181.目指すは王都
朝だ。
鐘の音が鳴るよりも早く、目が覚めた。
ベッドから身を起こし、身支度を整える。勇者は寝てるのか、本は閉じたままだった。一応開いてみたが、白紙のままで勇者の姿が見当たらない。
仕方ないので、勇者を手に持ちそのまま部屋を出て1階へと向かう。
既にシャロが起きており、朝食の準備をしていた。シャロが寝坊するのを見た事がない気がする。いつも俺より早く起きてるな。
一緒に寝る時は、大体同じタイミングで起きるし。ちゃんと寝れてるよな?
「ソラー。おはよー」
「おう、おはよう」
そんな事を考えてたが、シャロに気付かれたので朝の挨拶をした。
アナは⋯⋯、流石に起きてないか。
そう思っていたが。
「おはよ」
後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには、準備を終えたアナが立っていた。
「おはよう。今日は早起きだな」
「おはよー」
「うん。仲間と一緒に旅なんて初めてするから、早めに目が覚めちゃった」
アナもワクワクしてたんだな。俺もだけど。
その後は3人で朝食を食べ。
マリアさんを迎えに行く為、準備を始めた。
教会が門までの通り道にあるので、マリアさんを回収してそのまま向かうと、昨日のうちに話し合っていた。
食べた食器を片付け、それぞれ忘れ物が無いか確認をしてから宿を出ようとした時。アレックスくんに呼び止められた。
「ちょっと待って。はいこれお弁当。昼にでも食べてくれ」
「おー、ありがとう!」
そう言って、お弁当をくれた。
流石アレックス君。気の利く男だ。
俺は礼を述べ、〈収納魔法〉にお弁当を仕舞った。
そうして、宿の表で馬車を〈収納魔法〉から取りだし、アナが創り出した氷の馬を連結する。
「気を付けて行ってこいよ」
「ちゃんとご飯食べるのよ〜」
「行ってらっしゃい」
「「「行ってきまーす」」」
シャーリー亭の面々と別れの挨拶を交わし、教会へと馬車を走らせた。
御者の座る場所には2人しか座れない為、俺とアナが隣同士で座り、シャロが馬車の中で座る事になった。御者の背後に中へと通じる小窓があるので、会話をする分には問題ない。
「椅子がフカフカー」
馬車の中で座っているシャロはご機嫌の様だ。御者の座る所にも、クッションを厚めに敷いたので、そこまで不快には感じない。
やはり貴族の使う馬車だけあって、かなり振動が少ない。アラクネの布には足を向けて寝れないな。
あの後アナが金額を確認して、残りはあの木箱と同じ量が1箱分とか言ってたな。
アレだけの金額を、翌日には用意出来るなんて、流石は貴族令嬢。庶民とは住む世界が違う。
あの金も、アラクネの布を加工する時の代金で、消えそうな気もするけど⋯⋯。
馬車を走らせていると、教会が見えてきた。
教会の前には、マリアさんとイザベラさんが居り、俺達を見付けると手を振っていた。
2人の前にゆっくりと馬車を止める。
「おはようございます」
「はい! おはようございます〜」
「おはよう。マリアの事を宜しく頼みますよ」
早速マリアさんが馬車の中に乗り込み、合流する。あ、そうだ。
「そういえば、例の幽霊。市場の方に居ましたよ」
「今度はそこに居るのですね。何かのついでに祓っておきましょう」
「お願いします。では、行ってまいります」
俺はイザベラさんに幽霊の事を伝え、馬車を走らせた。
◇
門での手続きを無事に終え、いよいよ王都へ向かう旅が始まった。
王都へ通じる街道を前にし、俺は言った。
「さあ! 行こうか!」
「うん!」
「レッツゴー!」
「行きましょ〜」
氷の馬に繋いだ手綱に一瞬魔力を流す。
すると氷の馬は静かに歩き出し、それに引かれて馬車も動きだした。
王都には何があるのかな。
それに、もう1人の勇者ってのもどんな奴なのか気になる。男かな? それとも女かな? 性格がまともな奴がいいな。コッチの勇者とは違って。
「私はかなりマトモな部類だが?」
「なんだ、やっと起きたのか」
「出発するなら起こしなさいよね〜」
「一応、本は開いたんだが、居なかったんでな」
実際開いた時に白紙だったからな。それにいつの間にか、日記の文字も消えていたな。俺が読んだから消したのかな?
そんな事を思い。勇者が心を読むかと思ったが、特にリアクションが無い。
変なタイミングで心を読む癖に、こういう時はスルーなんだな。
すると勇者が浮かび上がり言った。
「それじゃ、道中暇だし。私が鍛えてあげる」
勇者が鍛えてくれる事になった。
◇
「ソラは馬車運転しながら、この的に魔法を当てなさい。勿論、手で狙い定めたりしないでね。あと、無詠唱でやるように」
謎の光る玉を創り出し宙を舞う。不規則な動きだ。手で狙いを定めても当てられるか分からない。
コレに魔法を当てる。馬車を運転しながら無詠唱で? 正気か?
「正気だよ。全ての敵がボケーッと突っ立ってるとでも思ってんの? 戦闘中は激しく動く敵に魔法を当てなきゃいけないんだから、この程度は出来るようになりなさい」
「⋯⋯分かった」
言ってる事はまともだから反論が出来ない。俺の魔法は殺意が高いから、どんな状況でも当てられる様になる必要がある。がんばろ。
「うむ。次、シャロちゃーん」
「はい!」
「君は屋根に昇って来なさい。そこで私からの攻撃を防いでもらいます」
「なんで屋根なんだ?」
てっきり馬車が止まってる時に、訓練するのかと思ったが違うのか。何故屋根?危なくない?
「単純にそこしか特訓する場所がないし、足元も揺れるから丁度いいのよ。常に足場が安定している状況なんて無いんだし、踏ん張りが効かない足場での守り方を学んでもらいます」
「わかりました!」
シャロは元気よく返事をし、屋根に昇っていった。〈収納魔法〉から盾を取り出し。準備を始める。
「アナちゃんは〜。ぶっちゃけ何も無い。君ってさ、今からだと成長する幅があんまりないんだよね。限界?って感じかな〜。ここから先は自分の力で限界超えるしかないのよね。自分でも気付いてるでしょ? 後はきっかけだけだから、自分でなんとかしなさいね〜」
「⋯⋯ハァ。こんな適当なのに、バッチリ言い当てられると何も言えないね。今回私は皆のサポートにまわるね」
なるほど、アナは強さの上限に達しつつあるのか⋯⋯。何かのきっかけで更に強くなれる可能性もあると。
「マリアちゃんは、ぶっちゃけ不死持ちの人間って、体鍛えられないんだよね。一定の年齢までは成長するけど、そっから先はどうやっても身体に変化起こせないから、鍛えるだけ無駄。武の真髄みたいな技術的なのはいけるけど、私は基本魔法ぶっぱなすだけだからそれも無理。そういう訳でシャロちゃんの回復担当ね。よろしく〜」
「わかりました〜」
不死って体鍛えられないのか。筋肉痛とかそういうのも、ダメージ判定にされてすぐ直る感じかな。
というか。
俺とシャロの特訓になってしまったな。
まぁいいさ、王都に着く頃には少しくらい、強くなってるといいんだが。
「それじゃあ。始めるよ〜」
こうして、勇者の特訓が始まった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
もしよろしければ、評価+ブックマークをお願いします!




