……油断していたな」

『……まるで油断していなければ、奪えなかったかのような物言いだな』


 きっと負け惜しみを言っているに決まっている。鎧にしか取り憑くことの出来ない出来損ないの種族め。なんにでも取り憑くことの出来る、我々の方が優秀な種族だ。


「まあいい。人に危害を加えないというのなら好きにしろ」


 思ったよりも、聞き分けのいい奴だ。

 まあいいだろう。次の体が見つかるまでは、この体を使うとしよう。



 それからしばらくして、ローブを着た人間が現れた。

 何やら小難しいことを言っていたが、ほとんど覚えていない。ただ、「ある場所に行けば新しい体が手に入る」と言われた。


 我を作った連中と似たような奴らの言うことを信じるのも癪だが……リビングアーマーと同居するほうが耐えられない。

 我は、その誘いに乗ることにした。


 目的地に着いても、しばらく待たされた。

 まったく……着いてみたはいいが、目玉の魔物が周囲にうようよいるのはどうなんだ?



 そうしてやって来た人間が2人。2人? 奴らの話では1人のはずだが……。


 まあいい、どちらかの体を手に入れればいいだけだ。





 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい! なんだコイツらは!! 特に黒い魔法を放つ男はなんだ!? なぜこの鎧の装甲を削れる!? 並の魔法や武器では、傷1つ付けることができないのだぞ!


 クソッ! やはり奴らの言うことを信じるんじゃなかった……どうにかして、この場を切り抜けねば。


 黒い男の魔力の“質”が変わった。

 なぜ威力が跳ね上がる!? それに、もう1人の男が持つ剣――あれはヤバい。実体のない我に対して、明確にダメージを与えることができる剣だ。

 クソッ、なぜ我がこんな目に……。


 白と黒。


 2つの光がぶつかり合った、その時。


 我が肉体は、バラバラに砕け散った。


 兜だけになった我に、黒い男が近づく。

 そうか、トドメを刺しに来たか……。

 覚悟を決めたその時、なぜか放り投げられた。

 なぜ? ん? き、貴様は!

 投げ込まれた先に、勇者がいた。いたが……なんだ、その姿は? 本? なぜ? さっきから疑問しか浮かばない。

 なぜ勇者がここに居るのか、その答えを得る前に、2人の男が殺し合いを始めた。


 なぜ??


 何なんだこいつらは……訳がわからない。

 そうこうしている内に、黒い男が白い男に負けた。おお!! 思わぬ所で次の体が見つかった。


 黒い男が倒れた。

 寄生霊の本能でわかる。

 あの男は死にかけている――体を奪うなら、今だ!と。


 じゃあな、リビングアーマーのクソ野郎!


 兜から離れ、瀕死の男へと向かう。持てる魔力を振り絞って男の傷を治していく。


 あの力が手に入るなんて、なんという幸運! やはり奴らの話を信じた甲斐があったというものだ。


 瀕死の男の傷が、みるみるうちに塞がっていく。

 さあ、傷は治してやったんだ――その体、もらうぞ。


 男の体へ溶け込むと同時に、意識が深い闇の中へと落ちていく感覚に襲われた。


 なん――だ、今までこん――なことは、なかっ、たは、ず――。


 そこで――我の意識は途切れた。





 次に意識が戻った時は――闇の中だった。


 何処だここは?

 光さえも無い闇が広がる空間。


 いや、微かに水の音と――草木の匂いがほのかにする。

 この空間は一体なんだ? あの男の意識に溶け込んでからの記憶がない。いや、そのままここに来たのか? わからない、なにも。


 頭が混乱している我に声が届く。


【何だ貴様は】

『貴方はだぁれ?』


 不意に聞こえてきた声に体が震える。

 圧倒的なまでの力の差――。

 ただ声を聞いただけなのに、全身が本能で悟っていた。これは“異質”だ、と。

 例えるなら、次元そのものが違う存在。

 どう足掻こうが勝ち目はない。そんな現実を突きつけられて、体の震えを止められなかった。


【……ああ、彼が相手してた奴か】

『鎧の姿じゃなかったかしら?』

【アレはただの入れ物だよ、本体はコッチのようだね】

『あら、そうなのね。力が小さ過ぎて、違いがわからなかったわ』

【仕方がないさ。さて、このゴミがここに入れるはずがないんだけどねぇ……あの娘に利用されたかな?】

『あらあら、私たちのことは黙ってくれてるみたいだけど……仕方ないわね。今回だけ助けてあげましょう』


 謎の存在の会話を、身動きひとつせずに聞くことしかできない。

 ダメだ。邪魔をした瞬間、存在ごと消される――。

 そう、本能でそう思わされるほどの、圧倒的な存在感だった。


【ならコイツはもう要らないね】

『そうね。私たちと彼の世界に邪魔者は要らないわね』


 空気が変わった。


【貴様がこの場に来たことの償いは、その命をもって償ってもらう】

『我らが悠久の地を汚す不遜な輩よ』


【『消え失せろ』】



 暗闇で何かが瞬いた。


 その後に訪れるは、静かな水の音、草木の揺れる葉音のみ。



【静かになったね】

『ええ、これでまた彼の行く末を見れるわね』


【楽しみだね】

『楽しみね』



 静かに笑う2つの存在は、寄生霊のことなど、もう欠片ひとつ覚えていなかった。

寄生霊君はここでリタイアとなります。

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― 新着の感想 ―
空くんに取り憑くのはNG行為…て事ね。うん。
確かに考えてるようでほぼ本能で動いてますね、これ ソラの中の人とは格が違いすぎたか…… あと243話が2個あります
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