158.勇者の日記3
前回、前々回よりも少しシリアスです。
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到着〜。久しぶりに来たけど、街はお祭り騒ぎだね〜。⋯⋯思ったより人が居ない。
きっとヴァイスの所にでも、押し掛けてるのかな?
ここで私も現れたら、騒ぎが大きくなっちゃうね。いやー人気者は辛いね、ほんと。
予想に反して、ヴァイスの家の前には誰も居なかった。
⋯⋯?あ、そこの人、ちょっといい?そうそう私勇者。この家の人、何処にいるか知らない?知ってるんだ。早く来てくれって?しょうがないなぁ。
知らない人に連れられ、街の一角へと向かう。なんか、やたらと寒い⋯⋯。冬はまだ先なのに⋯⋯。
その屋敷は、氷の壁で覆われていた。
おー。この感じはヴァイスね。まーた怒って暴れたのね。仕方ない、仲裁しますかね〜っと。
はいはい、退いて退いて〜。勇者様のお通りだよ〜。
氷の壁の周りに居る人混みを押し退け、1番前に行くと、1人の男が近寄ってきた。
⋯⋯は?ヴァイスが?何で?
男は言った。
ヴァイスが領主邸を襲撃したと。
ハンゾウじゃあるまいし⋯⋯、あの子は貴族を相手にした争いは、基本起こさないのに。私に巻き込まれる形なら何度もあるけど、あの子が自分からいったことは1度もない。
なに。何が起きたの。
氷の壁の一部を壊し、中に入ると。
辺り一面が血に濡れていた。いや、正確には血が凍り付いて、生垣を、道を、屋敷の壁や窓を赤黒く染め上げていた。至る所に人の死体が転がっている。体の一部が無い者、上か下かどちらかしか無い者、そのどれも頭は無く。
切り取られたであろう、頭だけが道の端に並べられていた。そして。
その先には。
氷の十字架に磔にされた4人の人間。
それを眺めるように、血に濡れた髪を靡かせ、1人の女が座り込んでいた。
今まで凄惨な光景なんて、嫌という程見てきた。それでも、その光景の中心に居る人物が。この光景を作り出したとは、とても思えなかった。
ヴァ、ヴァイ⋯⋯ス。絞り出す様な声が出た。私の声に、ヴァイスは振り返る。
感情の消え失せた顔。光が消え、酷く濁りきった瞳。あれ程白く美しかった髪は血に濡れ、薄く赤みがかっていた。
その手に抱く2つのモノ。
愛おしそうに撫でるその手だけは。
血に濡れておらず、綺麗なままだった。
⋯⋯ヴァイス。そう、コイツらに2人は⋯⋯。何?お願い?やめて。それ以上は聞きたくない。いや、嫌だ!!
私はあなたを——。
殺したくない!!!
ヴァイスの手が、私の頬に触れ。
氷を纏った髪が、ヴァイスの体を貫いた。
あ、ああ⋯⋯。
ああああああああああああ!!!!!!
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そこからの数ページは、言葉では無く。
何かを書き殴った様な、グチャグチャな文字の羅列が刻まれていた。
流れ込んでくる様々な感情。
言葉に表すことの出来ないソレは。
俺の目から、一筋の涙となって零れた。
感情の波が押し寄せ。落ち着く頃。
日記はまたも静まり返っていた。
そして、再び。
静かに、次のページを捲り始めた。
もう大丈夫だと。
そう告げるように。
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あー、やっと着いた。ごめんね〜、ヴァイス。馬車での移動だがら、時間かかっちゃってさー。さすがにあなた達を〈収納魔法〉の中に入れたくないんだよね〜。
よーし。お墓はこんな感じでいいよね?
ヴァイス。この場所は、貴女が以前言っていた、家族と見たい景色の場所だよ。
こんな形で叶えてごめんね?
魔法を創り出せても、人を蘇らせる事が出来無くてごめんなさい。
あの時、傍に居てあげられなくてごめんなさい⋯⋯。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
⋯⋯結界張っておくね。人も魔物も寄せ付けないような強力なやつ。
この景色は貴女達家族だけのものにしてあげる。
じゃあね、さようなら。
あれから7年位経ったかな。
私は世界を1人で見て回った。
人の街に保管されている、ありとあらゆる文献を漁っても、元の世界に帰る方法が見つからない。
多くの遺跡をしらべても、何も得られなかった。
エルフの国に行っても、何も無かった。
もう疲れちゃった。
最後にハンゾウに会いに行ったら、ちゃっかり嫁さんを見つけて、子供を作っていた。
何でも、加護の力でどんな事でも忘れないんだとか。まぁ、矛盾しあった2つの力がぶつかり合った結果なのか。
ハンゾウの事は、私達と同じ様な感じで覚えられるんだって。
離れても、会えば思い出す。
2人はそうやって出会ったんだって。
昔、ハンゾウに助けられて、その事を忘れ、再会した時に全てを思い出す。
私は適当に運命じゃない?と言ったら2人共照れていた。かー!爆発しろ!
それからハンゾウにも、ヴァイスのことを話したけど、既に知ってるみたい。
ハンゾウが街に行った時に、吟遊詩人からその歌を聞き、初めて知ったんだとか。
すごく謝られた。
いいよ、私は何も出来なかったんだし。ハンゾウは悪くないよ。
ハンゾウ達から、一緒に暮らさないかと提案されたけど断った。
今日は、最後の挨拶に来ただけだから、これでお別れ。もう会うことは無いよ。
ハンゾウ。お前はちゃんと家族を守りなさいよ?ただでさえ、忘れられるんだから、ずっと傍に居なさい。私からの最後の命令。いいね?
うん。いい返事だ。バイバイ。
ある街で、色々準備する為に買い物に来ていたら、呼び止められた。
んー?⋯⋯ああ、確か娘さん殺された領主の人。何年ぶりだろうね。地下室は健在?⋯⋯死んだからもう使って無いんだね。その方が良いかも。私は、この街の近くに家建てたいから、その材料を探し中。
何か色々融通して貰えた。やっぱり恩は売っておくものだね〜。
街から少し離れた草原に、魔法で家を建てた。
外側の見た目はログハウス風。
私の実家に似せた内装。
生まれ育ったリビング。
いつも寝起きしてきた私の部屋。
⋯⋯ただいま。
おかえり。と言い声は返ってこない。
10年振りに、高校の制服を着てみた。
成長するのを見越して、少し大き目のセーラー服。
⋯⋯き、きつい?いやまだいける⋯⋯。まだ私は25だし⋯⋯。コスプレ感がヤバい。
ま、まあこの世界に来たときもこの服だったんだし、終わる時もこの服がいいよね。
この家の周囲に、認識阻害と精神干渉を混ぜ合わせた結界を張ってある。魔物や人も近付くことは出来ないでしょう。
勇者召喚の儀にも、細工しておいたし。あとは待つだけかな。
さて、家にも私の魔力を注いだ事だし、始めますかな。
魂を移す魔法。
それじゃあ、ここまで読んだそこの君。
そう君だよ。
私と少しお話しようか?
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日記がパタンと閉じ。
不意に背後にあるリビングから、人の気配がした。




