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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
先代勇者シズク編

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166.ヴァイスの記憶

今回お辛い話になるので、そういうのが苦手な方は、嫌な予感がした段階で戻ることをおすすめします。

 ******



「パーティは参加しなくていいの?」

「パレードは出たんだし十分でしょ。私は一足先に家に帰ってるから、後でちゃんと報奨金持ってきてよね」

「ハイハイ。分かったから、サッサっと行きなさい。2人によろしく伝えておいて」

「それじゃ、待ってるわよ〜」


 シズク、ミーシャ、ハンゾウに別れを告げ。

 私は愛する家族の元へと、一足先に帰る事にした。


 魔王を倒した後。色々と時間が掛かってしまった。ただでさえパレードで時間が掛かったのに、更にパーティまで参加してたんじゃ、2人が待ちくたびれてしまう。


 きっと盛大に出迎えてくれると思う。

 王都から私達の住む街までは、馬車で5日の距離。寝ないで走れば3日で行ける⋯⋯。⋯⋯よし!


 待っててね2人とも〜。


 ◇


 そこから眠らずに、三日三晩走り続けた。

 そして、お昼頃。

 ようやく街の外壁が見えてきた。


 乱れる息を落ち着かせ、門番のいる所に向かった。


「おお!白銀の魔女様!お戻りになられたのですね!」

「お前ら!道を開けろ!ささっ、どうぞこちらへ。お通りください」


「⋯⋯ありがとう」

 うーわ、露骨過ぎ。

 コイツら昔は私の事、野良犬とか言ってたのに、魔王倒した途端手のひら返しやがった。

 まぁいいや、こんなのに構う時間なんて無いし。


 私は門をくぐり、街の中に入った。

 街はお祭り状態。

 広い通りには出店が所狭しと並んでおり、吟遊詩人は、勇者を称える歌を披露していた。

 そんな中、1人の子供が声を上げた。


「あー!白銀の魔女様だー!!」

 その声に釣られて、周囲の目が私に向けられた。うわぁ⋯⋯、面倒臭そう。


 予想通り。人が押し寄せ、皆が口々に私を褒め称える言葉を述べた。

 その言葉の1つ1つが、私の心に響く事はなかった。


 私の生まれは路地裏。

 罵声を浴びせられた事は数え切れない程ある。時には泥水を掛けられ。石も何度投げつけられたことか⋯⋯。

 必死に稼いだ金で何かを買おうものなら、この金は何処で盗んだと、問い詰められたりもした。


 そんなヤツらが口にする言葉なんて⋯⋯。

 ⋯⋯ダメね。シズクには、勇者の名を汚す様な事はするなって言ってるのに。私がこれじゃ、示しがつかないわね。


 私は笑顔を顔に浮かべ、対応した。


「ごめんなさい。行く所が有るからこれで失礼するわね?」

 押し寄せる人の波を掻き分け、愛すべき人達の待つ、我が家へと向かった。


 ◇


 ああ、久しぶりに帰って来た。

 私が唯一愛した人。そしてその人との間に出来た愛息子。2人の住むこの家に。


 旦那⋯⋯。 いえ、シロとの出会いは⋯⋯正直何時だったかは覚えていない。

 気付いた時には隣に居てくれた。

 お互い両親に捨てられ、街の路地裏で育った。

 ゴミを漁り、時には盗み。そうやって生きて来た。

 ああ。思い出した。確か最初は偶々、寝ようと思った場所にシロが居たんだっけ。

 シロが最初に寝ていた場所に、私がやって来て、そんな私をシロは受け入れ、一緒に眠ってくれた。

 薄く穴の開いた、毛布と呼ぶにはあまりにも貧相な布で、2人共ガタガタ震えながら、体を寄り添いながら眠った。

 暖かい人。最初に抱いた思いはそれだった。


 それからは、一緒に行動する様になった。

 一緒にゴミを漁り、一緒に盗みを⋯⋯しなくなった。シロが嫌がったからだ。

 そんな生活を続けている内に、自然と惹かれあっていった。


 ある日、私の知られたくない秘密がバレてしまった。

 私は生まれつき、自分の髪の毛を動かす事が出来る。魔力によるものなのか、それとも別の何かなのか。子供の頃はそれが分からなかった。

