237.運命の始まり
戦いが終わり、僕はその場に座り込んでいた。
さすがに疲れた……今まで経験した中で一番つらい戦いだった。
〈収納魔法〉から一番いいポーションを取り出し、飲み干す。
手に持っていた折れてしまった剣も〈収納魔法〉へ収納し、予備の剣を取り出す。
あの剣は、この世界に来た時からの付き合いのある剣だった。
予備があるとはいえ、まさかこんなところで折れてしまうとは思ってもいなかった。
自分でも思っていた以上に、愛着があったんだろうか。なんというか……お疲れ様。直せるといいんだけど。
最後の最後で、あんな一撃が出るなんて、誰が予想できただろうか。
正直な話、僕の一撃で鎧に大きな傷をつけて、そこに空の魔法を撃ち込んでもらうつもりだった。
そのつもりだったんだけどね……空は僕の予想を大きく上回って、なんかよくわからないことをやってのけた。
あの黒いのは一体なんなんだろうか。
ニーチェだっけか……そんな名前の人が言っていた「深淵を覗いているとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」って言葉がある。
あのとき――僕は何かに見られていたような気がした。
たぶん気のせいだろうけど。そう思えるだけの“何か”があった。
……ほんと、空には驚かされることばかりだ。
空はなぜか瓦礫を探っていた。
何をしているんだろ。
「空、何しているの?」
「んー? いや、剣が折れたから落ちてる奴でちょうどいいのないかなーって」
なるほど、僕もと言いたいけど、一応予備の剣は持っているんだよね。
立ち上がり、空の剣を探すことにした。
そのとき。
「お、これでいいか」
そんな声が聞こえてきた。
空が手に剣を持っていた。どうやら、いい感じの剣を見つけたようだ。
それなら、僕の出る幕はないか。
空は剣を片手にクレーターの中心に向かった。
どうやら、落ちている兜が目当てのようだ。一直線に向かっている。
ああ、そうか。僕たちが戦っていた魔王はシズクさんの仲間だ。
もしかしたら、弔い的な理由で兜を使うのかもしれない。
空は、兜を手に取るとピタリと動きを止めた。
「空?」
何だか嫌な予感がした。
そうだ。戦いに集中していたせいで忘れていた。
もしも……僕の見た夢や、ミカサが見た天啓の内容が本当だとするなら、このあと――。
空がいきなり、兜を放り投げた。
兜は、クレーターの外側にガシャンと音を立てながら落下した。
突然、空の体から黒いオーラが噴き出した。
ぞわりと背筋を撫でる感覚。それでも、不思議と驚きはなかった。
この光景は、きっと変えられない。そんな確信が、胸の奥にはあった。
もしも運命というものがあるのなら――。
これが、僕と空に課せられた宿命なのだろうか。
空が無造作にコートを脱ぎ捨てる。
舞い落ちる布の向こうに現れたのは、黒に染まりきった“何か”。
黒いオーラをその身に纏い、あらゆる光を飲み込む、破壊の化身だった。
「空」
僕は静かに名前を呼んだ。反応はなし……か。
予備の剣を鞘から抜き放つ。
大丈夫、夢のようにはならないよ。
絶対にあんな結末になんてさせない。
きっと変えてみせるさ。
空が死ぬくらいなら――僕が。
ツバサくん重てーな……何この子……。




