228.お前ら邪魔
その後、翼たちの姿を確認したのはそれから4日後のことだった。
「ごめん。結構待たせちゃったね」
「気にすんな。騎士団も一緒に移動してるならそんなもんだろ」
俺たちみたいに夜通し移動してるわけじゃないだろうし、4人と大人数では移動速度に差が出るのは当たり前のことだ。
翼たちと無事合流できたので、さっそく情報の共有を行った。
まずは、こちらで調べた情報だ。かくかくしかじか、こしたんたん。
俺は、ミーシャの状態と街の中にミンミンアイという魔物が大量にいることを4人に伝えた。
「ミンミンアイか……たしかにここら辺では見かけない魔物だな」
「資料で見たことはあるわね。目玉だけの魔物だから、倒すのは簡単なんだっけ?」
そうだ。倒すのは簡単なんだろうが……今回は1体や2体なんて数じゃなく、それこそ何百体といる。
この4日間は、催眠魔法に耐性のある俺と勇者が偵察をしていた。
双眼鏡を使って遠くから外壁を見たときは、思わず悲鳴が出た。
外壁にびっしり、ミンミンアイが張り付いていたのだ。蓮コラみたいな光景は、思い出すだけでもゾッとする。
勇者はケロッとしていたが、話によると街の中にも、けっこうな数のミンミンアイがウロウロしてるらしい。地獄かな? あまりにもひどい絵面に、俺のテンションはガタ落ちである。
さて、そろそろ本題に入ろう。
「ってわけで、魔王を倒すのは俺と翼の2人だけになりそうだ」
するとアインが、口を開いた。納得がいかないのだろう。
「理由はわかった。けど、俺たち抜きでお前らだけが戦うのは納得できねぇ。危険すぎる。俺は反対だ」
「そうよね。さすがに私も見過ごせないわ。1回戻って対策してから、またここに来ればいいでしょ?」
ニノも反対のようだ。まぁ、そうだよな。このパーティは魔王を倒すために集まったんだ。いざ戦うって時に、翼以外はお留守番ってなったら、そりゃ納得いかないよな。
そんな2人に勇者は言った。
「正直な話すると、魔道具じゃあんまり効果ないと思うよ。あの数だし、物量で押されたら普通にアウトだからね」
「だとしても、2人だけは危険すぎる!」
そんなアインの様子を見た勇者は、ある一言を言った。
「あー、じゃあハッキリ言うね。お前ら邪魔」
シンッと場が凍りついた。
何を言うかと思えば……なんてことを。
あーあー、アインがプルプル震えている。さすがにこれは怒るよな、魔王を倒しに来たのに邪魔者扱いされちゃあな。俺も怒る。「もうおうち帰る!」ってなると思う。
「俺たちの、どこが邪魔だって言うんだ?」
「えー? そうだなー、まずは2つのパーティ同士の連携ができてないってのもあるしー、それと、ソラとツバサ君が全力で魔法を使えないってのが致命的かな〜。君たちさ、ソラの魔法、避けられる? もしくは弾ける? 無理でしょ? ツバサ君の雷だってそうでしょ。彼は無意識のうちにソラには当たらないようにしてるんだよ、キモいよね。君らにはそれが該当しないから邪魔なんだよね」
「そ、そんな言い方……!」
勇者の言うことも一理ある。あるが、もうちょっと言葉を選べんのかねコイツは。いやまぁ、ここで「じゃあ一緒に行きましょう」と言うこともできるが、今は黙っていた方がいいな。俺は空気……。
アインとニノは勇者に詰め寄るが、ミカサさんだけは冷静だ。聖女なだけあって落ち着いてるな。マリアにぴったりくっついてる以外は。
そんな中、翼が口を開く。
「アイン、ニノ。ごめん」
「……なんでお前が謝るんだ」
「そうよ。悪いのはこの本でしょ」
「いや、そうじゃないんだ。僕も、空と2人で行くつもりだった」
「「はぁ?!」」
綺麗に2人の声がハモったな。というか、翼も俺と2人で魔王を倒す気でいたのか……なんで?
