169.ゆ、許された——!?part2
「ただいま!」
その声と共にアナが戻って来た。
先程とは打って変わって、その表情は明るかった。
⋯⋯⋯⋯逆に怖い。
30分の間に何があったんだ。
まさか、勇者が完壁なフォローを?
「ソラ。あの勇者ムカつくね!」
「あ、はい。そう、スっね⋯⋯」
あいつ何したの?
ムカつくのは同意だけど、面と向かって言われると、反応に困るっていうか。
「おかえりー、どうだった?」
「私なりに納得出来たから、もう大丈夫だよ」
「それは良かったですね〜」
なんか俺の知らない何かを、3人の間で共有している⋯⋯。え、疎外感⋯⋯。
もしかして、3人の間でテレパシー的なのがある感じ?勇者も、心の中を読める魔法が使えるし。⋯⋯可能性はあるか。
「わぁ、美味しそうだね。ソラが用意したの?」
「まあな、昨日の内に作っておいたんだ。一応、食べるのは勇者が戻って来てからかな」
「いいんじゃない?放っておいて。虫みたいに、どっか飛んで行ったし」
「⋯⋯なら、先食べてようか」
アナが勇者に対してトゲがある⋯⋯。ここは素直に従おう。
勇者は放っておいて、皆で昼食を食べる事にした。
⋯⋯アナがシャロの事を、じっと見つめてる。
「⋯⋯?⋯⋯⋯⋯あっ!どうぞー」
「ありがとう、シャロちゃん」
一体なんだ?今のやり取りは⋯⋯。
俺の隣に座っていたシャロが、席をアナに譲る。
⋯⋯な、なんか近くないっすかね?
アナは自分の椅子を、俺の椅子にピッタリくっ付けて座った。
さっきの態度とは、真逆過ぎて逆に怖い。
なんだ?勇者は一体、何を吹き込んだんだ⋯⋯。肩も触れ合う程に近い。良い匂い。
「そ、それじゃ食べ、食べますか!」
「ふふふ。どうしたの?大丈夫だよ、私はもう怒ってないから」
そ、そうなのか⋯⋯。でもまぁ、一応怒ってはいたのね。悪い事をしたな⋯⋯。
気を取り直して。
「いただきます!」
「「「いただきまーす」」」
なにはともあれ俺は。ゆ、許された——!?やっぱりアナは女神。ハッキリ分かんだね。
皆で用意したお弁当を食べる。美味い美味い。
そんな中。シャロが口にものを詰めたまま、喋り出す。
「ほーいえばさ、ほとではにはなしてたのー?」
「飲み込んでから喋りなさい⋯⋯」
「⋯⋯ゴクン。それでさ、外で何話してたのー?」
正直俺も気になる。アナの態度を見るに、変なことを言われたのだろう。
「うーん。どうしよう。詳しい話は正直言えないんだけど。私は血濡れの魔女の生まれ変わりみたい」
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯?
周りが勝手に、そう言ってるのは知ってるが。勇者までそんなこと言うかな?
「どういうことー?」
「本当に。血濡れの魔女が生まれ変わったのが。私なんだって」
「え〜っと、つまり。アナさんは元勇者パーティの仲間だったということですか?」
「違う違う。血濡れの魔女⋯⋯あー、名前はヴァイスって言うらしいんだけど。その人が死んで、転生したのが私。記憶とかは無いけど、魂が同じなんだって」
ふーん。つまりアナはガチの血濡れの魔女の生まれ変わりだったと。なるほどなるほど〜。いやアホかあの勇者!!!なんて爆弾投げつけてんだ!
