199.王都『ミッドガルド』
王都への旅 15日目。
武闘都市を出発してから、2日が経っていた。
王都に近づくにつれて、街道は広くなり、多くの馬車が行き交うようになり、密度が増してきた。
馬車の上で、シャロが勇者とマリアさんを2人相手取り攻撃を防いでいた。あの広さでよく動き回れるな……。
そんなことをぼんやり考えながら、宙に浮かぶ10個の的に魔法を撃ち込む。
同時に5個の魔法陣を展開し、順番に撃ち出す。連続で当たり、次の魔法陣を展開する。撃ち出す。展開。撃つ。展開。撃つ。ポーション飲む。不味い。展開。撃つ。
そんなことをやっているので、俺たちの横を行く馬車は全て2度見してくる。見せもんじゃねーぞ!
そうしているうちに、木々に覆われた街道を抜け出ると、ようやく見えてきた。
「あれが王都……」
思わず零れたその言葉に、アナが同意する。
「そう、あれが王都『ミッドガルド』だよ」
俺たちの長い旅路に、終わりを告げる時が来た。
◇
デカァァァァァいッ説明不要!!
王都を囲む外壁は、とんでもない大きさだった。
ドレスラードの倍はあるんじゃないか? もしかしたらもっと大きいかもしれない。
それくらいデカイ。当然、遠くから見るとそうでもないが、近付くにつれてどんどん大きくなっていく。今では見上げるほどの大きさだ。
外壁も凄いが、外周には堀があり、その幅もかなりのものだ。
唯一の出入口には、大きな跳ね橋がかかっていた。凄いな、この大きさの橋を持ち上げられるのか……。
橋の手前で俺とシャロが(•ㅿ•)はえーとしていると、後ろから。
「邪魔だ! 止まってんじゃねーぞ!」
おっと、それもそうだ。こんなところで止まっている方が悪いよな。
「すいませーん」
俺は後ろに向けて謝罪の言葉を告げると「ヒエッ! 血濡れの魔女?!」という声とともに脇を凄いスピードで駆け抜けて行った。王都でも似た感じか……。
まぁいいか。進めー。
さすがは王都、門もバカでかい。
門には沢山の兵が駐在しており、王都に入る人間を全てチェックしていた。
すごい人の数だ。馬車の数もそれに比例した数になっていた。
俺たちは馬車の列に並び、順番を待つ。
前に並ぶ馬車が、どんどん後ろの方へ移動していく。なんでだろうね? みんな一様に怯えた表情をしていたのは気のせいだろうか。アナが後ろに並び直す馬車に向けて、にこやかに手を振っている。
そんなわけで、俺たちの番が早まった。
次々と後ろに移動する馬車を見ていた門番は怪訝な顔をしていたが、俺たちの馬車が近付いた段階で顔が青くなっていた。
アナは言った。
「入りたいんだけどいい?」
「は、はい! どうぞ魔女様!」
何かすんなり入れた。顔パスってやつかな、あんまり考えないようにしよう。
そんなわけで。
王都到着!!!!
いやー長かった。何日かかったかな……2週間ぐらいか? カレンダーが無いからわからんな。
とりあえず馬車置き場で、馬車を〈収納魔法〉に仕舞い。氷の馬を砕いた。
王都に到着してやること、それは宿を探す事だ。まずは寝床を確保しないとな。その考えを3人に告げると、アナが言った。
「王都なら私の家が有るから、そこで寝泊まりしたらいいよ」
「そうなのか? それじゃあお言葉に甘えようかな」
「うん。あ、でもしばらく使って無いから掃除しないとだね」
「それぐらいはするさ。早速向かおうか」
俺たちはアナの家に向かう事にした。
◇
到着しました、アナの家。予想通り面積に不釣り合いな小屋がポツンと中央に建っていた。鉱山都市の時と同じだな。とはいえ、自分しか使わないなら俺もこのくらいの小屋にするだろうな。
無駄に広い家は落ち着かないんだよな。
アナもそういうタイプかな?
さっそくアナの家に入った俺たちは、掃除を始めた。いつから使ってないんだ……家の中はかなりホコリが溜まっている。
手分けして家の中に〈清潔魔法〉を使い綺麗にする。
……さて。
トイレの中を覗くと干からびたスライムが1匹。〈水生成魔法〉で水をかけると、すぐにプルンとした身体に戻った。よしよし。短い間だけどよろしく頼むぞ。
◇
家の掃除が終わったのでテーブルを囲み相談。この後どうします?