 何となくで動かす事が出来る。その程度の認識だったので、深くは考えなかったんだと思う。

 とはいえ、そんな私を周囲の人間は気味悪がっていたのも事実。

 ある時、シロの目の前で咄嗟に髪を動かしてしまった。


 しまったと思った時にはもう遅かった。

 心臓の鼓動が早くなる。初めて何かを失う事が怖いと思えた。

 私の予想に反し、シロはあっさりと受け入れてくれた。

 目を輝かせ。「すごい!」と言いながら。

 初めて自分の全てを受け入れてくれる人に出会えた。それだけで私の目からは涙が零れた。

 この人となら⋯⋯。そう思えた。


 それからも、ずっと一緒に生活を続けた。

 路地裏育ちの他の子供とのケンカなんて日常茶飯事。

 私が気に入らないと思う相手は、取り合えず殴る様にしていた。幸い、私には戦いの才能が有ったのか、負ける事は少なかった。

 シロも、弱いくせに何時も私の味方をしてくれた。

 私はそんなシロが大好きだった。


 月日が経ち。

 徐々に大きくなっていく私達。

 その頃には、街の外に出て魔物を狩る様になっていた。

 そうしていると、気付けば街一番の実力者になっていた。

 魔物を狩り、その素材を売って金を稼ぎ。

 そんな生活を続けている内に。


 何時しか⋯⋯、私は母親になっていた。


 お腹の中で動く我が子を思いながら、生まれて初めて感じる心穏やかな時間。

 この子に、私と同じ思いをさせない。そう心に誓い。その時を待った。


 人生で一番の苦痛だったと思う。

 それでも、この子の顔を見た時。全てが報われた。


 ああ⋯⋯。生まれてきてくれて、ありがとう。


 生まれてからの生活は、凄まじいの一言だった。

 今まで魔物を狩っていればいい生活が一変し。

 手に抱くその子は、まさに小さい怪獣。

 泣いては乳を飲み眠り、泣いては長時間抱っこしてようやく眠る。その繰り返しだ。

 それでも、全然苦しいとは思わなかった。いや、少し⋯⋯大分きつかったけども。それでも楽しいと思えた。


 魔王討伐の旅で、息子の成長を直接見れなかったのは痛いけど⋯⋯。いやちょっと後悔してる。ごめん嘘。滅茶苦茶後悔している。シズク~!時間巻き戻す魔法開発してー!!!

 シズクが時々、転移魔法で写真?とかいう紙に精巧な絵を描いてくれるので。ある程度は成長を確認出来ていた。

 あ~。可愛いでちゅね~。なんで私はその場に居ないんだろう。


 そんな生活も今日で終わり。

 何故なら魔王は殺したし、パレードも終わった。

 後はシズク達に任せればいいでしょう。私よりもうまく出来るだろうし。


 そんな事を家の前で考えていた。この間僅か1秒。なーんてね。

 ⋯⋯さて。正直緊張する。心臓が痛い位高鳴っている。


「ただいま!」


 家の扉を開け、元気に声をだした。


 ⋯⋯⋯⋯あれ?居ない。

 ⋯⋯え?なんで?2人は何処行ったの?

 あ、そうか。街はお祭り騒ぎ。きっと外に出ているのね。

 だってパレードの前に、転移魔法でシズクに手紙を渡しに行ってもらったんだし。私が早めに帰る事は伝わっているはず。


 多分ブランにせがまれたんでしょう。

 それなら仕方ない。

 家に戻って来た時に、私が居るというサプライズが出来る。

 門の手前で騒ぎになったけど⋯⋯。多分大丈夫でしょ。


 早く帰ってこないかな~。


 ◇


 ⋯⋯⋯⋯ん。

 ⋯⋯不味い、寝てた。

 徹夜で走ってたのがまずかったかな。


 窓から指す光は無く。辺りは暗くなっていた。


 2人はまだ帰っていない様ね。

 ん~。どうしよ。探しに行くべきか、このままここで待つか。


 不意に外で気配がした。

 目に見えないほどの細い髪を使い、索敵を行う。


 外には人間が1人。それ以外では⋯⋯。馬車?後は御者か。

 私は扉を開け。訪問者が誰なのかを確認した。


「初めまして。私はこの街の領主様に使える執事です。領主様より。白銀の魔女様を是非、夕食にご招待したいと仰られております」

 あー、貴族関連のか。めんどくさ。旦那とブランを待っていたいのに。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯行くだけ行って、理由付けてさっさと帰るのが良いかな。恨み持たれても面倒だし。