血濡れの魔女で散々苦しんできた本人に「お前は本当に生まれ変わりだから」とでも言ったのか?そりゃムカつくわ。
「⋯⋯?」
あ、ダメだ。シャロが理解できてない。
マリアさんも固まってる。
空気を変えねば。
「えーっと。他には何か言ってたか?」
アナはチラッとマリアさんを見て。
「マリアさんの加護の内容も教えてきた」
「⋯⋯そうか。あの勇者アホなのか?」
「あーなんか、終活がどうとか言ってたけど」
終活ねぇ。後は死ぬだけだから、好き勝手やってる感じか。無敵かアイツは?頭の中の勇者がダブルピースしながら「無敵でーす」と言っている。消えうせろ!
「アナ」
「なに?」
「マリアさんの加護は、俺とシャロも知っている。この件に関しては、マリアさんの意思でしか伝えられない。だから内緒にする必要があったんだが、分かってくれるか?」
正直、アナの協力を得られればそれが一番だが。
この件は、そんな簡単な話じゃない。国が絡む話だ。俺達だけでは対処できない場面も多々あるだろう。
俺個人としては、アナなら受け入れてくれると信じしているが⋯⋯。
「大丈夫だよ。誰にも話さないから。私よりも勇者の方を口止めしておいた方が良いね」
「そうだな、ホントその通りだ。マリアさん、こんな形でバレてしまったんですが。宜しいでしょうか?」
「私は大丈夫ですよ~。すいません。アナさんだけのけ者みたいにしてしまって⋯⋯」
「いいよ。不死はバレた時点で幽閉されるし。私も経験有るけど、仲間がそんな目にあうのは嫌かな」
⋯⋯くっ。なんて素晴らしい子だ。勇者にも見習ってほしい。誰彼構わず爆弾投げやがって。本の中の高潔な勇者は何処行ったよ。
「誰が、なんだって?」
突然、背後からの声に体がビクッとなった。
振り返ると。宙に本が浮いていた。
問題児である、勇者様のお帰りだ!
「っかー!家主の居ない家でランチとは、いい御身分ですこと!私が帰って来るまで待とうって、考えは無かったわけ~?」
帰ってくるなりやかましいな。
「お、サンドウィッチと~。唐揚げにタコさんウィンナー、卵焼きか~。普通だね」
「なんだコイツ」
思わず声に出てしまったが。ホントなんだコイツ。
「勇者様も食べますか~?」
マリアさんだけだ。この勇者を様付けで呼ぶ人は⋯⋯。
「私。魂だけだから、食べられないんだよね~。気持ちだけ受け取っておくね~」
確かポテチを食ってたような気がしたが、アレは演出的な奴なのか。
勇者がバサッとテーブルに腰?を落ち着けると。
「で、アンタら仲直りしたの?」
アンタら⋯⋯。ああ、俺とアナの事か?だとしたらもう大丈夫だよな。
「お陰様で。こんなに仲良くなりました」
そう言ってアナは、俺の腕に抱き付いて来た。うっひょー!
俺のテンションは爆上がりした。勇者も実は悪い奴じゃないのかもしれない。俺はそう思った。
「⋯⋯チッ!人の家でイチャイチャしやがって!ヤルんなら別の宿屋でヤリな!」
何言ってんだこの人⋯⋯。
勇者は宙に浮き、何故かテーブルの周りをグルグル回り出した。
ホント何がしたいんだ。
グルグル回っていたが。ピタッと止まり言った。
「で、アンタら今日はうちに泊まってくよね?」
「なんで?」
いやホント何で?さっきからそうだが、いきなり何言ってんだこの人は。
「いいじゃん泊って行けよ~!!100年も1人だった私を気遣えー!!」
100年1人だったことを出されると、同情してしまう。同情してしまうがー、コイツのやった事に比べれば俺だけはNOと言える男だ。
「泊まっていいのー?」
「お、いいよ~!全然いいよ~。お風呂とか入っちゃいな~」
「あの見た事も無い、お風呂に入れるんですね~」
⋯⋯⋯⋯。
俺は仲間がYESというのならそれに従う男だ。
俺達は勇者の家に一泊する事になった。