「さて勇者よ、王都に着いたけど、この後どうするんだ?」
「そだねー、まずはある場所に行ってきて欲しいんだよね。まだ王都に居ればの話だけど」
なるほど、知り合いにでも会いたいのかな。100年も経っているから生きてるとは思えないけど。行くだけ行ってみるか。王都も色々見てみたいし。
…………そういえば勇者も居るんだったな。どんな奴なのかな。クソ野郎じゃなければいいが。
俺たちはアナの家を出て、勇者の指示する場所へ向かった。
◇
勇者の指示した場所は、王都の外れにあり大きな木があり、ツリーハウスのような家があった。
ここか。長らく放置されているようには見えないな。ちゃんと手入れがされているので、人は住んでいるようだ。
腰に提げた勇者が飛び上がると、扉に体当たりして声を上げた。
「ディーテー!! 私が来たわよ!!」
そう言うと、家の中からドタバタと音が鳴り、勢いよく扉が開かれた。
「その声! あれ、居ない……」
「こっちよ」
「え? うわっ! 何その姿」
何やらツリーハウスでやり取りをしているので、俺たちも勇者の後を追った。
家の中に通され、自己紹介された。
「私の名前はディーテー。親しい人はディーって呼ぶわ。よろしくね」
そう言った彼女の見た目は、ボサボサの髪に丸メガネをかけ、特徴的な長い耳を持っていた。彼女の種族はエルフのようだ。
なるほど、エルフなら100年程度の時間なら生きているか。
そんな彼女……ディーテーさんに俺たちの自己紹介をすませた。
「いやーそれにしても、シズちゃんに会うの何年ぶり?」
「100年よ」
「100年かー、もうそんなに経ったんだね。人間の寿命は短いから、すぐ死ぬのが難点よねー」
エルフ族の寿命は1000年ほどと聞いたことがあるな。ただ、それが本当のことかわからない。エルフは途中で自分の年齢を数えることを止めるため、正確な数字は不明らしい。
「それで、今日は何の用? これでも私、忙しいのよねー」
「この子たちの防具作って。素材はこっちで用意したから」
「……相変わらずだねー、言った通り私忙しいのよね、服を作る依頼だけでも数年待ちだよ? そんなすぐに作れるわけないじゃーん」
「あっそ。ソラあの布出して」
勇者に言われるがまま、〈収納魔法〉からアラクネの布を取りだし、ディーテーさんの目の前に置いた。
「………………!!?? ちょっと! コレって……あの白いアラクネの糸で作ったやつ?」
「そうだよ〜。人数分あるからそれ使ってちゃちゃっと作ってよ」
「人数分? 貴女を除いたこの4人ってこと? 悪いけど、勿体ないにも程があると思うよ」
「いいのよ。それにこの子、私と同じだから」
勇者は俺の頭の上にくると、俺の頭をペシペシと数回叩いた。叩くなよ。
それを聞いたディーテーさんは、丸メガネに手をかけ言った。
「君以外の3人は目を閉じてて」
その言葉に3人は首を傾げたが、素直に目を瞑った。
ディーテーさんは、丸メガネを外す。すると、両の目に魔法陣のような模様が浮かび上がった。ひとつ頷くとメガネをかけ直し、納得したように言った。
「たしかに、私の魔眼が効かないようね。シズちゃんと同郷の人なんて初めて見た。あ、もう目を開けていいよ」
「魔眼? なんですかそれ」
「あー、君たち人間種でいうところの祝福と呪いだね。私たちエルフはそれが目に現れるのよ」
なるほど、エルフにもそういうのがあるんだな。ということは、あの目を見た相手に何らかの影響を与える能力なのか。……なんともないな。不発か?
「ちなみに私の魔眼は『魅力』ね。目を見た相手が私に対して、好意をもつようになるのよ。普段はこのメガネで抑えてるから問題ないけどね。君とシズちゃんには効かないからあんまり関係ないか」
「なんで俺と勇者には効かないんですか?」
「さあ? 異世界の人間だからじゃない? 私も詳しく知ってるわけじゃないし」
……そういうものか。理由は分からないが、とりあえず動くからよし! というやつだな。
「それで、作ってくれるの? 無理なら他行くけど」
「作る作る! シズちゃんのせいで白いアラクネの糸が手に入らなくなってるんだし、この機会逃したら二度と触れなさそう」
「なんで手に入らないのよ?」
「貴女が昔、白いアラクネ捕まえて『紡績工場じゃー! ガーハッハッハッ』とか言って無理やり糸を絞り採ったから、人前に姿を表さなくなったのよ。おまけに巣の周りには子供のアラクネがウヨウヨ居て、簡単に近づけなくなったのよ」
勇者は本の中で、舌をペロッと出してとぼけた。
「シズクちゃん知らな〜い」
「まったく……いいわよ、最優先で作ってあげる。そうね……5日で仕上げるから王都の中には居てね。それじゃあ、女の子たちの採寸するから君は外で待っててねー」
俺と勇者は家の外に追い出された。
「毎回思うけど、なんでお前も外に出されてるの?」
「私が聞きたいわ」
多分セクハラするからなんだろうな。ディーテーさんも、その辺はわかってるんだろうな。
それにしても、魔眼か。
そういえばエル雄の相方のリリアーヌも、目を隠していたな。帰ったら聞いてみるか。
俺はツリーハウスから見える、王都の風景を眺めながら採寸の終わりを待った。
次回、記念すべき200話目でソラとツバサが再会します。長かった⋯⋯話数調整したかいがありました。




