226.寄生霊
今回の魔王騒動は、100年前の後始末だったことが判明した。
それについて勇者を責める気はない。
誰も、100年前の生き残りがこんな騒動を引き起こすなんて思いもしなかったはずだ。
予想外の出来事が重なって起きた結果が、今回の魔王騒動なのだろう。
そうなると、疑問は残る。
なぜ、魔王は勇者を求めたのかということだ。何かの目的があってそうしたのかもしれない。
特に今回は、魔王とされる人物が100年前の勇者パーティの1人だ。
王国への不満がそうさせたのか? それとも何か事情があるのか……。
……まさか、勇者シズクなら自身の問題を解決できると思って、そう言ったのかもしれない。
いや、さすがに100年も経てば、自分の仲間が死んでるかくらいはわかるか。この考えはないな。
ま、理由はなんでもいいか。
今は俺と翼だけで、魔王を倒す理由を聞かないといけない。
「まぁ、うん、取り逃したのは仕方がないよな。それよりも今は、俺と翼の件が先だ。一体どういう意味なんだ?」
「あれ、てっきり責められると思ってたんだけど、いいの?」
「100年前の失敗を蒸し返す気はねぇよ。ちゃんと魔王は倒してるんだし、それでいいだろ」
「ほーん、お優しことで。えーっと、ソラとツバサ君の2人で魔王を倒す理由だったね。簡単に言えば、2人が異世界人だからってこと」
簡単すぎる理由だな……なんもわからん。
もう少し詳しく話してもらいたいが、多分今からその説明をしてくれるのだろう。
「……」
「……」
「え、終わり?」
「簡単に説明したじゃん」
「簡単すぎるんだよ! もっと詳しく説明しろや!」
無言が続いたからビックリしたわ。そうだ、コイツはこういう奴だった。カス勇者がよぉ。
「そうだなー。順を追って説明するけど、さっきミーシャの体の主導権が奪われてるって言ったでしょ? まずはその主導権を奪った相手のことから説明かな〜って」
俺と翼の件は後回しか……まぁいい、とりあえず話を聞こう。
それにしても、体の主導権を奪った相手ねぇ……あれ、これミーシャって人、死んでね?
「主導権を奪われたということは、そのミーシャという方は、もう亡くなられているということですか?」
マリアがそう言った。
そうだよな、俺もそう思った。俺の知ってる漫画やアニメのリビングアーマーは、鎧自体に魂が宿っている存在だ。
その鎧の主導権を奪われるってことは、死を意味するんじゃないのか?
「いやー? 多分意識はあると思うよ。単純に自分の意思で体が動かせなくなってる感じ? 『くっ、体が勝手に!』みたいな。ミーシャが言ってたけど、誰かに鎧を着られると、体の自由が効かなくなるんだって」
「そのミーシャの体を乗っ取ったのは、どんなやつなんだ?」
「寄生霊っていうのだね。こいつも昔に生み出された生物……いや、思念体的な存在かな。生き物や無機物に寄生するの。それで、こいつの面白いところは、“死にかけの生き物”に寄生した後、その傷を治してから、『助けてあげたんだから、もう俺のモノでしょ?』ってノリで、宿主の体を完全に乗っ取っちゃうみたい。それで、無機物……たとえばリビングアーマーみたいな“中身が空っぽの器”に入り込んだときは、鎧の中を自分の魔力で満たして、完全に自分の意思で動かせるようになるんだよね」
なるほど。何らかの方法でミーシャの隙をついて、鎧の中に侵入し、体の主導権を奪い取ったのか。
そんな簡単に奪えるなら、リビングアーマーの天敵みたいな存在なのかもしれない。
「たしか、ミーシャはリビングアーマーの最後の1人だったよな? その……寄生霊ってやつに、他のリビングアーマーは滅ぼされたのか?」
「違うよ。リビングアーマーを殺す方法はミーシャから聞いてるけど、リビングアーマーからすれば寄生霊は大した脅威じゃないんだよね。知能も低いし、せいぜい死にかけの小さな生き物に取りつくくらい。物に寄生しても、動かない物ならそのままずっと動かないし。全身の鎧じゃなくて、篭手とか体の一部だけのものに寄生することが多いかな」
……ますます訳が分からない。
勇者の話ではまるで脅威に感じないし、ミーシャの体を乗っ取るだけの力は無いように思える。
「じゃあなんで乗っ取られたのー?」
シャロにすら疑問に思われてる。別にシャロがアホの子というわけではないが……シャロだからな。うん。
「あー、私の言い方が悪かったか。ミーシャに寄生してるやつは特別でね。さっき言ったように、100年前の魔王戦の時に取り逃したやつなんだよ。魔物でもないのに魔王に従ってたから、変だな〜とは思ってたんだけど、いざ戦いが始まったら中盤くらいで逃げちゃってさ。他のは全員死ぬまで襲いかかってきたのに、そいつだけ逃げたから印象に残ってたんだよね」
「つまり、他の個体よりも頭が良くて、かなり強力なやつだったってことか」
「そうだね〜。多分この100年で相当力をつけたんじゃないかな。じゃないとミーシャの体を乗っ取るなんてできないし。人間にも、規格外の強さを持つやつがいるでしょ? そんな感じだと思うな〜」
勇者の話を簡単にまとめるとこうだ。
100年前の魔王戦で取り逃した寄生霊の生き残りが力をつけ、ミーシャに寄生し、自分を魔王と名乗っている、って感じか。
うーん、それなら勇者を呼んでいるのも納得できる……か? リベンジマッチ的な?
「さて、ここまでの話で質問したいことはある?」
「はい」
「はいアナちゃん」
「結局ミーシャって人を、貴女はどうしたいの?」
「うーん。本音を言えば助けたい。助けたいけど……ねぇ」
勇者はチラリと俺に視線を向けた。
え、なに、俺次第な感じ?
俺にできることなんて、相手を消滅粉砕することくらいだぞ?
命を助けるって……俺は真逆の存在なんですけど〜。
「……わかったよ。なにすればいいんだ?」
「この方法は正直、私も反対なんだよね」
「とりあえず話すだけ話してみ? やる、やらないはそれから決めればいいんだし」
「わかったよ……あのね――」
……。
……え、マジ? それを俺がやるの? うそでしょ。
 




