192.真の武闘大会、開幕!
俺の名前はオットー。
剣の道場を営む両親のもとに生まれた三男坊だ。
二人の兄とともに、親父に鍛えられてきた。兄たちに比べて、俺の剣の腕はかなりのものだ。
だが親父は認めようとしない。兄たちは褒められるが、俺には厳しい言葉ばかりだ。兄たちは気にしすぎだと言うが、きっと俺の才能を妬んでいるに違いない。
俺は決意した。
こんな家を出て、外で名を上げてやる。
そうと決まれば、行き先は武闘都市だ! ここでさまざまな大会に出て優勝し、名を上げてやる! 旅費は…………ギリギリ足りるな。足りるよな?
俺は家族に家を出るとを伝えた。
意外にも親父が反対した。
俺の事が嫌いだから喜ぶと思ったんだがな。どうやら違うらしい。親父は言った。
「お前には才能がある。だが、そのせいで人を見下すようになってしまった。その性格を改めなければ、いずれ必ず後悔するぞ」
別に俺は他人を見下したりしてねーぞ? 親父は何を言ってんだ? 俺より弱いことがそんなに気に入らないのか? だから弱い奴は嫌いなんだよ。
まあいいや、家を出ることに変わりはねえ。
俺は親父の言葉に納得したふりをして家を出た。
◇
くそ。思ったよりも金が掛かった……。
武闘都市に着いたはいいが、手持ちがほとんど無くなってしまった。まあいい、大会で優勝しまくれば、金なんてすぐに稼げる。そうと決まれば最初に出る大会を決めねぇとな。
街を歩きながら大会の看板を見て回る。
そして。
俺は運命の出会いを果たす。
な、なんて可愛いんだ。
俺の目の前には、今までで一番好みの女がいた。
茶色の髪を2つ結びにし、ぱっちりとした目が印象的な顔立ちで、すべてが俺の好みにドンピシャな女だ。鎧を着ているのもポイントが高い。女を守るのもいいが、背中を預けられるような女も悪くない。いや、かなりいい。俺は、目の前の女と背中合わせで敵に囲まれる場面を想像した。絶体絶命のピンチを共に切り抜ける。いいじゃねーか、最高のシチュエーションだ。
俺の心はきまった。
「おい、そこの女」
俺は声をかけた。こういうのは最初が肝心だ。強く頼れる男であるとアピールしなければ。
「何か用?」
おいおい、声も良いときた。なんていい女なんだ。……と、肝心な事を伝え忘れる所だった。
「お前。俺の女になる気はないか?」
俺の要求をストレートに伝えた。ここに飾り気なんてものはいらない。俺の思いをただ伝えるだけだ。
「……やだ」
……なるほど、中々手ごわいようだな。ん? もしかして横の男は連れか? なんというか、弱そうな男だ。この子の隣に立つなんて、不相応だと思わないのか? やれやれ。
「俺はそこの男よりも強いぜ? それに、必ずお前を幸せにすると誓おう」
……決まった。完璧だ。
だが女の子は男の後ろに隠れてしまった。しまった、照れちまったか? そういうのも可愛くていいじゃねえか。
「おい」
男が大会の看板を指差した。
「あん? ……なるほど。この大会で勝負しようってことだな」
俺は、男の意図を理解した。
「お前にそんなことが出来るのか?」
言うじゃねえか。おもしれえ。
「はっ! 俺は強いからな! いいだろう、この大会で勝った方が女を手に入れる。乗ってやるよその勝負に」
そうだ、乗ってやるよ。丁度予選も、この後行われるようだ。
俺はコロシアムに向けて歩き出した。
「おい」
男に呼び止められる。
「……なんだ?」
「木札を買っておけよ」
「木札?」
一体何を言っているんだコイツは……。
「明日帰るんだろ?」
…………なるほど。理解したぜ。俺が負けて、故郷に逃げ帰るとでも思っているらしい。
ドチビが……!! いや、別にこの男はチビではないが。何でそう思ったんだ? まあいい。この男は大会で潰す。俺は再度、コロシアムに向けて歩き出した。
◇
……ぐっ。思ったよりも予選のレベルが高いじゃねーか。俺はなんとか予選を勝ち抜き、本選へと進むことが出来た。
まあいい。この本選で、あの男を倒して愛しのあの子を手に入れてやる。……しまったな。名前を聞きそびれていた。いや、優勝してその時に聞くも悪くない。
予選を終えてすぐ、本選に出場する選手がコロシアムのリングに集められた。
……。
…………。
…………あれ? あの男がいねえ。え、なんでだ?
