19.出会って即再会
まさかの[白金]ランク冒険者のアナスタシアと知り合えた俺は、その事をシャロに話しながら夕食をとっていた。
「[白金]ランクの人かー。あたしも会ってみたかったなー」
「血濡れの魔女って有名なんじゃないのか?この街を中心に活動しているみたいなんだし、見たことないのか?」
長年住んでるシャロも一度くらいは見た事があるだろうと思ったんだがな。
「うーん、どうだろ。名前くらいなら聞いたことあるけど。良く喋る人以外は、覚える気ないしねー」
そんなものか。
この街はそれなりに大きいからな、会わない人とはとことん会わない。
シャロと他愛のない話を続けていると。
周りが入り口の方を見ながら、ザワザワし始めた。
「なんだ?」
丁度俺は入り口に背を向ける形で座っていたので、体を入り口に向けた。
そこには、昼間出会ったアナスタシアが居た。
その日のうちに、再会するとは思わなかったんですけど。
「ん?あ、ソラ」
相手も俺に気づいた様だ。
素敵な笑顔を浮かべながら歩み寄って来る。
かわいい。
「同じ日に、また会うなんて奇遇だね」
「ほんと奇遇ですね。何故この宿屋に?」
[白金]ランクなら、もっといい所に行くと思うのだが。
「ハンバーグ?っていう食べ物があるって聞いて来てみたんだけど。⋯⋯そちらの子は?」
「ん?ああ、俺と一緒に組んでる、この宿屋の娘のシャロだよ」
目の前に座っていたシャロを紹介する。
「シャロっていいます!」
「私はアナスタシアっていうの宜しくね」
元気いっぱいの挨拶を済ませる。
俺達が座っている席が4人まで座れる為、その内の空いてる席を勧めた。
「そお?じゃあお邪魔するね」
折角なんだし、アナスタシアと相席することにした。
周りがザワザワしているが無視。
「アナスタシアさんは、ハンバーグ食べに来たんですか?ソラが考案した料理で、すっごい美味しいですよ!」
予想通り、シャロは物怖じせずに対応しているな。
恐怖心バグりガールのシャロとも仲良くなってもらいたものだ。
「へー。そうなんだ。じゃあハンバーグ1つと⋯⋯あとお酒をお願いしようかな」
「はい!キャロルさーん!注文お願いしまーす」
アナスタシアの注文したい物を聞きいたシャロが、店員を呼び寄せる。
「は、はーい。ご、ご注文お伺いしますね」
緊張している彼女は、宿屋の食堂で夜だけウェイトレスをしてくれているキャロル。
普通の女の子って感じの子だ。
アレックスと良い感じだというのが、シャロの見解だ。
「ハンバーグ2つとー、あとお酒3つ!」
「自分の分も追加で注文してるけど、酒1つ多くない?」
「ソラの分に決まってるじゃーん」
「そっすか⋯⋯」
俺達のやり取りをアナスタシアは微笑みながら見ていた。
そうしていると酒が3杯運ばれてきた。
「それでは、今日の出会いに。乾杯ー」
「そういう事ね、乾杯!」
シャロの意図を理解して乾杯する。
「⋯⋯乾杯」
アナスタシアも乾杯してくれた。
3つの盃がカンッと音を立てる。
それからしばらくして、料理も運ばれてきた。
あれからアレックス君は、ハンバーグの研究を続けたようで、中々良い具合に仕上がって来ていた。
今度トッピングというものを教えておこう。
チーズ入り食べたいし。
「コ、コチラご注文のハンバーグです」
普段よりも動きのおかしいキャロルさん。
アナスタシアってそんなに怖がられる存在なの?
酒を飲みながら周りの様子を探るも、誰も目を合わせようとしない。
あとから入って来たマルコさんも、目を反らす始末だ。
「んー。美味しい」
「ねー。美味しいですよね!」
ハンバーグの味はアナスタシアにも好評の様だ。
作ったのはアレックス君だが俺の鼻も高い。
「それでねー。ソラがねー」
「フフフ。そうなんだ」
⋯⋯ものすごい勢いで俺の情報が開示されていく。
いや別にいいんだけども。
2人の仲が良くなるなら、俺の犠牲なんて微々たるものよ。
「そしたらソラが植込みの花を口説き始めてー」
「おいこら待てや、それは言う必要ないだろ、第一あれは俺が酔っていただけだろうが!」
犠牲が許容量を超えそうになってきたので止めに入る。
そんな俺達のやり取りをアナスタシアは笑いながら見ていた。
笑顔が可愛い。
そうして俺達の夜は更けていった。
◇
「うーん。それじゃあ私はそろそろ帰ろうかな」
あれから結構時間も経ったし、そろそろ解散する時間だな。
俺は頭がボーっとする。
飲み過ぎたかもしれない。
アナスタシアさん双子だった?
