163.異世界人ソラ
「俺は、そこの勇者同様。異世界から来た人間なんだ」
シャロ、アナ、マリアさんに俺の最大の秘密を打ち明けた。
そう、俺は今まで嘘をついていた。
保護者のじいさんと共に、山の中で暮らしていたので、魔法や世間の常識を知らないという、野人か?と言いたくなる様な設定で今まで過ごしてきた。
流石に何人かは、それは嘘で。俺が何らかの事情でそうせざるを得ない様な身分だと思っているっぽい。
実際そんなことは無いのだが⋯⋯。
シャロの親父さんは、ガッツリ勘違いしている。
そして3人は無言のままだ。
最初に口を開いたのはシャロで。アナとマリアさんに向けて言った。
「ねえねえ、異世界ってなに?」
⋯⋯つ、伝わってない、だと?!
嘘だろシャロさん!俺はちゃんと勇者同様のって言ったぞ!
シャロの一言に驚愕していた。
そこにアナが口を開く。
「⋯⋯ソラは、私達とは違う別の世界から来たって事でいいの?」
「え?あ、ああ。その通りだ」
「なるほど⋯⋯」
「ねーねー!異世界って何さー!」
「シャロさん。恐らくですが、ソラさんは勇者様と同じ存在。という事だと思います」
俺の予想とは、違う方向に話が進んでいる。その様子に勇者は言った。
「ウケる」
ウケるな。
うーん。どうしよう。いい説明が思い浮かばない。正直、「異世界人です」と言えば伝わると思っていた。考えてみれば。別の世界という概念が、一般的に知れ渡ってるのか怪しいな。どうしようか⋯⋯。
そんな事を考えていると。
考え込んでいたアナが口を開く。
「ソラは何時からこの世界に来たの?」
「えーっと、大体4ヶ月くらい前かな」
アナは思う所があるのだろうか⋯⋯。
「ソラ」
「は、はい」
「初めて会った時。私の髪が綺麗だって言ってくれた事、覚えてる?」
「そりゃあ勿論覚えてるけど⋯⋯」
「あの時、ソラは私が『血濡れの魔女』だって、知らなかったんだよね?だから、あんな風に接する事が出来たんだよね?」
「そう⋯⋯だな⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯そうか。アナは俺が血濡れの魔女である事を知った上で、恐がらずに接してくれたと思ってたんだな。
言葉につまる俺を遮るように、勇者が声をあげる。
「青いね〜、初々しくてお姉さん参っちゃうよ。ソラ〜、君さー、その後この子が血濡れの魔女だって知ったんだよね?と言うか教えられたよね〜?それを聞いてどう思った?」
「え、いや。血濡れの魔女なんて呼ばれてるけど、それはアナのせいじゃないんだし。100年も前の事でアナが恐がられるのは違うでしょっていうか⋯⋯」
そうだ。俺はあの時、仲良くする人間は自分自身で決めようと思ったんだ。
「そんな理由で、今後の付き合いを変える気にはなれなかったし。⋯⋯だから。俺は自分の意思で、アナと仲良くなろうと思ったんだ」
「甘酸っぺー。私もこんな事言ってくれる人と出逢いたかったわ〜。いやマジで」
「居なかったのー?」
「⋯⋯それ以上踏み込むと戦争だからな?」
ホント邪魔だなコイツ⋯⋯。
もう縄かなんかで、ページが開かないように縛った方がいいんじゃないか。
アナは黙ったままだし⋯⋯。
「ねえソラー、他にもまだ何か隠してる事とかあるの?」
「え?いや、流石に⋯⋯うん。無いな。もう隠し事は無い」
少なくとも俺の中で一番の隠し事が、異世界人である事なんだし。これ以上は何も隠していない。
「アナ。その、ごめん⋯⋯」
「⋯⋯ううん。色々衝撃的な事が多すぎて、頭が混乱してるだけだから」
そう言うと、アナは席を立ち出口へと向かった。
「少し⋯⋯、外の空気すってくるね」
リビングのドアを開け、そのまま出て行ってしまった。
ああ、もう少しやりようはあったんじゃないだろうか。
「ハァ~。やれやれ、自分は受け入れて貰ったのに、他人は受け入れないとは。まだまだ子供だね~」
「⋯⋯別に、アナがそう言った訳じゃないないんだけど」
「ハイハイ。ココは頼れるお姉さんに任せときなさい。という訳で行ってきま~す」
そう言うと勇者は、スーっとアナの後を追うようにして飛んでいった。
アレに任せるのは不安でしかないんだが⋯⋯。今の俺が行っても逆効果だよな。
露骨にテンションの下がった俺を見て、シャロは言った。
「あたしは大丈夫だと思うよー。本当にただ混乱しているだけだろうしー?」
「私もまだ出会って日が浅いですが、大丈夫だと思いますね~」
「⋯⋯ありがとう。慰めてくれて」
◇
⋯⋯ハァ。思わず外に出てしまった。
今日は色々と衝撃的な事が多すぎる⋯⋯。
私でも気付けないような結界に、尋常じゃない魔力を帯びた家。
その家の中もとんでもない量の魔法が施されているし。
ソラが、異世界から来た人間だったなんて⋯⋯。
それに、今私の後ろに居るコレの存在も衝撃が強すぎる⋯⋯。
「お?やっと反応してくれる感じ?いやー、さっきから声掛けてるのに無視されるとお姉さん傷付くんだよね~」
⋯⋯この本はどうやら、100年前に居た勇者だという。どういう原理?考えられるのは魂を本に移したか⋯⋯。そんな事が可能なの?
