208.ソラ、燃え上がり宙を舞う。
4階層。
ここから一気に迷宮度が増すらしい。
ようやくダンジョンらしくなってきたぞ。
8人でダンジョンの通路を歩く。
あんまり魔物がいない、3階層で1度遭遇したきりだ。
ダンジョンなんてこんなものなのか?
なんだか肩透かしを食らった気分だ。
それに、ダンジョンの道順も決まってるようだし。入る度に構造が変わるわけではないんだな。
先を行く翼たちは迷うことなく、分岐を選んでいた。
王都の近くにあるからな。さすがに攻略は終わっているか。
「全然魔物出ないわね」
「だな、昨日はもうちょい遭遇したんだがな」
なんだ、普段はもう少し魔物がいるのか。となると原因はなんだ? ……アナか? 一応確認しておこう。
「アナ。魔力を放出したりしてる?」
「ううん。してないよ。ダンジョンの魔物はそういうの効かないからね」
へー、ダンジョン産の魔物は外とは違うんだな。あれか? どうせ逃げ場なんてないんだから、どちらかが死ぬまでってことか。外よりも敵意が増す感じかな。
「そうなのか。ごめん、疑って」
「いいよ。多分原因は、この先にいる人たちだと思うよ」
この先にいる人たち? この先に何人か人がいるのか。ということは、先行した冒険者が魔物を狩り尽くしてる感じか。俺たちはゲームでいうところの、リポップ待ち状態のようなものか。
しばらく歩いていると、前方に鎧を着た5人の人間がいた。
あれか。5人の人間の手には武器が握られており、真新しい血が付いていた。
そのうちの1人が俺たちに気づき、体をこちらに向けた。その鎧の中央にはでかでかと特徴的なシンボルが描かれている。
あのシンボルは……うん、ゲバルト派のシンボルだ。1人が振り返り、残りの4人に声をかけ、こちらに歩みよる。
「聖女様……とマリアさん。お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです」
「こんにちは〜」
ゲバルト派の知り合いみたいだな。王都にいるなら、同じ宗派の人間は大抵知り合いみたいなものか。対応は任せよう。
「今このダンジョンで『大帝の牙』という組織が彷徨いてるそうなんです」
「それでしたら、昨日私が報告したことですね」
「なるほど。ヴィクトル枢機卿から、ダンジョン内を5人1組、計50名の信徒で捜索するよう指示が出ていまして、自分たちはこの階層を担当しています。なにか御用の際は各階層の担当にお申し付けください」
「わかりました」
そういえば、昨日そんなことを言っていたな。『大帝の牙』か、どんな奴らなんだろうか。ゲバルト派に狙われるほどの事をしたのだろう。アホかな?
ここは全10階層らしいので、ほぼ全ての階にゲバルト派がいることになるな。
魔物の相手をせずにすむのか……急にヌルゲーになった気がする。
俺も翼と一緒に戦いたいんだけどなぁ。
俺たちはゲバルト派の人たちに別れを告げ、先に進んだ。
◇
歩きながら『大帝の牙』とかいうヤツらについて聞いてみた。
何でも冒険者崩れのならず者集団らしい。王都近郊で色々と悪さをしているようだ。今回は翼たちが、たまたまダンジョン内での犯行に遭遇した為、ゲバルト派が巡回することになったそうだ。
王国の騎士団は、王都内や近郊のパトロールに人員を割いているという。
じゃあ翼たちは? という感じだが、経験値稼ぎに集中するよう指示されたそうだ。あとは魔物との実戦経験を積む為でもある。
もしも、『大帝の牙』に出会っても俺たちは8人もいる。そうそう負けることは無いだろう。それにアナもいるしな。
そんなわけで、俺たちは5階層に足を踏み入れていた。
