171.ある者達の話し
とある活火山。
その火口に、ソレは居た。
赤黒い骸骨。
その背には42本の腕を持ち。
結跏趺坐という座り方で、その場に留まる謎の魔物。
世間一般的に、『赤の魔物』と呼ばれるソレは。
何時の頃からか、そこに存在していた魔物。
赤の魔物。
正確には『劫火の使徒』と呼ばれるソレは。
火口にて、手を合わせ。何かに祈りを捧げていた。
この世は、なんと非情な世界か⋯⋯。
正しき者が救われず、悪しき者が高笑いを浮かべる世界。
ああ、なんと愚かな。
かつては、全ての者に救いの手を差し伸べた。
仏の道を説くことで、皆が手を取り合って生きていけるような世界にしたかった。
しかしそれは叶わなかった。
⋯⋯仏とはなんだ?
私は一体何者なのだろうか⋯⋯。
その答えを教えてくれるものは居ない。
ただ、心の中に仏という言葉だけは残っている。
ソレが何なのか分からない。分からないが、仏を思い。手を合わせる。
ただそれだけで、心が救われる様だ。
⋯⋯おや?空から人が降って来た。
助けねば。
この手はその為に有る。
手を伸ばし、人の子を掴むも。その体は全て燃え上がり、炭へと変わっていった。
ああ、何という事だ。
教えを説く前に、仏の元へと旅立ってしまった。
仕方のない事だ。彼らはこの苦痛が蔓延る世界から解放されたのだ。
せめて、その死に祈りを捧げよう。
⋯⋯誰に祈ればいいのだろうか。
誰の為の祈りかも、その祈りの意味さえも分からぬまま『劫火の使徒』は、そこから動く事は無かった。
◇
ヨーホー♪ヨーホー♪
うーむ、やはり海を泳ぐのは気持ちがいいぜ。
広い海をこの手に⋯⋯ヒレか。ヒレに掴み、自由に泳ぐのは気持ちいい。
何やら海面が騒がしい。
何時もの様に、陸の生き物が木の板に乗って移動しているのだろう。
海中を自由に泳げない連中には同情する。
⋯⋯何時もより騒がしいな。それに、木の板の数が多い気がする。
少しだけ覗いてみよう。
いててて、なんかチクチク撃ってきた。
実際に痛みは無いが、気分的に痛い。
俺様の鱗が、この程度で傷付くなんて有り得ない。
少し本気で泳ぐか。
ある海を遊泳している魔物。
世間一般的に、青の魔物と呼ばれるソレは。
何十隻もある、大小様々な船の周りを、グルりと1周すると、急速にその身体を深海へと潜らせた。
そして最深部より、体を回転させながら海面目掛けて急浮上。
海面から現れるその巨体は、宙に大きく舞い上がり。その後を追うように、大きな水柱が海面より渦を巻きながら、青の魔物の後を追った。
そしてそのまま着水。
飛び跳ねる。
ただそれだけで、海に浮かぶ船団は跡形もなく、海の藻屑へと変わり果ててしまった。
やっと静かになった。
ヨーホー♪ヨーホー♪
何故か口ずさんでしまうこのリズム。
何処で覚えたのかは忘れてしまったが、口ずさむと、なんだか楽しい気分になる。
さて、次は何処の海を泳ごうか。
ヨーホー♪ヨーホー♪
青の魔物。
『蒼海の使徒』は、今日も海を泳ぐ。
邪魔する物は排除し、海を支配する。
陸の生き物が、静かに海面を移動するなら見逃そう。
煩くするのなら、その近くを力強く泳げばいい。
たったそれだけで、奴らは海の底へと消えていくのだから。
◇
商人がある街道を移動していた。
人伝に聞いた、ある噂。
緑の魔物が縄張りを持った。という噂。
モルソパから、ドレスラードへと続く街道はここしか無い。
だから、ここを通るしかない。
商人仲間からの噂を耳にし、半信半疑のまま、その場所へと差し掛かったった時。
不思議な光景が、目の前に広がり始めた。
今ままで、街道の横は何の変哲もない、森が広がっているだけだった。
しかし、ある地点から、ここから先が縄張りだと。言わんばかりに、境界線が出来ていた。
境界線の先に広がる光景。
それはまさに、緑の楽園。
そこには、様々な植物が咲き乱れていた。