「可能なんだなコレが~、まぁ私ぐらいの天才じゃないと無理だけどね~」
そしてなんか私の心の中を読んでいる。
心の中を読むのは構わない。構わないけど、ソラの前ではやめてほしいな。私の心の汚い部分を見てほしくない⋯⋯。
「おっ、いいよ~。乙女だね~。お姉さん張り切っちゃうよ~」
伝記だともっと落ち着いた人物像だったのに⋯⋯。イメージと違い過ぎる。
「そりゃあ、そう書く様に指定したからに決まってるでしょ」
聞きたくなかった⋯⋯。割と好きで読んでたのに⋯⋯。
というか、一体何しに来たんだろう。今は1人になりたいのに⋯⋯。
本がスーっと目の前に寄って来た。
肖像画で見た絵よりも大人びている。そんな彼女がニヤニヤした顔でコチラを眺めていた。
「君さー。ソラの事どう思ってる?」
「⋯⋯どうと言われても。その、仲間です。大切な」
「あー違う違う。そういうのじゃなくてさ。仲間以上の感情が有るのかって事」
仲間以上の感情⋯⋯。そんな感情は有るに決まっている。有るからこそ、今のモヤモヤした感情が生まれているのに⋯⋯。
初めてソラと出逢った時。私の髪を奇麗だと言ってくれた。生まれて初めての出来事にドキリとした。
この人は私が血濡れの魔女と知っていても、受け入れてくれると。
でも本当は違う。ソラは異世界から来た人間。血濡れの魔女の事なんて知らない状態で私と出逢った。
だからこそ、素直に奇麗だという言葉が出たんだと思う。
初めての事に私は、嬉しくてたまらなかった。
初めて、私を見てくれる人が現れたと。⋯⋯⋯⋯そう思えた。
裏切られたとは思わない。⋯⋯でも。
「うるせー!!!」
いきなりの大声に思考が中断され、体がビクッとなった。
な、なにいきなり⋯⋯。
「さっきからグダグダと~。いい?アイツはアンタが血濡れの魔女と知っても受け入れたの!そんなものは関係ないと。アンタの事を1人の女の子として見ているのよ。なのにアンタはソラが異世界人と知ったら、ハイサヨナラで捨てるの?違うでしょ?アイツはね。アンタと違って1人なの。私がこの世界に呼び寄せてしまった。いきなり、家族や友達と2度と会えないこの世界に来てしまったの。誰にも頼れず、自分の力で生きていくしかなかったの。本当なら私の事を恨んで、憎んで、罵ったっていい。でもアイツは私を許すと言った。恨んだりしないって。私には⋯⋯、そんな事は出来ない⋯⋯」
「アンタが、ソラをいらないと言うのなら。私に頂戴。ソラが死ぬその時まで、アンタの代わりとして一緒に居てあげる。私がソラと一緒に死んであげる」
勇者のその言葉にはハッキリとした怒気が込められていた。
きっと私の態度に対する怒りだろう。
⋯⋯そうだ、ソラは私を受け入れてくれた。何時も周りに私の事を話してくれていた。そのお陰か、私を怖がる人は目に見えて減った。それは表面上だけかもしれない。それでも、以前に比べれば劇的に変わっていた。
そう変わったんだ⋯⋯。
楽しいと思える日々が続いた。
ソラと出逢い。
シャロちゃんとも出逢い。
一緒に居る時間は短いが、マリアさんとも出逢った。
その全てがソラを介して繋がれている。
私の楽しいと思える出来事の中心には、必ずソラが居る。
だからこそ、逢えない日々が続くと。嫌な気持ちが増えていく。
早く会いたい。会って色々な話をしたい。
「ふん!答えは出てるでしょ!⋯⋯なら迷う必要はないよ。貴女がしたい事をしなさい」
「⋯⋯そうですね。私は、なんであんなことを思ったんですかね」
「人間なんてそんなモノよ。幾ら頭でわかっていても、感情が同じとは限らない。今回は私が手助けしたけど、次からは自分自身で答えを出しなさい。いいわね?」
「分かりました。余計な手間をお掛けさせました」
本の中の勇者は満足したように頷いた。
「それで、勇者さま」
「なにさ」
「ソラは⋯⋯。絶対に渡しません。私のモノです」




