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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
夢の続き⋯⋯

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244/338

241.夢の続き。

面の良い男は、いくら曇らせてもいいと法律で決まっているので仕方ない。

 震える手に、はっきりと伝わる感触。

 幾度となく魔物を斬った時と同じ――肉を断ち切る、あの生々しい感触。


 刃を伝い、流れ落ちる赤い雫は静かに、地面を赤く染めあげていく。


 なんで――なんで君は。


 眼前の男の、黒く塗りつぶされた仮面が崩れていく。露わになったのは、いつもの――。


 忘れるはずがない。君の顔だった。


 視界が、まるで白黒写真のように、急速に色を失っていく。


「なんで……」


 喉の奥から絞り出した声は、かすれて震えていた。

 違う、違うんだ……僕は、“あの結末”を変えたくて……。


 手にした剣が力を失い、地面に落ちた。

 思わず、1歩、2歩と後ずさる。


 空は口から血を吐き、膝を折り、そのまま前のめりに崩れ落ちようとした。


「空っ!!」


 咄嗟に腕を伸ばし、その体を抱きとめる。しかし、震える手には力が入らない。歯を食いしばり、全身で必死に支える。


 純白の鎧が、じわじわと赤黒く染まっていく。


「どうして、なんで、なんでこんな――」


 ――はっ! そうだ、ポーションを!


 震える声で呪文を絞り出し、〈収納魔法(アイテムボックス)〉から一番良いポーションを取り出す。

 だが、その手に――空の手がそっと重ねられた。


「いい……だい、じょぶ……ゲホッ」


 血を吐きつつも、空はかすかに微笑みながらそう言った。


「大丈夫なわけあるか!」


 必死にポーションをふりかざそうとするが、空はその手を振り払う。


「すまん……このままで……いいんだ」


 空の体から、少しずつ確実に、命の灯が消えていく。


 そんな……嘘だ。どうして、こんなことに――。

 空の行動が理解できない。

 なんで? どうして? その問いだけが、何度も何度も頭の中を駆け巡る。


 なんで……君は笑っているんだ。


 嫌だ、僕を1人にしないでくれ。

 もう一度君に会えたんだ。

 二度と手離したくない。


 握った手から、力がスッと抜け落ちていく。


 まるで、糸の切れた人形のように――その体はゆっくりと崩れ落ちた。



 腕の中で静かに眠る、親友は安らかな顔をしていた。


 どうして――。

 僕があの時、君に助けを求めたから?

 わかっていた、何度だって見てきた。君を殺す夢の内容を。それなのに……なぜ、防げなかった?

 僕は本当に空を助けたかったのか? どうしてあの時、剣を握っていたんだ。こんな物、最初から放り捨ててしまえばよかったのに。


 夢ならどうか覚めてくれ。

 そんな思いとは裏腹に、一向に目が覚めることはなかった。


 これは、あの夢の続き。


 覚めることのない悪夢。


 終わりの物語。


 あぁ――もう、全てがどうでもいい。

 そうだ。空が言っていた、僕たち異世界の人間が死ぬと、『使徒』という存在になるって。

 なら、もう迷う理由なんて無い。君のいない世界に未練なんてあるものか。

 僕も、すぐにそっちへいくよ。


 “空の血”で赤く濡れた剣を掴む。

 その刃を、そっと喉元に当てた。

 あとは、ただ――力を込めるだけ。それだけで、君のもとへ行ける。

 剣を握る手に力を籠めた。


 だがその時。


 視界の端に、“何か”が映った。

 見たこともない、微細な光の粒子たち。

 それは一定の形を保ち、ゆっくりと僕と空の傍へと舞い降りてくる。

 その“何か”のせいで、剣を握る力が緩む。

 なんだ、これは。不思議な光だ。その光の粒子を見ても、僕の心は何も感じなかった。


 そして――光の粒子が、そっと空の体を包み込んだ。


 その光景を――ただ見守ることしかできなかった。

 横たわる空の体に、”ある変化”が起こり始めた。


「傷が――治っていく?」


 光の粒子が空の体を包み込んだその瞬間、奇跡のような光景が広がった。

 胸当ての隙間から覗く傷が、ゆっくりと、確かに塞がっていく。

 血の気を失っていた空の顔にも、かすかに温もりが戻り始めていた。


 ガシャンと、剣が手から零れ落ちる。


 これは……夢か?

 僕は何もしていない。なのに……こんな、こんな奇跡が起きるなんて。


 微かに空の呼吸音が聞こえ始めた。


 その瞬間、全身の力が抜けるのを感じた。よかった……本当に。

 一筋の涙が頬を伝う。

 役割は終えたとばかりに、光の粒子が空の体の中にスっと入っていく。


 傷は治った。

 だけど、まだ顔色が悪い。

 外傷が塞がったとはいえ、空は血を流し過ぎたんだ。

 直接ポーションを飲ませた方がいいかな……。


 ⋯⋯仕方、ないか。


 〈収納魔法(アイテムボックス)〉から新しいポーションの小瓶を手に取り、口に含む。


 意識のない唇に、顔を近づける。

 こんな方法しかないとわかっていても、胸の奥にある躊躇いは消えてくれなかった。かすかに残る彼の息が、唇に触れる。


 手でそっと顔を傾け、自分の唇を重ねる――。


 息を吹き込むように、そっとポーションを流し込む。すると、空の喉がかすかに動いた。

 ……よかった、ちゃんと飲んでくれた。


 離れた唇には、微かに血の味が残る。


 この瞬間に抱いた想いは、きっと誰にも打ち明けない。

 この一瞬だけは、誰にも渡せない。僕だけのものだ。


 自分でもおかしいと思っている。


 この思いが、一般的ではないと。


 それでも。


 僕は君のことが――。

ラストの口移しは、書くかどうかギリギリまで悩みました。「別にポーションの瓶を口に突っ込めばよくね?」という考えもあったので悩みました。本当に悩みましたよ? 悩んで、悩んだ結果。主人公は意識が無いので、せっかくなのでブチュッといってもらいました。しょうがないですよね? 意識の無い主人公が悪い。それに、命を救う為の救命目的のマウストゥーマウスですから、何もやましいことはありません。


そんなわけで次回から、主人公視点に戻ります。

いつものノリになるので、温度差で体調を崩さぬようお気をつけ下さい。

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― 新着の感想 ―
最後の作者コメントw
もう空さえ無事に生きていてくれるならホモでもいい……! が、バレたとき翼がアナに○されないかちょっと不安ですね。これは、ハーレム入りふらぐなのか……?※なお無機物(本)や植物(ママ)も含む
いや、自然な流れで不自然な点なんて一つもなかったですよ、口移し(白目)
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