「⋯⋯わかりました。では向かいましょうか」

「おお、ありがとうございます」


 ⋯⋯ハァ。旦那とブランに早く会いたいのになぁ。


 ◇


 領主の執事と名乗る人物に連れられ。

 この街一番の屋敷へとやって来た。


 あー、確かに。ここは領主の屋敷だったね。全く面倒くさい。

 夕食といっても、たかが知れているでしょうね。ミーシャの作るご飯に比べたら全てが下位互換だというのに⋯⋯。我ながら随分と舌が肥えたわね。

 2人にもミーシャのカレーを食べさせてあげたい。帰ってくる前に2人分作らせておくんだった。シズク辺りがストックしていないかしら⋯⋯。


 馬車は屋敷の正面で止まり。

 正面に控えていたメイドが扉を開ける。


 結局、良い考えが浮かばなかった。

 ああ、本当に面倒臭い。

 本音をいえば、このまま無視して帰ってもいい。でもそれだと、シズクの名に泥を塗るかもしれない。

 あの子には、今後の人生を幸せに過ごして欲しい。その邪魔になる様なトラブルは、できるだけ避けたい。


 いつの間に、あの子の事を妹の様に見ている自分がいた。

 最初はオドオドしていたけれど、一緒に過ごす内に、どんどん前向きな性格に、変わっていってる気がした。

 ⋯⋯少し怒りっぽくなったかな。その怒りの半分位が、ハンゾウのせいなんだけれども。


 そんな事を思いながら、案内について行き。派手な意匠の施された扉の前に着いた。


 扉が開かれた先には。

 長いテーブルが1つに、間隔を開けて置かれた椅子が幾つか。


 貴族というのは、どこも同じような感じね。無駄に広い部屋に、無駄な装飾。テーブルもこんなに、距離を開ける必要性が分からない。家族の顔を間近に見ながら、食事をしたいと思わないのかしら。


「コチラの部屋で少々お待ち下さい」

 そう言って、執事の男はメイドを残し部屋から出ていった。



 あー、また待たされるのね。

 貴族という奴らは、やたらと人を待たせる。それは己の見栄や、プライドがそうさせている。

 待たされる身にもなって欲しい。

 他の街の貴族なんかは、向こうから呼んでおいて、半日部屋の中で待たされたりした。流石にシズクがキレて、ハンゾウを差し向けていたけどね。

 珍しくハンゾウが貴族の首を繋げた状態で持って来る、という珍しい体験をしたっけ。


 まぁ夕食に招待だから、そんなに待たされることは無いと思うけど⋯⋯。


 しばらく待ち。

 扉が開かれ、現れたのは。

 小太りの貴族と、着飾った化粧の濃い女。

 それと男の子が1人、恐らく息子とかでしょう。


 顔は⋯⋯どれも街で見かけた記憶が無い。無いというか、路地裏育ちなので。間違っても貴族と関わることなんて無かったし、遠目から見るという機会もなかった。


 小太りの男は、腹を揺らしながら言った。


「貴様が白銀の魔女か。噂通りの美しさだな」

「⋯⋯どうも、ありがとうございます」

 こいつに褒められても、微塵も嬉しくない。


「では早速食事にしよう。おい、早く用意しろ」

「畏まりました」

 執事の男は部屋を出ていき。メイドが数名、小太りの男達の傍についた。


 お互いテーブルの端と端に座る形で、かなり距離がある。逆にこの距離感は有難い。

 顔を突合せて食事など、する気になれない。


 食べる流れになってしまった。

 いっそ開き直って、ミーシャの料理と比べてみよう。


 それから直ぐに、料理が運び込まれてきた。

 見た目は高そうな料理。相変わらず貴族共は良い物を食べている。私が子供の頃食べてたのは、カビが生えたパンや生ゴミだったっけ⋯⋯。

 今でも覚えている酷い味。でも、シロと一緒に食べると、不思議と飲み込めた。

 早く会いたいな。


 そこからは、冒険の話や魔王との戦いの話をするよう命令された。この辺は何処の貴族も同じか⋯⋯。


 食事も終わり。

 ひと息ついた所で、小太りの男が本題とばかりに、話を切り出す。



「さて。今日貴様をここに呼んだのは他でもない、私の息子の妾にしてやろうと思ってな」




 ⋯⋯?

 なんて言った?


「⋯⋯はぁ」

 思わず気の抜けた言葉が漏れ出る。


 この貴族はなんて言った?息子の妾?してやろうと思って?なんで?


