表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
夢の続き⋯⋯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

238/346

235.VS魔王③

「〈限界突破(リミット・ブレイク)〉!」

「〈神威・武甕槌神(カムイ・タケミカヅチ)〉!」


 2人の声が同時に重なった。

 空の“とっておき”と、僕の“切り札”。その2つの同時発動。

 雷光が再び身体を包み、バチバチと音を立て体の周囲を雷が迸る。

 空は確か、リミットブレイクと言った……限界突破か。一体どんな効果があるんだろう。

 僕はチラリと目線だけを空に向けた。


 そこに立っていたのは、黒いオーラを纏った空――だが、白いコートの下から覗かせる“ソレ”は人ではない“ナニカ”に見え、思わず体が震えた。


 黒いオーラは不気味に蠢き、形を定めず揺らいでいた。

 だが次の瞬間、ピタリと動きを止め――コートの外側へと滲み出し、純白の布地を漆黒に染めあげ侵食していく。

 コートの色が変わるにつれて、普段の空が現れていくように感じた。


 その光景に、安堵に似た感情が生まれた。

 空が違う“ナニカ”に変わってしまうんじゃないか、そんな思いが頭の中をよぎったからだろう。

 いつもの空の顔を見た時、僕は心の中でほっと溜息をもらした。


「よっし! 翼、準備はいいな?」

「あ、ああ。もちろん!」


 良かった……いつもの空だ。

 隣に立っているのは、いつも通りの空だ。さっき感じた思いは、きっと気のせいだ。見たこともない光景だったので、そう思ってしまったのだろう。


 1つ息を吐き出し、気合いを入れ直す。よし、もう大丈夫。

 何故か魔王もこちらの様子を伺っているようだ。

 その“何故か”の答えはすぐにわかった。


「準備は終わったか? そろそろこの体を抑え込むのも限界が近い。僅かに攻撃の軌道を逸らすことも、もう出来ないだろう。心してかかれ」


 どうやら今までの戦いは、彼がある程度鎧の動きを抑えていてくれたようだ。

 そうか……抑えてあれか。ということは、ここから先は本気の状態になるわけか。


「翼。最初に撃った魔法また撃てるか?」

「え、一応撃てるけど……どうして?」

「抑えてくれてるうちに、1番強い魔法を当てとこうと思ってな」


 ……空はすごいな。多分、相手は善意のつもりで抑えてくれてるんだろうけど、それを平気で利用するなんて。

 卑怯だとか、恩知らずだと言う人はいるだろうけど、僕は空のこの考え、嫌いじゃない。

 今は命を懸けた戦いの最中だ。そんな綺麗事を言っている暇なんてない。

 やることは決まった。一気にケリをつけよう。


「空、準備はいい?」

「もちろん。行くぞ!」


「〈万雷神解け(ばんらいかみとけ)〉!」

「〈深淵の墓所(アビス・グレイヴ)〉」



 幾重にも重なった万雷の閃光が、容赦なく降り注ぐ。

 それは本来、肉を焼き焦がし、骨すら粉々に打ち砕くはずのものだ。

 中身の無い空っぽの鎧に対して、何処まで効果があるのかわからない。それでも、ダメージと呼べるものが少しでもあるのなら――!

 全身の魔力が高まるのを感じた。




 地面に、漆黒と深緑の入り混じった魔法陣が、じわりと浮かび上がる。

 ……さっき見たものとは、明らかに違う。

 あの時の魔法陣は、外周だけが深緑に染まっていた。

 けれど、今この目の前に現れた陣は、黒と緑が対等に混ざり合っている――。

 2つの模様が重なり合い、1つの陣を形成した。




 現れ出ずるは、深淵の茨。

 夥しい棘を生やし、ねじれるように曲がりくねった茨が、地面を割って姿を現す。

 真紅の鎧を覆い隠すように――凶悪な棘がぶつかり、鉄と鉄がぶつかり合うような轟音が辺りを揺らす。


 轟音が途切れ、茨が枯れるように四散する――。

 姿を現した鎧は、全身に無数の傷が刻まれ、あの鮮やかな真紅の輝きを徐々に失いつつあった。



 ゾクリ、と背筋を冷たいものが撫でていく。

 これが……空の“とっておき”か。

 先ほどまでとは次元が違う。もし生身で受けていたなら、肉片すら残らなかっただろう――その一撃に、思わず体が震える。

 だが、それと同時に、別の感情が胸を満たしていく。

 空は……どこまで僕を驚かせるんだ……!


 それは驚愕であり、尊敬であり、そして――嫉妬だった。


 追いつきたい。

 離れて行く、親友の背中に追いつけるように。


 そうだ。


 空の隣に立つのは――僕だ!


「〈エアリアル〉!!」


 魔王目掛け、魔力で作りだした足場を駆け上がる。

 魔王は先ほどのダメージなどないように動きだし、地に落ちた武器へと一直線に駆け寄った。


 させるか! 足場を蹴って一気に距離を詰め、魔王へと飛びかかる。剣を両手で握りしめ、渾身の力を込めて振り下ろす――が、魔王は身を捻ってその一撃を躱した。

 魔王は地を転がりながら、落ちていた武器を素早く手にした。くそっ、間に合わなかった……!

 だが、さっきよりも動きに精密さが欠けているように見えた。

 跳躍し、魔力の足場を踏みしめた――その瞬間、ある感覚が脳裏をかすめた。


 この感覚……覚えがある。

 訓練の時、何度も味わった、あの感覚だ。

 同時に、頭の奥底で声が響いた。


「使え。」


 たった一言。

 その言葉だけが、雷鳴のように脳裏をかすめた。


 ”1つの言葉”が口から零れる。



「〈韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)〉」


 剣を左手に持ち替え。

 右手に、雷と共に現れた“その剣”を握る。

 それは、雷で形作られた――白く輝く直刀だった。


 直刀を握った――まさにその瞬間。

 全身を包む雷の衣が、さらに激しく脈動するのを感じた。

 それはまさに、白雷の名にふさわしく、白く、穢れなき光を放っていた。



ソラの〈限界突破(リミット・ブレイク)〉は魔力を貯めないと使えないので、マジでここぞという時の”とっておき”となっております。


ツバサは一定量の魔力で、一定時間使えるので、使い勝手はいいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そろそろ決着からのイベントムービーの時間かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