俺が疑問に思っていると、翼は言った。
「昨日、ミカサが『天啓』を授かったんだ。そこには、僕と空の2人だけで魔王と対峙していたらしい。そうだよね? ミカサ」
「……はい、昨日の夜――正確には昼頃ですね。その時に『天啓』として、ある場面を見たんです。そこにはツバサさんとソラさんが、2人だけで赤い鎧の人物と戦っている光景でした」
「マジかよ」
「そうなんだ……」
なんか2人が納得している。天啓……だっけか、なんのことなのかサッパリだ。聞いてみるか。
「マリアさん、マリアさん。天啓ってなんですか?」ヒソヒソ
「神様からのお告げを受け取れる“祝福”のことですよ〜」ヒソヒソ
なるほど。そういう祝福もあるのか。神様からのお告げか……いるの? 神様。とてもじゃないが信じられないな。
「『天啓』って、要はあれだね。未来予知と同じ感じだね」
勇者がそう言った。
あー、そういうやつか。未来の出来事がわかるなんて、そりゃ神様が絡んでると思うよな。てことはこの先の魔王戦の行方もわかるってことか。これはもう勝ち確では?! 楽できそうで助かりますなぁ!
俺の考えとは裏腹に、勇者は続ける。
「未来予知って言っても、任意で発動できないし、見る内容も選べるわけじゃないのに、教会の連中はありがたがってるみたいね、私的には微妙な祝福だと思うけどね〜」
身も蓋もないことを……まあ、現実はそううまくいかないものか。少なくとも、俺と翼が魔王と対峙するまでは、無事なことがわかったんだ。それだけでも良しとしよう。
アインとニノは押し黙ったままだ。
『天啓』の祝福ってそんなにすごいものなのか? 俺には凄さがいまいちわからないが、このまま納得してもらおう。
「アイン、ニノ、あの場所へは俺と翼じゃないとダメっぽいんだ。でも、2人の力は必ず必要になると思う。だから、その時に力を貸してほしい」
「…………あ゙ー! わかったよ! ミカサが『天啓』でそうなるって言ってんなら、そうなるんだろうよ。はぁ……まったく……泣けてくるな」
「そうよね……ってことは魔王を倒した時の報奨金は無しってこと?! 困るわよ!」
アインは聞き入れてくれたみたいだが、ニノは別の理由で騒ぎ出した。報奨金か……できれば俺も欲しいが。異世界人の俺が王城に行くのは、いろいろと面倒事になりそうだな。諦めるか……。
「いや、魔王を倒したのは翼たちパーティってことにしてくれ。俺は異世界人だからな、国に存在がバレると面倒くさそうだ」
「いいの? なら遠慮なく貰うわね」
なかなかいい性格してるな、このチビッ子は……。
まぁいいか、これで皆納得してくれたわけだが、いつ魔王に突撃しようか。さすがに今日これからってのもな、心の準備が整っていないので勘弁願いたい。俺は翼に確認することにした。
「翼。俺とお前で魔王のところに向かうけど、行くのはいつにする? さすがに今すぐってわけにはいかないよな?」
「そうだね……早くて明日かな。団長さんも、コチラのタイミングで良いって言ってたし」
「なるほど、それなら……ミカサさん。俺と翼が魔王に挑んだタイミングってわかりますか?」
「すいません。『天啓』では既に戦っている光景しか見えませんでしたので……いつ挑んだか、まではわからないんです」
そうか、天啓といってもそういう細かい所まではわからないのか。うーん、どうしようか。俺が悩んでいると、翼が言った。
「空さえよければ、明日、魔王に挑もうと思う。どうかな?」
「明日か……そうだな、うん。わかった。よし! お前たち! 明日、魔王を倒しに行くぞ!」
俺は全員にそう宣言した。
明日、いよいよ魔王と戦う。
それはつまり、勇者が示した作戦を実行する時でもあるということだ。
あー、やだなー。でもこの方法しか手がないわけで……仕方ないか。
勇者に任せろと言った手前、後に引くことが出来ない。
仕方ないか。
初めて勇者のあんな悲しい顔を見てしまったんだ。
俺は女が悲しむ顔をしているのが嫌な男だ。ま、旨くやるさ。
明日の魔王戦を前に、俺は決意を新たにした。




