179.まだやってんのこの人達
買い物も終わり。冒険者ギルドに1ヶ月程、街を離れる報告をしに来た訳だが。
なにこの状況。
ギルドへとやって来た、俺達4人を待ち受けていたのは。
筋肉モリモリマッチョマン3人組のリーダーであるアッシュさんと、モルソパから移住してきた、クラン『ローズガーデン』マスターのロゼさん。
その2人が、向かい合いながら仁王立ちしていた。
⋯⋯まだやってたのか、この2人。
この前おきた『アイリ黒歴史事件』の時も、こうして向かい合っていたな。
あの時は、向かい合っている理由は分からなかったが、今回はアイリさんがちゃんと受付内に居るので、聞く事ができるだろう。クリスさんは⋯⋯。よし、居ないな。もう黒歴史を暴露するのは、勘弁願いたい。
2人を横目に、アイリさんのいる受付へと向かう。
「アイリさん。こんにちは」
「ソラ君。こんにちは。何か依頼を受けますか?」
「いえ、実は王都に用事が出来まして——」
そこから俺は、王都に行くので1ヶ月程、この街を留守にする事を告げた。
勿論アナも、行くという事を付け加えて。
「そうなんですね。分かりました。皆さんに指名が来た際は、その事を相手方にお伝えしますね」
「よろしくお願いします。ところで」
街を留守にする事も伝えた訳なので、アッシュさんとロゼさんの事を聞くことにした。
「あの2人、何してるんですか?」
「ああ。アレですか。アホみたいに理由ですけど聞きたいですか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
「大分悩みましたね⋯⋯。理由は、ロゼさんのボディタッチのせいです」
⋯⋯。
聞かない方が良かったかな。
「この話止めません?」
そんな俺を逃がすものかと、アイリさんは続ける。
「ロゼさんが兄さんの、お尻を触ろうとするので、ああなりました」
「つまり触られないように、正面で対峙していると」
「そうなりますね。クリスが迎えに来るまで、あのままです」
アホやん。
俺はとんでもないのを、この街に連れてきたのかもしれない。いや、紹介したのはあの人なんだが。
アイリさんは頬杖をつきながら、ため息混じりに言った。
「ロゼさんが女の人なら、私も応援したんですけどね⋯⋯。兄さんも、そろそろ落ち着いてもらいたいですし」
「そうなんですね。アイリさんは良い人いないんですか?」
⋯⋯⋯⋯あ、やべ。やらかした。
俺は言った直後にそう確信した。
カウンター越しに頭を鷲掴みにされ、ギリギリ締め上げてくる。
「いででででで! ア、アイリさん! ストップ! ストッープ!!」
「良いですね。ソラ君は可愛い女の子を3人も侍らせて」
「そ、そういう関係じゃ、いででででて!」
俺は助けを求める為に、パーティの仲間を見る。何で照れてるの君達?! たすけて! 俺の頭がザクロみたいになっちゃう!!あ、ああああああああ!!
俺の頭は爆ぜた。
なんてことは無く。アイリさんのアイアンクローから開放されると。直ぐにヒーラーが駆け寄り、回復魔法を掛けてくれた。
「⋯⋯ありがとう」
「いえ!」
そして走り去ってくヒーラー。まぁ、ここは冒険者ギルドだしな。居るよなヒーラーの1人や2人。ホント何あの人たち⋯⋯。
「ソラ君。アレ何とかしてくれません?」
「えっ。な、なんで俺なんですか? ⋯⋯分かりました。やります」
笑顔のまま無言で、指の骨を鳴らすのはやめて欲しい。
俺はアイリさんの笑顔を守る為。2人の元へと歩き出した。
でもなー。どうしよ。何をどうしたら解決するのコレ。ロゼさんが、自主的に尻を触る行為を辞めるのが1番早いが⋯⋯。辞めないよなぁ。俺の尻も触ってくるし。
⋯⋯。
1ヶ月は俺この街に、居ないんだよな。
それ位の期間があれば風化するか?
よし。行くか。
俺はアッシュさんの後ろに周り、尻を揉んだ。⋯⋯硬いな、こんなん触って何が楽しいんだ?
ギョッとした顔のアッシュさんを無視して、ロゼさんの手を握る。そして一言。
「これがアッシュさんの温もりです」
「⋯⋯え? なに、え?」
ロゼさんは混乱している様だ。
その瞬間。アッシュさんは、その場から全速力で逃げていった。
そうだ、ロゼさんの隙を作れば良いだけなのだ。そうするだけで、アッシュさんは自力で逃げ切れるだろう。
傍から見れば。俺がただアッシュさんの尻を揉んで、ロゼさんの手を握ったヤベー奴になるだろう。
良いんだ。アッシュさんには世話になっている。俺の変な風評1つでその身が救われるのなら。今更俺の呼び名が増えた所で問題ない。
魔女の眷属。魔女の手下A。ヒーラーの餌。九天天ツ空(笑)。ヤベェ女回収機。ゲバルト派も落とす男。色々呼ばれてるのは知っている。今更増えた所で⋯⋯ね。次はアッシュの尻を揉んだ男、か?