色とりどりの花。瑞々しい果実の実った樹。よく見かけるような野菜から、滅多に見ることの出来ない様な、貴重な薬草までもが、季節などお構い無しに咲き乱れていた。
商人としては夢の様な光景。
ここにある物全てを持ち帰り、売り捌けばどれ程の儲けが出るか⋯⋯。そんな事を考えずにはいられなかった。
だがココは、緑の魔物の縄張り。
下手な事をして、怒りを買う訳にはいかない。その思いで、欲望をグッと押さえ込み街道を進む。
そんな中、1人の護衛が街道を外れ、何かを取ろうとした。
男が1歩足を、街道から踏み外す。
その瞬間。
森の中から無数の蔦が伸び、男を絡め取ると。そのまま森の中へと、引き摺り去っていった。
止める言葉も間に合わなかった。
その場の全員が改めて思い知る。
ココは緑の楽園などでは無い。
緑の魔物の縄張り。
我々は縄張りに侵入してきた、侵入者なのだと。
商人達は知る由もない。
街道から踏み外した男。
その男が踏んでしまった、とある赤い花。
その花は、女王が直接力を使い。
再現し、創り出した異世界の花。
傷付けるのなら、その者の死で償わせる。
ココは我等が女王の居城。
女王が心安らかに過ごせる様に。
その身を捧げる。
緑の魔物。
『深淵の使徒』マザーフォレストは座して待つ。
その胸には、輝く1つのブローチが付いていた。
そのブローチが、何処にでも売っているような品だと、気付く者はいない。
マザーは待つ。
この道を、あの子が通るのが待ち遠しい。
もしも腹を空かせてるのなら、果物や野菜が有る。
もしも怪我や病気をしているのなら、それを癒す薬草が有る。
そう⋯⋯、ココはあの子の為の場所。
マザーは待つ。
『深淵の加護』を与えた、1人の男が来るのを待ち望みながら。
◇
世界の何処かに有る。
直径100m程の巨大な穴。
その最深部にソレは居た。
『原鉱の使徒』
そう呼ばれる土竜のような見た目のソレは。
体の表面は様々な鉱石が付着しており、そのどれもが、鋭く強靭な物へと変わっていた。
まるで鉱石の鎧を纏う様なその姿。
凶悪な顔も、今は穏やかな表情をしていた。
眠っているのか。時折聞こえてくる、イビキの様な唸り声。
イビキの様な唸り声は穴の中で反響し、地上へ出る頃には、地響きの様な音へとかわっていった。
その穴を知る人は皆同じ様なことを言った。
「あの穴の底には、世界を滅ぼす何かが居る」
地の底に眠るソレは。
1度だけ、文明に壊滅的な被害を出した事がある。
当時、高度に発展した文明は、何を思ったのか。ソレの眠る穴にゴミを捨て始めた。
結果は、眠りを邪魔され、怒り狂った『原鉱の使徒』により、世界は荒廃。
満足した原鉱の使徒は穴に戻り、また長い眠りについた。
原鉱の使徒は夢を見る。
それはかつての思い出。
仲間と過した、在りし日の自分の姿⋯⋯。
最初の使徒はただ眠る。
次に目を覚ます、その日まで。
その時は⋯⋯、世界の終わりか。
または別の何かか。
原鉱の使徒は寝返りをし、イビキをかいた。
◇
「貴方は、皆を照らす光ね」
かつて誰かに言われた言葉。
その言葉が、誰に言われたのかすらもう思い出さない。
そうだ。
僕は皆を照らす光になる。
その思いを胸に、今までやってきた。
更に強い光が後ろに居るが。
それでも僕は、皆を照らす光となろう。
それは遥か上空。
高度400kmの位置で、その星を見守る。
光り輝く丸い球体。
その名は『光芒の使徒』
しかし、その名を知るものは誰も居ない。
その存在すら知るものは居ない。
この星を照らす太陽の傍に、寄り添うように存在するソレを、人は意思の有る生き物だと気付きもしない。
かつて栄えた光の王国。
その頂点に君臨した光の王。
その成れの果ては、死して尚も光を増し。
皆を明るく照らし出す。
転移順は。
モグラ→ママ→光の王→海賊→坊主。
となっています。
こういう上位存在が居るよ、というお話でした。