「ソラも、一緒に帰る?」
アナスタシアからの提案。
「俺。この宿屋に泊ってる。眠い⋯⋯」
シャロも双子になってた。
「そうなんだ。⋯⋯それじゃお休み。シャロちゃんもまたね」
「はい!また何時でも来てください!」
zzzz。
俺は机に突っ伏して寝ていた。
◇
鐘の音と共にドアが乱暴に叩かれる。
「ソラー!おーきーてー!」
あぃ。
ボーっとする頭を無理矢理起こし扉の鍵を開ける。
「おはよぅござます」
「おはよう!なんか下でマルさん達が待ってるよ」
マルコさん達が?何か用でもあるのだろうか。
自分に〈清潔魔法〉を掛け、サッパリしてから1階へと降りて行った。
「よおソラ。朝から悪いな」
「おはようございます、マルコさん。構いませんよ、予定も特にないですし」
元々ゴブリン騒動で街の依頼を受ける日々を送っていたしな。
「実はお前たちに頼みたい事があるんだが⋯⋯、正直それよりも、昨日の夜の事が聞きたくて仕方がない」
「昨日の夜の事?」
昨日の夜⋯⋯何かあったっけ、確かシャロとご飯食べてる途中に、アナスタシアが来てそこから一緒に食べた位しかないし⋯⋯。
「ほら。お前ら魔女と一緒に飲んでたろ」
「魔女?アナスタシアと飲んでましたね。そう言えばマルコさん、目を合わせてくれませんでしたね」
マルコさんが聞きたい事とは、アナスタシアとの事だったらしい。
気になっていたのならテーブルに呼べば良かったか。
「いやっ!それは、ほらさ⋯⋯。機嫌損ねたら何されるか分からないしな⋯⋯」
「えー!アナちゃんすっごい可愛いよー!ずっとニコニコでしたし。そんなに怖がる必要ないよー」
「それな」
マルコさんは関わり合いたくなさそうだが、シャロに同意する。
「いや⋯⋯、うーん」
「まあその事は今はいいだろ。本題に入れよ」
そうハルクさんはマルコさんを急かした。
「ああ。そうだなソラ、シャロ。
お前達2人を依頼に誘いたいんだよ」
「依頼ですか?」
俺達のランクは[銅]。
マルコさん達パーティは[銀]なのだから、俺達が受ける事は出来ないんじゃないだろうか。
「そうだ。ああ依頼って言っても、危険な事は俺達が請け負うの前提だからな」
「ああ。お前達2人にしてもらいたいのは、要は荷物運びだな」
「荷物運びですか⋯⋯」
確かに、そう云う依頼がある事自体は知っているが。
基本的には信頼関係が無いと成り立たない。
〈収納魔法〉に物を入れると本人しか取り出せない上に、死んでしまうとそのまま中身も消滅すると言われている。
言われているというのは死んだ人間の〈収納魔法〉を開ける事が出来ない為、本当に消滅しているか分からないが、取り出せないので同じ事である。
「ふーん。荷物ってどんなのー?」
「正確には魔物の素材だな。今回俺達に指名依頼が来てな、ある魔物の素材を持ち帰らないといけないんだが⋯⋯少し特殊な魔物でな、討伐役と解体・運搬役が必要なんだよ」
「ここら辺でそう云う魔物って⋯⋯あ!もしかしてロックタートル?」
「ロックタートル?」
マルコさんの説明を聞いてシャロは、心当たりの魔物が思い当たったらしい。
「そうだ。シャロは知ってるみたいだが。ソラは知らないよな?」
「ええ、もちろん」
ここ最近俺は、常識というものを知らない前提で動いている。
「アッハッハ。相変わらずだな。よしマルコ説明してやれ」
「だな」
シールさんは笑い、アルさんは苦笑していた。
「ハァ⋯⋯ったく」
そしてマルコさんより、今回の依頼の詳細が語られた。