219.力を貸してほしい
3人の気持ちも確認できたことだし、話し合いを始めよう。
まずは何から話し合おうか。
僕がこの世界に呼ばれた理由を考えるのは恐らく無駄だろう。正直な話、“ 魔王を倒すため”以上の理由が思い浮かばない。
うーん……ダメだ。いくら考えても何も思いつかない。
実はすごい単純な理由だったりして? さすがにそれはないか。逆にその単純な理由を考える方が難しい気がする。
一度、僕がこの世界に来た時の状況を振り返ってみるのもいいかもしれない。
3人にこの世界に来た時のことを話す事にした。
「そういえば、僕がこの世界に来た時の話ってしたことなかったよね」
「……確かに、聞いた覚えが無いな」
「でしょ? もしかしたら別の視点が得られるかもしれないし」
「そうね。とりあえず話してみなさいよ」
「そうですね。私も気になります」
えーっとまずは何処から話そうか。空と教室のドアを開けるまでの話は飛ばしてもいいかな。
「皆も知っていると思うけど、僕の幼馴染でもある空と一緒にいる時に、この世界に飛ばされたんだよね。こう、ドアを開けた時に目もくらむような光が飛び込んできてね。光が落ち着いた時には、もうこの世界に来ていたんだよ。それで、黒いローブを着た人たちが周りにいてね。「成功した」とか言って騒いでいてね。そうしたら扉が開いて、えーっと確かニノの上司の人だね。その人が入って来たんだ」
「え? ちょっと待って」
急にニノが話を遮った。何かおかしなところでもあっただろうか。
ニノは少し考える仕草をしてから口を開いた。
「ツバサが召喚された部屋に、ファウスト様はいなかったの?」
「うん、最初にいたのは黒いローブを着た人たちだけだったよ。……ほら、ニノもよく着てるああいうの」
「……いや、それはおかしいでしょ。勇者召喚のような難易度の高い儀式を、ファウスト様抜きで行うなんてあり得ないわ」
「ツバサ、本当に間違いないんだな?」
「うん。間違いない。少なくとも、ファウストさんはあとから部屋に入ってきた。僕は気にしなかったけど、不自然なことなんだね」
「当たり前でしょ、宮廷魔術師のトップが召喚主じゃないなんて、ありえないわよ」
ニノが声を張って言った。
僕自身はあまり深く考えていなかったけど、同じ宮廷魔術師であるニノからすれば、それは明らかにおかしな話だったらしい。
となると、ニノの上司は知っててそうしたということになる。
すでに3人中1人はアウトか……。
王城内で信用できる人間は少ないと考えた方がいいか。
正直……空の力を借りたい。でも空を巻き込むのは嫌だ。空は既に、先代勇者をその手で殺すという重荷を背負う覚悟を決めている。だからこそ、僕の事情にまで首を突っ込ませるわけにはいかない。
巻き込みたくはないが……信頼できる相手が欲しい。アイン、ニノ、ミカサもいるが、3人には申し訳ないけど、正直心もとない。
今僕はどんな顔をしていたのだろうか。
ミカサが僕を見つめながら言った。
「ツバサさん。お姉様たちを頼るのはどうでしょうか」
「……たしかに、今の状況では外部の力も欲しいところだ。向こうには“血濡れの魔女”もいるしな。国が相手でも平気でケンカを売るようなイカれた女だ。それを手懐けている、お前の幼馴染をこちら側に引き込めるなら、ぜひそうしたい」
空の協力を得るのを拒むのは、僕の個人的な感情だ。
空を危険な目にあわせたくない。
僕が助けを求めたら、空はきっと答えてくれる。
空はきっと言うだろう、「気にするな」と。そんな彼に甘えてしまう自分が嫌になる。
いや、ここはもう覚悟を決めるしかない。
空に大きな貸しを作ることになるだろう。その貸しを返すために、僕にできることは……。
その為にも、魔王を倒して自由に動き回れるようになる必要がある。
僕の答えを知っても、君は受け入れてくれるだろうか。
フフ……魔王を倒すことよりも、空に拒絶される事の方が怖いなんて勇者失格かな?
いいさ、明日。僕は空に力を貸してほしいとお願いすると決めた。
その後、夜遅くまで話し合いを続けた。
◇
次の日になり、翼たちと合流した。
今日は何するかなー。昨日の爆弾発言のせいで、予定を決めないまま解散になったんだよな。
無難に王都周辺で狩りか、ダンジョンのボスを倒すかだな。どっちがいいかな~。
「空。今日なんだけどさ、2人ですごさない?」
翼が合流してすぐにそんなことを言った。ここで少女漫画なら、トゥンク⋯とする場面だが。相手は翼だ、別にときめきを感じる事は無い。元の世界でも2人で遊びに行ったりってのは何度もしている。2人ディズニーすらしている仲だ。後日、翼の妹にブーブー言われたっけか。
多分、昨日の話を聞いた俺が、魔王退治に協力するかどうかの答えを言いたいんだろう。
さて、うちの3人娘が何て言うかだな。
「俺は問題ないが……3人はどうする?」
「それなら、今日は休みにしたらどうかな?」
「さんせー! 色んな所見たいー」
「いいですね~。ミカサとニノさんは一緒に行きましょうか~」
あっさり決まったな。あっ……待って。あの、アイン君が……ね、その、1人になっちゃうっていうかね。
「⋯⋯それなら俺は用事を済ませたいから、抜けさせてもらってもいいか?」
「お、おう。すまんな。そうしてくれると助かる」
「?……何が助かるのか、よくわからんが。夜はどうするんだ?」
「あ、じゃあ陽が暮れたらアナの家に集合で」
「わかった」
そういうことになった。
陽が暮れるまでは、各々好きに過ごすとしよう。
◇
翼と一緒に王都をブラブラしている。
王都は相変わらず広いなー。ワープポイントが欲しいくらいだ。
王都をブラついているが、翼の口数が少ない。俺が話しかけても「ああ」とか「うん」しか言わない。
なんだなんだ、俺と久しぶりに2人っきりだというのにその態度わー!
自分の中で答えは出てるのに、まーだグダグダ悩んでやがるな?
「おい翼。早く言え」
「え、いや……でも」
「でも、じゃねえよ、言えって。簡単な言葉だろ?」
そうだ。“ たった一言”言うだけで終わる。
「わかったよ。空にはかなわないね」
翼はひとつ笑うと、言った。
「空。力を借りてもいい?」
「おう。任せろ!」
俺は笑いながらそう答えた。
お前が困っているのなら、俺は何時だって力を貸すぜ?
なあ、親友。
 