いや、待てよ。出場者の中に1人ローブを被っている奴がいる。フードも目深にかぶっているので、顔を確認する事が出来ない。
はは~ん、わかったぞ。あの男は予選で負けたと見せかけって、俺の油断を誘う気だな。そして、油断した俺に勝つつもりなのだろう。まったく、なんてみっともない手を使う奴だ。やはりあの子に相応しいのは俺のようだな。
いや待てよ。全員がリングに集まっているこの状況を使わない手はない。
司会のような男が大会のルールを説明し終えた時。俺は声を張り上げながらローブの男を指差した。
「おい! そこのローブを着たヤツ。俺はお前の正体を知っている。この大会で、俺がお前に勝ったら女を貰う。そして俺が負けたら……そうだな、お前の下についてやる。わかったな! 逃げるんじゃねえぞ!」
俺がそう言うと。観客席がざわざわと騒ぎだし、歓声が上がった。
……っふ。俺に正体を見破られたせいか、ローブの男は茫然と立ち尽くしていた。
煽るのはこれくらいで十分だな。俺はリングを降り、その場を離れた。
◇
次の日。
さて、いよいよ本選が始まる。
ローブの男はシードのようだが、俺とは2回戦で戦うことになる。
まずは、目の前の戦いに集中しなきゃいけないな。あれだけ言って、1回戦負けなんてシャレにならねえ。
ぐううう。クソ、なんとか勝てた。余裕を持って倒す予定だったんだがな。相手が思ったよりも強かった。2回戦までに回復してもらえるのが救いだ。
よし、体の痛みも消えた。
いよいよあの男との勝負だぜ。
リングに呼ばれ。
男と対峙する。
俺は言った。
「よお、昨日ぶりだな。約束通り、俺が買ったら女を貰う。本気で来な」
俺は剣を構えた。
ローブの男がフードを掴み、一気に脱ぎ払った。
フードの中からは、目に傷のある金髪の女が現れた。
……。
…………。
…………え、だれ?
え、あ、あれ? 昨日の男、じゃない? え、なんで? なんで!?
俺がパニックを起こしていると、女は言った。
「ふっ。まさか、こんな熱烈なアプローチを受けるとはな……。こんな……顔に傷のある女を、お前は欲しいのか?」
待ってくれ。話が変な方向にこじれてる。おかしいおかしい。あの男はどこ行った? 俺はてっきりローブの中身があの男だと思っていたんだ。え、まさか予選で敗退した? うそだろ……。 ※参加してません。
「さて、私に勝てたら女を貰う、だったな。この場合の女は私で合っているか? まったく、優勝賞品目当てで参加しただけなんだがな。君は最初から私の事が狙いだったようだし。一体何処で情報が漏れたのやら」
な、なんだ? この女は何を言っているんだ? 情報が漏れた? そもそも誤解なんだよ! な、なんでちょっと頬を赤くしてるんだ……。なんで変な勘違いをしているんだコイツは!
くそ! 観客の野次がうるさい。なにが「早く始めろー」だ、こっちは考えがまとまらねえんだよ!
