185.特訓の途中成果
王都への旅 5日目。
フ・ツウーの街を出発した俺達は、街道を進んでいた。
今日も馬車を運転しながら、空に浮かぶ的に向けて魔法をビュンビュン。
あー。頭が重い。余計な事を考える余裕も無い。
当たった。
⋯⋯。
⋯⋯当たった?!
今度は偶然じゃなく、ちゃんと狙った所で当たった。アナも隣で拍手している。ありがとう。
「当たった? じゃ次は2個同時に的出しとくから、連続で当てられるようにしな〜」
「速度上げなくていいのか?」
「上げたいならあげるけど? その大きさの的にちゃんと当てられるなら、普通の大きさの魔物には確実に当たるんだし、速度上げても無駄よ。それよりも、精度を上げる方が良いよ」
そう言って勇者は、追加の的を2個作り出し宙に浮かべた。
「はい。じゃあ、1個目当てたら5秒以内に2個目を当てないと元に戻るから。それと、要望通り速度も2倍ね。頑張ってね〜」
⋯⋯余計なことを言ってしまった。
目の前の空中には、ビュンビュンと不規則に動き回る2個の的が、浮かび上がっていた。
これは同時に撃ち落とすんじゃなくて。テンポよく分けて撃つ方がいいか。魔法陣を作るのは同時でも、撃ち出すタイミングをずらす。⋯⋯今までよりも魔力の消費が加速するな。
よし。やるか! 〈深淵の砲弾〉!
はずれ! はずれ! ⋯⋯本当に2倍? 動き早くない?
◇
王都への旅 6日目。
的を狙う訓練を始めてから今日で6日目。毎日の様にやってるおかげか、今では狙った所に撃つ事が出来る。的に当たるかどうかは別として。
とはいえ10回中2回は、最初の1個に当てる事が出来るようになっていた。
流石に朝から晩までやっていて成長しないのは問題だしな。
あ、どうも。
向こう側からやって来た他の馬車に会釈をし、すれ違う。毎度の事だが凄い二度見される。
まあいいさ、王都に行って帰る。それだけの間の事だ、気にする必要もない。
そう思っていると、街道の先で土煙が上がっていた。
「なんだあれ?」
「んー? あー、馬車が魔物に追われてるね」
なるほど。全力で逃げてるからあんなに土煙出てるのか。
ということは。
「あの魔物。俺達とぶつかるよな?」
「そうだね。向こうもそれを期待してるんじゃない? 囮的な意味で」
「⋯⋯ハァ。やるしかないか。おーい、特訓中断! 魔物が出たぞ!」
馬車を道の脇に止め。〈収納魔法〉から剣と盾を取り出し、それぞれの手に持つ。
そこに勇者がストップをかける。
「ソラ。その場から魔法を撃って対処しなさい。的よりも大きいから外せないでしょ? シャロちゃんは前に出てブロック。一体もこちら側に通さないでね。いい?」
「はい!」
シャロは馬車の屋根から地面に飛び降り。馬車から離れ、追加で盾を取り出しそれぞれの手に持ち構える。
その場からって事は馬車の上からって事か。シャロが抑えている魔物以外を、魔法で撃ち抜く感じでいいな。
よーし! 特訓の成果を見せてやろう!
土煙を上げながら馬車が近寄ってくる。
その後ろには、ワイルドボアと同じ大きさで、ハリネズミの様な風貌の魔物が10体押し寄せていた。
馬車が俺達の横を通り過ぎる。
直ぐにシャロが動いた。
「〈挑発〉!!」
ハリネズミのヘイトを自身に集中させる。
ハリネズミが馬車から目標をシャロに変え。襲い掛かる。
その前に、俺の役割を全うしないとな。
シャロから一番離れている2匹に向けて、魔法を放つ。
〈深淵の砲弾〉!
魔法陣より撃ち出される黒の砲弾は、難なく2匹に当たり。当たった個所を中心に球体が広がると、ハリネズミの身体を抉り取りその命ごと消し去った。
よし、残り8匹。
シャロは残りのハリネズミの攻撃を見事に捌いていた。
反らし、弾き、抑え付け、盾で殴り付け。状況に応じて適切な位置取りをしながら、ハリネズミの攻撃を凌いでいた。
「〈シールドバッシュ〉!」
そんな中、シャロが魔物を1体その輪から弾き出した。
アレを撃てって事だな。俺は即座にその魔物へと狙いを付け。放つ。
〈深淵の砲弾〉。
魔法が直撃し、球体が広がり収まると。すぐ様シャロが別の魔物を吹き飛ばす。
そこからは流れ作業だった。
最後の1匹になるまで、シャロが弾き飛ばし。俺が仕留める。それの繰り返し。
そして最後の1匹は。
「フン!」
両手に持つ盾をハリネズミの頭に叩き付け、シャロが仕留めた。
「うおおおー!!」
シャロさん。勝利の雄たけび。
隣に座るアナが拍手をしながら言った。
「2人共。ちゃんと特訓の効果はあったみたいだね」
「そうだな。一発も外さなかったし」
「取り敢えずは及第点かな? ソラはシャロちゃんに魔物が来る前までに何体か減らしておかないと」
「気を付けます⋯⋯」
「終わりましたか~?」
マリアさんがひょこっと顔を出してきた。
馬車があると、マリアさんが飛び出すのを抑えられて便利だな。
マリアさんは基本的に馬車の中でシャロに回復魔法を掛ける役だったので、今回の襲撃を目の当たりにしていなかった。
とりあえず、降りて魔物の死骸をどうにかしないとな。
シャロが殺した1匹以外は体の半分近くが無くなっているので、素材としては使えないな。魔石も諦めるしかないか。
死骸を街道の脇に除け。念の為に魔石を探るも、それらしいのは見当たらない。
そうしているとシャロが頭をグリグリ押し付けてくる。
⋯⋯はいはい。
シャロの頭をワシャワシャ撫でまわし、労う。
その調子で立派なメイン盾になってくれ。
その後、アナがすれ違い様に魔物を擦り付けて来た馬車に細工をしたという。
車輪の一部を凍結。時間経過で砕け散る様にしたそうだ。
⋯⋯まあ、仕方ないよな。人に魔物を押し付けて来たんだ。やり返されても文句は言えまい。
「私なら速攻で追い掛けて爆散するけどね」
勇者はやる事が蛮族の様なんだよなぁ。俺も一歩間違えてればこういう考えに染まっていたのだろうか⋯⋯。
「商会のマークが描かれていたので、教会へ戻った際に報告しておきますね~」
ゲバルト派まで敵に回すのか⋯⋯。仕方ない。仕方ないか⋯⋯。
グッバイ謎の商会。いや、お前らが悪いんだけどな。
王都への旅は続く。
俺とシャロは着実に強くなっている。
なってるよね? ⋯⋯なってるはず。
そう思いながら。
マリアさんはずっと馬車の中で座って回復魔法をシャロに掛けてます。




