207.それいけ! ダンジョンアタック!
夜も更けてきたので、解散することになった。
「空、また明日」
「じゃあな」
「またね」
「皆さん、お気をつけてお帰りください」
……なぜかミカサさんだけ、残る気満々なんですけど。
「お前も帰るんだよ!」
「私はお姉様と一緒に寝たいんです!!」
「駄々こねないの! 帰るわよ、迷惑でしょ」
ニノとアインに引きずられながら、彼女は帰っていった。
「お姉様!」という声が遠ざかっていく。
マリアさん、本当に慕われてるなぁ。異世界版『マリみて』かな?
4人を見送った俺は、家の中に戻る。さあ、片付け片付け。
そう思ったが、シャロが使い終わった食器に〈清潔魔法〉をかけていたのですぐに終わった。シャロはお利口さんだなぁ。
明日に備えて、早めに寝よう。
あの後、翼たちと話し合い、明日は一緒にダンジョンへ潜ることになった。
そう、初めてのダンジョンアタックだ。
ダンジョン──。
ドレスラード周辺には存在せず、これまでは冒険者の話やギルドの資料でしか知ることができなかった。
そのダンジョンに、いよいよ行けるんだ。まさに異世界。俺の心の中の男児がワクワクして、今にも飛び出しそうだ。
そんなわけで俺は早く寝たいんですよ。なのに、みんな二次会をする気満々なのはなぜ?
「ソラ、早く私の隣に来て?」
いきまーす!!
そのあと、夜遅くまで4人で飲み明かした。
◇
朝。
鐘の音が聞こえてきた。
ああ、なんか久しぶりに聞いた気がする。どことなくドレスラードの音色に似ている気がした。
俺は相変わらず馬車で寝泊まりしている。アナの家には大きなベッドがあるが、4人も入るには狭い。せいぜい3人までだ。
必然的に男である俺と勇者は馬車で寝ることになる。
勇者に関しては、勝手についてきているだけなのだが。
男女で分かれているとはいえ、俺1人だけ広々と寝るのは申し訳ないな。
そう思いながら体を伸ばす。そろそろ準備するか。
俺は馬車から出て、アナの家へ向かった。
扉を開け中に入ると、シャロとマリアさんが起きており、朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
2人は朝食の準備をしているようだ。相変わらず起きるの早いな。アナは……まだ寝ているな。
起こすか? 仕方ないよな、起こす為だ。お体に触りますよ……。
「アナ。朝だぞ、起きな」
「ん、んん……もう朝?」
「ああそうだ。おはよう」
アナはむにゃむにゃしながら起きた。作画がふにゃふにゃしている。
〈清潔魔法〉をかけてあげると、体をビクッとさせて目を覚ましたようだった。
「お、おはよう」
「はい、おはよう」
完全に目を覚ましたアナも交えて、俺たちは朝食を食べた。
今日はダンジョンに挑むんだ。しっかり食べて体力をつけておかないとな。
俺たちはモリモリ朝食を食べ、家を飛び出した。
◇
ここが、あの女のダンジョンね。
……誰だよあの女って。俺たちは今、王都の側にあるダンジョンの前に来ていた。
翼たちはまだ来ていないな。ココに着いてから結構待ったんだがな。
俺はテンションが上がっているのに、おあずけか……。
目の前の地面には、ダンジョンの入り口があった。
地下鉄の入り口のように、ぽっかりと開いた穴から地下へ続く階段が伸びている。
早く入ってみたい! でも翼たちと約束したんだし、先に入るのはダメだ。
俺も興奮しているが、シャロ興奮していた。
「ねえソラー、早く入ろうよー!」
シャロが急かす。
「俺も入りたいんだけどな。翼たちがまだだからな。我慢してくれ」
俺は表面上冷静を装っていた。
俺だって入りたいわぁー! あいつらがまだ来ないんだよ、約束した手前待つしかないんだよ!
翼ー! 早く来てくれー! 手遅れになっても知らないぞー!!
「空~。お待たせ~」
普通に来た。
「大丈夫だ、俺たちも今来たところだしな。な、シャロ」
「え!? 結構前に来たよねー?」
「こういう時は相手にあわせるんだよぉー!」
もうなんか、ダンジョンが楽しみ過ぎて俺のテンションがおかしい。いや、俺は冷静だ。ハートは激熱だが、cool、cooler、coolestだ。
乗り込め~。
俺たちはダンジョンに突撃した。
◇
「ソラ、シャロちゃん。まずはその水晶に触ってね」
俺とシャロは我先にダンジョンに突撃したが、階段の途中にあるクリスタルの前でアナからストップが掛かった。
「この水晶に? なんでだ?」
「早く先にすすもーよー」
俺とシャロがブーブー言っていると、アナが説明を始めた。
「ダンジョンはね、地下に何層も続いているの。このクリスタルは一度行った階層まで移動できる物なの。私たちはもうこのダンジョンに入ったことがあるけど、ソラとシャロちゃんはまだでしょ? だから、このクリスタルに触って登録してほしいの」
「なるほど! そういう仕組みなのか、悪いな手間かけさせて。ほらシャロ触るぞ!」
「はーい!」
俺とシャロがクリスタルに触ると、淡い光が放たれた。……これでいいのか? いいよな? 先に進むぞ?
「アナちゃん。これでいいのー?」
「うん。一度触るだけで一度行った階層に移動できるようになるから」
「よーし! シャロー! すすめー!」
「おー!!!!」
俺たちはダンジョン第1階層へと突き進んだ。
階段を下りた俺たちを待ち受けていたのは直線の道だった。
「うおおおお! シャロ! 行くぞー!」
「うおおおおお!!!」
俺たちは第1階層を突破した。
え、うそ。直進の道だけ? 魔物は? 第1階層には居ない? ええ、うそぉ。
俺たちは第2階層に突撃した。
うおおおお! 直線の先に曲がり角がある!? 気を付けろ!
俺たちは第2階層を突破した。
え、曲がり角1つで終わり? 次の階層から複雑になり始める? ほんと? わかった、信じよう。
俺たち第3階層に突入した。
「ま、魔物だあああああ!!!」
俺たちの目の前にダンジョン産の魔物が現れた。
「シッ!!!」
マリアさんが飛び出し、魔物を素手で殴り殺した。ええ……うそぉ。俺とシャロのダンジョン初魔物は無残にも、殴り殺されてしまった。
「あ、すいません……。思わず……」
「さすがお姉様です!」
さすおねだな。……ん? あれ? マリアさんの手についてる血が固まってない? そういう特性の魔物なのか?
俺はマリアさんに問い掛けた。
「マリアさん、手の血が固まってますよ」
マリアさんの手は赤色のメリケンサックのようになっていた。
「え、ああ。実は私、自分の血を少し操作できるんですよ~」
まさかの新事実。マリアさん自分の血液を操作できるのか……、確かにマリアさんは不死だからな。それ位出来てもいいかもしれない。
……いやいや、赤血操術と不死って組み合わせがやば過ぎないか? 呪術回線でもそんな無法許されてないぞ。
え、もしかして。マリアさん百斂とか超新星出来たりする? おいおい。マジかよカッコよすぎるなおい!
そんなマリアさんの新情報を片手に4階層へと降り立った。
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