「そろそろ開始しないと、客がうるさいな。ほら、構えなさい。お望み通り、本気でやってあげよう」
女が腰に下げた剣を引き抜き、構える。あ、無理だ。勝てない。
ただ構える。その単純な動作の1つで、女と自分の力量差が天と地ほど離れていると理解してしまった。
女の一方的な猛攻に屈し、俺は地に伏した。
なん……だこの女。クソ強え。俺の剣はかすりもしなかった。
「ふふ。君は中々見所があるな。確か私が勝ったら下につく、だったか? では今日から君は私の部下になってもらう」
……くそ、部下? この女は何を言って「確保おおおおおおおおおおおお!!」
その声と共に、観客席から男達が雪崩れ込んで来た。
な、なんだ?! 俺が驚き抵抗する暇もなく、男たちの手によって紐で縛られた。
………………は?
「団長。この男は新人ということで宜しいですね?」
「ああ、構わん。せっかく私の下についたのだからな、面倒をみてやろう」
……団長? この女はこの男たちを従えてるのか?
「ああ、そうだ。私の事は知っているみたいだが。改めて自己紹介しよう。私の名前はツーマ。『アガーレムヴ王国』第二騎士団団長を務めている。そして今日から君の上司になる女だ。ようこそ、第二騎士団へ」
「だ、第二騎士団!?」
なんでそんな奴がこんなところで大会に出てやがるんだ!
「団長。それじゃこいつ連れて行きますね」
「ああ、頼んだ。私はこの大会で優勝してから向かう」
俺は屈強な男たちの手によって、コロシアムの外に運び出されてしまった。
「いやー、団長を欲しいという男が出るとはな。やるじゃないか」
「まったくだ。あの鬼の団長を射止める為、大会に参加するとは恐れ入ったよ」
「逃げられると思うなよ? 絶対に逃がさんからな」
「お前にはこのまま、団長とくっ付いてもらわなきゃ俺たちが困る」
まさかこいつらも、第二騎士団の人間なのか? 何でこんな必死なんだよ!
「団長より先に結婚なんてした日には、どんな目にあうか分からんからな」
「もういい加減待ってもらうのも限界なんだよ。俺たちの為にもがんばってくれ」
「サポートは任せておけ!」
「「「「エッホエッホ早くみんなに伝えなきゃ。団長の旦那候補を捕まえたって」」」」
あ、ああああああああああああ。
こうして俺は、第二騎士団に入団することになった。
◇
「なるほど。そういった経緯で出会われたのですね」
「ああ、まあ……そうだ」
俺は記者からの質問に答えていた。なんでも、第二騎士団の特集を組むので、俺の話を聞きたいらしい。
団長と俺の馴れ初めを根掘り葉掘り聞かれただけだが……。さすがにあの子のことはぼかした。知られたら多分殺される。
あれから数年の時が経ち。俺は団長と結婚した。
団員の皆からは泣かれるほど祝福された。そのおかげかはわからないが、何時の間にか副団長にされていた。押し付けられたというべきか……。
いや、まあ……幸せなんだがな。
今でも、あの時の事を思い出す。
名前も知らぬあの子は、もしかしたら俺が見た幻なのではないだろうか。今となってはそう思えてしまう。
「最後に質問なのですが、黒髪の男に恨みがあるとは本当ですか?」
記者の質問に俺はハッキリと答えた。
「黒髪のあの男は死んでも許さねえ」
顔はもう忘れてしまったが、あの野郎だけは許さねえ。
真の武闘大会編、終了!
オットー:単純にシャロの見た目が好みドンピシャなだけの男。剣の腕はかなりのもの、数年後には王都で上から数えた方が早いほどの腕前になる。なぜか黒髪の男に恨みがある様子。
ツーマ: 右眼に大きな傷跡のある女性。貴族の次女として生まれ、剣の才能を見出されて騎士団に入団。頭角を現し、ついには団長にまで上り詰めた女傑。若干婚期を逃しており、部下が家庭を持つことは喜ばしいと思う反面、それはそれとしてムカつくので妨害していたところに、年下の夫候補が自らやってきたため、そのまま逃がさずゲット。