 いきなり訳の分からない事を言われ、頭の中で疑問が渦巻く。


「なんだ?理解出来てないのか?これだから平民は低脳で困る」

「アナタ。もう少し分かり易く教えてあげないとダメじゃないの。魔王を倒したといっても所詮は平民よ?」

 2人の貴族が言う言葉は、頭の中にスっと入って来た。

 なるほど。コイツらは私が平民だから、何でも言うことを聞くと思ってるのね。


 まったく。シズクとハンゾウが居なくて良かった。あの2人が居たら、この屋敷は更地になってしまう。


「白銀の魔女が息子の妾なら、息子にも箔が付くというものだ。貴様の様な平民の女を貴族の妾にしてやるんだ。ありがたく思え」


 頭に血が上るのを感じた。

 いっそ殺してしまおうか⋯⋯。いやいや。ここで私がキレたら、シズク達に迷惑が掛かる。ココは気持ちを抑えて⋯⋯抑えて。


 そこに息子とかいう、ゴミが口を開く。


「お父様。貴族である僕が、平民を抱かなければいけないのですか?」

「ハッハッハ。これも貴族の務めだ。この女との子供は、お前が正室と作る子供の護衛に使うといい。それにお前も、魔王を倒した女を好きにしてみたいだろ?」

「あらヤダ。アナタったら。オホホホホホ」


 自分が、こんなに忍耐強いなんて初めて知った。テーブルの下で握り締めた手が痛む。私はよく表情を崩さずにいられるな。作り笑いの練習の成果。


 ⋯⋯もういいか。

 サッサとここを出て、シロとブランを連れてこの街を出よう。その後は、たしかハンゾウが、忍びの里とかいうのを作るとか言ってたし。それを手伝いましょかう。


 私はこれ以上この場に居る必要は無いと判断し、無言で席を立った。



「おお、そうだ。おい、アレを出せ」

「畏まりました。〈収納魔法(アイテムボックス)〉」

 執事の男が〈収納魔法(アイテムボックス)〉から木箱を取りだした。


 ちょうど両手で持てるサイズの木箱。

 それを私の目の前に置く。


 ⋯⋯金銭でも支払う気?そんな物に興味は無い。無視してここを出よう。


 そう思ったが、ほのかに香る嗅ぎなれた臭い。


「世継ぎの問題で揉める前に、コチラで処理しておいた。これで貴様も安心して我が家に入れるな」



 心臓の鼓動が早い。

 さっきまで頭に昇っていた、血の気が引くのを感じた。


「どうぞご確認ください」

 そう言って、執事の男が木箱の蓋を開ける。



 嗅ぎなれた臭いがより一層強くなる。


 戦場で嗅いだ臭い。


 視界が揺れ。


 周りの音が遠ざかる。


 1歩後ろに後ずさった。


 口に込み上げて来たソレを、床に撒き散らす。


 体の震えが止まらない。


 そしてその言葉だけは、やけにハッキリ聞こえた。





「せめてもの慈悲だ。苦しむ間もなく殺してやったぞ」




 ああ、私が間違っていた


 コイツ等を


 なんで私は

 見逃してたのだろう


 魔物だってこんな事は

 しない

 魔物の方が

 よっぽどまともだ


 そうだ⋯⋯

 こいつらはにんげんじゃない

 まものだ

 にんげんのかわをかぶった



 こいつらは殺すべき敵だ




 ◇


 そこからの記憶は曖昧で。


 夢を見ているような。


 何処か現実味がない。


 ⋯⋯誰かが助けてと言っている。

 たしか、まものが言ってた言葉がある。


「最後の1人になるまで殺し合え」


 そのまものはそれを見て笑っていたっけ。

 ⋯⋯私は楽しいとは思わない。


 また別の誰かが来た。

 他には⋯⋯。


「首を全て集めて綺麗に並べろ」


 ああ、醜い。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯血がついてしまった。

「〈清潔魔法(クリーン)〉〈清潔魔法(クリーン)〉〈清潔魔法(クリーン)〉〈清潔魔法(クリーン)〉〈清潔魔法(クリーン)〉」


 ⋯⋯うん。綺麗になった。

 ああ、なんて安らかな寝顔。

 こんなに大きくなって⋯⋯。

 早く目を覚ましてね。





「あがああああ、た、助けて!許してくれぇ!!」

「私は!悪くない!コイツが!!こいつがあやったことなのよおおおおああああ!

