238.VS空?①
黒く染まった空はその場に立ち尽くしていた。
その佇まいは、魔王の時と同じだ。
多分あの時同様、こちらから攻撃しないと動き出さないんだろう。
取り敢えずは話しかけてみよう。
「空! 意識はある?」
……反応はなし。それなら。
「空、覚えてる? 君が中学生の頃、怪我もしてないのにガーゼの眼帯を1ヶ月位学校に着けて来てたよね。あの時、僕は心配したけど君は『大丈夫だ……オレの右目のことは、気にしなくていい』なんて言ってたよね。他にもノートに、やたら画数のあるカッコいい漢字を使った技名とか、他にも――」
コレも反応なしか。もしも意識があるなら空の黒歴史を喋れば反応すると思ったんだけどね。違ったか。
そうか、違うのか……それなら仕方ない。
足元にある小石を拾い上げ、空に向かって弱めに投げた。小石は弧を描きながら飛んでいき、空の頭に当たった。あ、ごめん。
空はゆっくりとこちらを向いた。
やっぱり魔王と同じ感じか。
寄生霊――魔王であるミーシャに取り憑りついた存在だ。
なるほど、これで真相がわかった。恐らく空は兜を拾う際に取り憑かれたんだろう。僕と空がなんで戦うのか、ずっと考えていたけど、これで納得がいく。
空の意志じゃなかったんだね。
無理矢理体を操られて、自分の意思とは関係ないことをさせられる。
許せないね……僕の親友をそんな風に使うなんて。
剣を握る手に力が入る。
空はゆっくりと歩き出し、クレーターから抜け出すと、手に持つ剣を地面に擦らせながら、こちらへ向かって駆け出した。
黒いオーラが尾を引くように、“黒いナニカ”の動きに合わせて蠢いている。
剣を構え、空を迎え撃つ。
下から迫る切り上げを、剣を打ち下ろして弾いた。その衝撃に空の体が大きく揺れる。乗っ取られたばかりのせいか、動きに粗さが目立った。
「〈雷撃〉ッ!」
振り上げた手のひらから、一気に魔力を解き放つ。
雷光が唸りを上げて走り、空の体を容赦なく撃ちつけた。
バチバチと音を撒き散らしながら、空は地面を蹴って飛び退き、間合いを取った。
効果はあるようだ。とはいえ、あまり魔力を込めて魔法を撃つことができない。魔物に使うのと同じ一撃を空に向けて撃つと死んでしまう可能性があるからだ。
一番いいのは、空を無力化して、取り憑りついている寄生霊をどうにか引き離すことだ。その過程で空が死んでしまっては元も子もない。
ここは慎重に、空に付いている寄生霊をどうにかしないと。
とはいえ、夢の中の空とは意思疎通ができた記憶がある。もしかしたら、戦っている内に空の自我が戻る可能性があるのかもしれない。
それに賭けるか? いや、様子を見ながらでいいか。不確定要素が多すぎる。
夢の内容も、殆ど終わりの場面だったんだし。一度だって”なぜ戦っているのか”その答えがわかる事はなかった。
「空! 意識があるなら応えてくれ!」
僕は空に呼びかける事しかできない。
顔も黒く染まっている為、表情が読めない。今、君はどんな表情をしているのだろうか。
もしも――その顔が苦痛に歪んでいるのなら。
僕が必ず救って見せる。
 