俺はアイリさんの元に戻り、告げる。
「解尻しましたよ」
「まぁ、はい。ありがとうございます」
何で若干引いてるんですかねー!!言われた通り解尻したのに!!
俺は仲間の元に戻り慰めて貰おうとした。
シャロが言い放つ。
「ソラは男の人が好きなの?」
なんてこと言うんだこの子は!俺は、女の子が好きだ!
「俺は女の子が好きだ! 間違えるんじゃねえ!」
「ふーん? じゃあ、あたしもいけるの?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯シャロもいけるか?
いや、いけるかいけないかで言えば、余裕でいける。いけるが、シャロとそういう関係になる想像が出来ない。本当にいけるのか?その場しのぎでいけると言ってるんじゃないのか? 分からない、俺の性癖は何処までが守備範囲なんだ⋯⋯。なんだ? そう思うとシャロも可愛く⋯⋯。元々可愛いか。しかしアナと比べると⋯⋯。バカ! 人と比べるなんて、そんな失礼な事を考えるなんて、相手に失礼だろ! とはいえ、シャロは炊事洗濯と家事は人並み以上に出来る⋯⋯。あれ? もしかしてこの中で一番女子力高い? お嫁さんにした時ブッチギリで1位取る位には家庭的か? うーん。有りか。有り寄りの有りだな。有りだが⋯⋯アナさんが何て言うか。俺は結論を出した。
「いけるかいけないかで言えばいける」
何言ってんだろうな俺は⋯⋯。
俺がそう言うと、何故か女性陣でキャッキャし始めた。⋯⋯疎外感~。
「それじゃー、馬車の練習しに行こー!」
「「おー!」」
⋯⋯。
あれ、この話終わり?! マジで?? 結構今後の事を左右すると思うんだけど。
「ほら、ソラも行こう」
アナに手を引かれ、急かされる。
俺は何だか不完全燃焼のまま、馬車の練習へと向かった。
◇
という訳でやってきました。街の外。要は外壁沿いにある、街道なのだが。
俺は〈収納魔法〉から馬車を出し、アナは魔法で氷の馬を作り出した。
合体!
馬付きの馬車が完成した。
改めてみると馬が目立つな。
氷の馬だし、色も薄桃色で自然に生まれるような色じゃない。
でも氷の馬ってのはカッコいいな! 俺の厨二心を刺激する。コイツの名前は「サクラ〇クシンオー」だ。
どんな道のりも爆進する事を願って⋯⋯。危ないか? ギリいけるか?
俺の心の中で思っていればいいか。この話はまた今度という事で。
気を取り直して馬車の練習を開始した。
順番に手綱を握り、外壁の周りをグルグル回る。
最初はシャロが手綱を握ったが、どうも安定しない。動いて止まっての動作がぎこちない。
勇者いわく。
「シャロは魔法の才能がカスだから、こういう魔力の操作もカスだよ」
とのこと。カスとは言い過ぎな気もするが。実際センスを感じられない。
なのでシャロは早々に諦め、馬車の中で不貞寝し始めた。才能が無いのはしょうがないからな。努力ではどうしようもない事もある。適材適所だ。
次にマリアさんが試した。シャロよりはうまく出来るし、安定もするが。この人は呪いの関係で運転手には向かない。魔物が現れたら真っ先に馬車を捨てて飛び出すので、御者には向かないだろう。
なので必然的に、俺かアナが担当する事になるだろう。
俺とアナは問題なく動かせた。アナは馬を作り出した本人なので、当然問題は無い。
意外な事に俺も問題は無かった。アナと同じ位スムーズに操作する事が出来た。
この辺は相性的なのが絡んでいるのかな?それはつまり俺とアナの相性が良いという事だろうか。⋯⋯だったらいいなぁ。
練習の末、決まった役割は。
俺とアナが交代で運転。
シャロとマリアさんは、その他雑用を担当という事になった。
勿論、料理は俺が担当だ。魔道コンロの性能も確かめたいしな。
俺達は陽が暮れるまで外壁をグルグル回り、馬車の練習をした。
門番の人達には「なんだコイツ等」という目で見られたが気にしない。
⋯⋯今気づいたけど、氷の馬が通った後凍ってね? そりゃなんだコイツ等と思うわ。
仕方ないので、今日の練習はこれで終わりという事で。
俺達は、馬車に乗りながらシャーリー亭へと帰っていった。
アイリさんに良い人は居ません。
彼氏募集中です。