「この階層から罠も出始めるから注意してくれ。死にはしないが、もろに食らうとめちゃくちゃ痛いから気をつけろ」
罠か……即死系は無いっぽいが、当たると痛いのは当たり前か。
俺は通路をじっと見た。ダンジョンの罠といえば、床がスイッチのようになっていたり、壁に穴が空いててそこから矢が飛んでくるとかだよな。見たところ、床に拳大くらいの魔法陣が1つ有るな。もしかしてアレがそうなのか? バレバレじゃん。
「なあ、あそこにある魔法陣が罠なのか?」
俺がそう言うと、全員が首を傾げた。
「そんなのどこにもないよー?」
「えー? 有るじゃん赤色のやつが。ほらあそこ」
俺は床に有る魔法陣を指さした。
えー? 伝わらない? 仕方ない……近付いてみるか。
俺は赤い魔法陣の近くまで寄り、床を指さした。
「ほら、ココだって」
だが全員、何も見えないという。…………え、じゃあ何これ、怖ぁ。
足の先が魔法陣に触れた。
その瞬間――。
火柱が上がり俺の足を焼いた。
「ぎゃああああああああ!!」
「そ、空ー!」
「ウソだろおい! ミカサ! 回復魔法!」
「は、はい! 〈回復魔法〉!」
ミカサさんの持つ杖から光の粒子が放たれ、俺の体を包んだ。ああ……傷が癒えていく。
「ありがとうございます」
「いえいえ。次は気をつけてくださいね?」
「はい!」
クッソー、アレ罠じゃねーか。ふざけやがってよぉ……。
俺たちは気を取り直して通路を進む。
また床に魔法陣があった。今度は緑色だ。
さっきは赤で炎だったと考えると、緑は風だな。風の罠か……どんな罠だ?
俺は魔法陣を踏んだ。
その瞬間――。
緑の魔法陣から凄まじい突風が吹き荒れ、俺の体は天井に叩きつけられた。
「がはっ!」
そして落下。
「ぐえっ!」
「そ、空ー!」
「バカかこいつ! ミカサ、回復魔法!」
「〈回復魔法〉!」
ミカサさんの持つ杖から光の粒子が放たれ、俺の体を包んだ。ああ……傷が癒えていく。
「ありがとうございます」
「いえいえ、次からは本当に、気をつけてくださいね?」
「はい!」
クッソー、風の罠もめちゃくちゃ痛いじゃないか。ふざけやがってよぉ……。
「ソラー、あたしちょっと恥ずかしいよ?」
「やめろよそんな風に言うの……」
シャロに哀れに思われてしまった……。なんもかんもダンジョンが悪い。魔物と遭遇しないせいで緊張感が足りない。俺の行動は気の緩みの結果だ。俺は悪くない。
再度気合いを入れ直して先に進む。
◇
迷路のような通路を進み、小部屋のような所に出た。壁の一角には扉がついている。何あれ。
「着いたな。ここがセーフルームだ。少し休憩しよう」
「「セーフルーム?」」
俺とシャロが綺麗にハモった。セーフルームってことは、ここは安全地帯なのか? ダンジョンの中にそんなものがあるのか?
「翼もここに来るのは初めてだよな? 一応説明しておくと、ここはセーフルームと呼ばれている。あの扉の向こう側は、魔物が入ってこないから安心して休めるぞ」
「へぇ。そんな所があるんだね。他のダンジョンにもあるの?」
「ああ。基本的に、ダンジョンなら何処にでもあるそうだ。俺も他のダンジョンには行ったことがないから、人伝でそう聞いた」
へー、なんというか。意外とダンジョンというのは親切な作りになっているんだな。
それじゃ早速、休ませてもらおうかな。
俺たちはセーフルームの中に入った。
魔法陣の罠には、気付かれないよう認識を阻害する魔法が同時にかけられています。
大きさも拳くらいの大きさなので、このダンジョンの魔法陣の罠は意図的に踏まないと発動しません。大抵、スルーされて誰にも気づかれないままその場に放置されます。今回は警戒心ゼロで近付いたソラがアホなだけです。




