218.導き
あれから俺はひたすらトンカツを揚げ、全員の腹を満たした。
アインとニノは、半ばやけ食いみたいになっていたが、仕方ないか。
変な陰謀に巻き込まれている可能性が出たんだ。だれだって嫌になるよな。
俺だって勇者の適当っぷりに振り回されたりして、ヤンナルネ。
ホント、ヤンナルネ。
その後は特に目新しい情報も出ることなく、トンカツパーティが終わった。
「それじゃ僕たちは帰るね。おやすみ空」
「おう、気を付けて帰れよ~」
翼たちが帰っていった。
4人を見送り、アナの家に戻ると。既に二次会が始まっていた。
……揚げ物ばっかりだったから、ここからはさっぱりした物を中心にしよう。
野菜マシマシアブラ少な目で!!
◇
トンカツパーティ解散後。
空たちと別れ、王城への道を歩いていた。
正直な話、王城から外に出るのに結構時間がかかる。馬車を使うという案もあったけど、僕の存在は秘密にされているので、あまり目立つ行動は避けた方がいいということで却下された。
明日からは、城下町に宿を取った方がいいかもしれない。
着ている装備は付与魔法の効果で、重さがかなり軽減されている。防御力も上がって、各種属性への耐性もあるのだとか。一言で言えば、かなり性能の良い高級品ということになる。
最初はお姫様が、「王家の紋章を入れましょう」とか言っていたけど、周りが止めたらしい。
まぁ、そんな装備を身につけているとはいえ、この道のりを毎日徒歩で行き来するのは面倒だし、何より疲れる。
「いい加減、街に宿取らない? 毎日王城に帰るのキツイんだけど……」
「そうだね。僕もそう思うよ」
ニノが愚痴をこぼすのも無理はないか、彼女は元々運動が苦手だったみたいだし、毎日のこの道を歩くのはしんどいか。1番年下だもんね。
アインとミカサは、家を出てからずっと口を閉ざしている。
先代勇者の言った言葉が、彼らに重くのしかかっているのだろう。
『ツバサ君は魔王を倒すために呼ばれてないよ』
彼女は確かにそう言った。
僕が魔王を倒すために呼ばれたわけではないのだとしたら……僕は、なぜこの世界に呼ばれたのだろうか。
心の中にふつふつと怒りが湧いてくる。
召喚された時と同じ気持ちだ。
あの時と同じく、「ふざけるなよ」という思いがある。魔王を倒せと言われて来たのに、急に「別の理由がありました」なんて、簡単に受け入れられるはずがない。
……はあ。いっそのこと、すべてを放り出して逃げてしまおうか。空について行って、例の薬を探すのもアリかもしれない。
僕がいきなりそんな行動に出たら、空はどんな反応をするだろう。やっぱり、妹に似た見た目になるんだろうか。そのへんは、実際に使ってみないとわからないんだろうな。
でも……実際には、逃げるなんて無理だよね。
この先のことを考えるなら、魔王はきちんと倒しておいたほうがいい。そうすれば、あとあと動きやすくなるはずだ。
空を危険な目にあわせたくはない。でも……やっぱり、力を借りるしかないのかもしれない。
王城に戻ったら、まず3人と話をしよう。
結論が出たら――明日、空たちに伝えよう。
ニノの愚痴を聞きながら、僕たちは王城の門をくぐった。
◆
「3人とも、このまま僕の部屋に来てもらってもいいかな?」
「ああ、もちろんだ。そのつもりだったしな」
「そうね。今後のことも話し合いたいしね」
「では、参りましょう」
3人も僕と同じ考えだったようだ。
そのまま僕の部屋に向かって歩き出した。
部屋に戻り、全員がソファーに腰を下ろす。
さて――話し合いを始めたいところだけど、正直、やらかしたかもしれない。
王城内に何やらきな臭い連中がいるとわかった今、この部屋で話をするのは危険すぎる。
……気づくのが遅すぎたか。今後はもっと緊張感を持って行動しないと駄目かな。
「あー、その、話し合いたいんだけどさ。なんて言うか。ね?」
我ながら何を言いたいのかよくわからない。最悪この部屋は盗聴されてると考えると、迂闊なことが言えない。
すると、ニノが懐から箱を取りだし、自分の横に隠すようにして置いた。あれはなんだろうか。
「さっき、アナスタシアからこの箱を渡されたのよ。内緒話に使える魔道具だって。これで私たちの会話は、他愛のない内容に変換されるから好きに喋っていいわよ」
「なるほど、盗聴されてる前提で使う魔道具か。確かに、いきなり俺たちの声が聞こえなくなるのは不自然だからな」
「では早速、本題に入っても大丈夫そうですね」
「ああ……。とりあえず、まずは3人の気持ちを聞かせてほしい。
僕が、“ 勇者として”召喚されたわけじゃないって、わかっちゃったからさ……」
先ずは3人の今の気持ちが知りたい。
数ヶ月間一緒だったとはいえ、彼らは“ 勇者としての僕”と組んでくれていたわけだし……違うとわかった今、離れていくのも仕方がない。その時は、僕1人で魔王を倒そう。
「おいツバサ。さては俺らが離れるとか思ってないか?」
アインがそう言った。
「はぁ〜。今更抜けるわけないじゃない。そもそも上がアンタを勇者って認めてるんだし、問題ないでしょ」
続けてニノが言う。
「お2人の言う通り。私たちは魔王を倒す、その日まで共に戦う仲間ですよ? ね?」
最後にミカサが、全員の同意を求めるように見回した。
……そうか。変な心配をしていたのは僕だけだったか。
空みたいに、僕にもちゃんと仲間がいたんだ。心のどこかで、魔王退治なんて無理矢理やらされているんじゃないかと思ったりもした。3人は自分の意思で、今この場にいるんだ。
「アイン、ニノ、ミカサ。ありがとう」
「……いいさ、気にすんな」
「もっと感謝しなさいよね!」
「これも、ユーア・ショック様の導きですね」
「そ、そうだね……」
あんな世紀末な教祖の導きは嫌だけど、少しはその通りなのかもしれない……かな?




