211.漆黒と白雷
ツバサとソラは、オークナイト目掛けて駆け出した。まさか2人だけでやるつもりか?!
「おい待て! 全員で戦うぞ!」
「〈氷の鎖〉」
「――ッ! 何のつもりだ!」
いきなり氷の鎖が体に巻き付き動きを止められた。魔女がっ! 何しやがる!
「これを解け!」
「黙って見てて。ソラが2人で戦いたいって言ってたでしょ?」
「ハイオークならそうさせた! アレはそれよりも強いんだよ!」
「……はぁ。あなたはソラを舐めすぎ。あんなのソラの敵じゃないよ。見てて」
魔女の視線はツバサたちへと向けられる。つられて俺も視線を向けた。
俺と翼はオークナイトに向けて駆け出した。後ろでアインの声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだろう。ナニモキコエナイ。
やっと翼と一緒に戦えるんだ。邪魔などされたくない。後で謝ろう、うん。
翼は全身に白い鎧を着込んでいるが、それを感じさせぬ速度でオークナイトへ向かう。早くない? 軽装の俺と同じくらいの速度出てるよ? こ、これが勇者特典ってやつ? それとも装備が良い物なのか? 王国からの支援はなんて手厚いんだ……許せんよなぁ! この怒りはオークナイトにぶつけよう。
オークナイトは向かってくる俺たちに気付くと雄叫びを上げた。
「ヴォオオオオオオ!」
なかなかでかい声だ。室内ということもあり、かなり響く。だが怖さがない。白い魔物の雄叫びに比べれば大したことがない。尻をロックオンしたロゼさんの雄叫びの方がまだ怖い。
オークナイトはその場で剣を構える。
俺たちとの距離は残りあとわずか。
正直な話、俺の心の中には確信があった。俺の魔法なら恐らくこのオークナイトを難なく倒せるだろう。言っちゃあなんだが、それだと面白味がない。せっかく翼と一緒に戦うんだ。もう少しひりつくような戦いがしたい。
舐めプと言われればそれまでだが、俺は今回の戦い。魔法はトドメにしか使わないと決めた。危なそうなら使うけど。それはそれ、これはこれである。
俺がそう考えていると、翼が宙を舞った。
というよりも、何も無い空間を足場にオークナイトの頭上へと駆け上がった。
な、何それ! 俺そんなの聞いてないぞ!
翼の行動に面食らうも、俺はあることに気付く。あれ? オークナイトさん、翼のこと無視して俺の所に向かってません?
オークナイトは宙を翔る翼に手も足も出ないと判断したのか、地上をエッホエッホと走る俺をターゲットにしたようだ。
もうダメかもしれない、ミ・アミーゴ。
「〈雷撃〉!」
俺とオークナイト。2人を裂くように雷の一撃がオークナイトへ降り注ぐ。
ドンという音ともに雷の閃光がオークナイトの体を包み込む。バチバチと音を立てながら、全身の肌を焼き、悲鳴すら上げることのできない衝撃を受けた。
耳が一時的にキーンとなるが、オークナイトはそれ以上の被害を受けたのだろう。見える肌は熱傷を負い。ふらつく体からは煙が上がっていた。
オークナイトの背後に舞い降りた翼と、目が合う。
足に力を入れ踏み込み、一息にオークナイトとの距離を詰めた。
握る剣に魔力を込め、刀身を黒く染めあげる。
翼の持つ剣も、白い光を放ちながらバチバチと雷を纏いだした。
ちゃんと合わせろよ? 俺は心の中でそう呟く。
そっちこそ。翼がそう言ったように思えた。
まだ体の痺れが残るオークナイトは、剣を振り上げ俺に向かって、振り下ろそうとした。
「〈深淵の砲弾〉」
小さく呟き呪文を唱える。
空中に黒と緑の魔法陣が重なり、拳程の大きさの魔力の砲弾が放たれた。
砲弾はオークナイトの腕にあたり、1度その体積を広げると中心へ向け収縮し消滅した。
オークナイトは剣を握っていた腕が突如消えたことに、驚き、狼狽した。そして、押し寄せる痛みに気付き悲鳴をあげようとした。
俺たちの行動はもっと速い、オークナイトが悲鳴をあげるより早く、前後からの斬撃を浴びせた。
翼は上から下へ斜めに切り裂き。
俺は下から上へと切り上げた。
正面と背中からの攻撃にオークナイトは膝を折る。
俺はすぐさまその場から飛び退いた。
「〈万雷神解〉」
呪文が響いた瞬間。
オークナイトの頭上から幾つもの雷が降り注ぎ、オークナイトの体を蹂躙した。
雷が鳴り止むと、そこには黒焦げの肉塊が転がっていた。
翼は剣を鞘に収め、オークナイトの脇を抜けてこちらに歩み寄ろうとした。
魔物の執念とは恐ろしいものだ。黒焦げになりながらも、人間を殺そうと最後の足掻きをする。
「〈深淵の弩砲〉」
させないけどな。
俺は翼を襲おうとしたオークナイトの頭を狙い、魔法を放つ。
オークナイトの頭は吹き飛び、今度こそ完全な肉塊と化した。
「最後に油断したな?」
「……みたいだね。助かったよ、ありがとう」
翼は少しバツが悪そうに言う。
俺が手を軽く上げると、それに合わせて翼が掌を打ち付けた。
ハイタッチ、イエーイ。
◇
というわけで、やって参りましたお宝タイム。
オークナイトの魔石と討伐報酬の宝箱! 宝箱に関しては入口の反対側に扉があり、外に出るための魔法陣と共に置かれているらしい。
それじゃあ突撃~。
「待て」
「「はい」」
アインに呼び止められたので素直に従う。
「お前ら、さっき俺が呼び止めたの聞こえてたよな?」
「き……こえた気もするかな? なぁ翼」
「そう、だね……行けって言われたと思ってね」
「あ、俺もそう聞えた気がするー」
「だよねー」
そんな俺たちを見てアインはため息を漏らした。
「……ハァ。お前らなぁ、一応倒せたから良かったものの、相手はオークナイトだぞ? ベテランの冒険者でも簡単に勝てない魔物だ。それを相手に2人だけで突っ込むなんて……特に翼、お前は勇者だろう――」
その後アインからの説教が10分程続いた。
「――今回はこれくらいでいいだろう。次からは無暗に突っ込むな。いいな?」
「「はい……」」
俺たちの共同作業はアインの説教で幕を閉じた。