 」

「ぁ……ぎぉ、ぐげ…………」



 ⋯⋯?うるさい奴ら。

 2人が寝てるんだから、静かにして欲しい。


 私は髪を操り、磔にした、まものの体に髪を差し込むと、神経を削った。


 ガリガリ。ガリガリ。ふふふ、触る度に体をビクつかせる。これだけは楽しいと思えた。


「ハァハァ⋯⋯、さ、最後の1人を殺した!だ、だから俺は解放してくべっ」


 うるさい。

 氷を纏った髪で叩くと、屋敷の壁に当たり、赤い花を咲かせた。


 これで静かになった⋯⋯。


 2人にはいっぱい話す事があるのよ?


 先ずはそうね、何から話そうか——


 ◇



 それでね、素敵な場所を見つけたのよ?

 いつか3人で、行ってみたいって思ったの。


 ⋯⋯⋯⋯。


 屋敷の周りを囲む氷が壊された。

 そんな事が出来るのは、1人しか居ない。


「ヴァ、ヴァイ⋯⋯ス」


 シズクの声。

 王都のパーティーは終わったのかしら。


 私を見たシズクは酷く驚いている。


 ふふふ、酷い顔ね?そんなに慌ててどうしたのかしら。


「⋯⋯ヴァイス。そう、コイツらに2人は⋯⋯」


「⋯⋯?シズク。ごめんなさい。まだシロとブランは寝てるの。起きたら皆でパーティーをしましょ?」


「ヴァイス。シロとブランはもう⋯⋯⋯⋯」


 ⋯⋯⋯⋯?

 私は手元を見る。

 2つの寝顔。


 ⋯⋯⋯⋯。


 ああ、そうか。そうよね。分かっていた。分かっていながら。気付かないようにしていた。


 2人はとっくに⋯⋯。


「ねぇ⋯⋯シズク。お願いがあるの」


「何?お願い?⋯⋯⋯⋯やめて。それ以上は聞きたくない。いや、嫌だ!!」


 流石ね、私の言いたい事がすぐに分かる。


「⋯⋯無茶なお願いだったわね?ごめんなさい」

 私としたことが⋯⋯。シズクに重荷を背負わせるところだった。


 シロ⋯⋯。

 ごめんなさい。

 私は貴方達と同じ所には、行けそうにない。


 ブラン⋯⋯。

 ダメなママで、ごめんね。

 貴方の成長する姿を、一緒に見守ってあげてれば良かった。


 涙が溢れてくる。

 あああ、もっと一緒に居たかった!美味しい物だって沢山あげたかった!綺麗な服も!私の差し出せるものなら全て!貴方達に⋯⋯!


 シロとブランと、一緒に笑い合う生活がしたかった⋯⋯。



 ⋯⋯。


 ⋯⋯⋯⋯。


「シズク」


「⋯⋯なに?」


「貴女と出逢えて良かった。魔王を倒す旅も楽しかったわ。ミーシャとハンゾウにもそう伝えて?」


「ヤダよ。自分で言ってよ⋯⋯」


「シズク。今までありがとう」


 終わらせる事は自分で出来る。


 シロが綺麗だと言ってくれた。


 この髪がある。




 氷を纏った髪の刃は。


 私の体を貫いた。



「ヴァイス!!!」


 倒れる体を、シズクが支えてくれた。

 ああ、良かった。

 最後は貴女の手の中で死ねるのね。


 ⋯⋯ふふふ、酷い顔。


 ああ。


 シロ。


 ブラン。


 シズク。


 私は⋯⋯、貴方達を⋯⋯⋯⋯あいし⋯⋯て



 ******



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― 新着の感想 ―
あ、でも、でも、バブみとママは手加減してください。死にそうです。先生とか通りすがりとかママとかいたたまれない空気とマザコン描写 あああな、なは、はたま かさやたけやのねゆけならばばばばばばばばび、、、…
悲しい話だが、まぁ、そうなるよね。 読む読まないは人の勝手だからダイジェストは要らないと俺は思います。読まないなら次の話の中から前話に何があったか推測するだけで済む話なので。ダイジェストを作者が考える…
まぁ予想通り、後年に捏造されてましたね。今派の際のセリフなんて周りに向けてそんな恨みごとみたいなこと全く言ってないし… 貴族と屋敷の人間皆殺しだったとしても連れていかれる親子のことを見てる人が居なかっ…
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