16.血濡れの魔女
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100年程前。
ある日突然、魔王が現れ。
様々な国に争いを巻き起こしていた。
そうした最中。
とある国に突如、異世界より勇者が舞い降りたと云う。
魔王の行いに勇者は怒り仲間を集め、世界を救う為に旅に出たのであった。
その勇者の旅の仲間の1人に。
白い髪の、美しい魔法使いが居たと云う。
[白銀の魔女]と呼ばれ、慕われていた。
彼女は氷の魔法を使い、幾多の魔物を屠り、勇者と共に旅を続けた。
勇者の旅は苛烈を極め。
行く先々の国々で魔物を倒し。
また巨悪を打ち倒した。
その後、幾多の試練を乗り越えた勇者とその仲間達は魔王を倒し。
世界中の国々を繋ぐ架け橋となった。
勇者とその仲間達は、平和になった国でそれぞれの帰る場所へと帰って行った。
白い髪の美しい魔法使いも同じように、故郷で待つ者の元へと帰って行った。
それから間もなく、悲劇が起きた。
勇者がかつての仲間の元を訪ねた時。
白い髪の魔法使いは
その身を血に染めていた
勇者が訪れた時には、既にその地を治める貴族とその家族、当時屋敷に居た人間すべてが殺され。
[白銀の魔女]は、その身を血で染めていた。
美しかった白い髪も、血を吸ったように薄い桃色に変わり果てていた。
その惨状を目の当たりにした勇者により。
かつて仲間だった魔法使いは討伐された。
その戦いを近くで見ていた民衆は聞いた。
彼女が死の間際に言った言葉を
「殺す、私の手から愛した者達を奪ったこの世界を⋯⋯、私は必ず戻ってくる、この姿のまま⋯⋯」
その声は透き通るように響き渡り、それを聞いた民衆の心は、氷漬けにされた様に震えあがらせた。
そして、勇者の腕の中で静かに息絶えた。
その後魔法使いの亡骸は、勇者により持ち去られ。勇者もまた、何処かへと消えていった。
残された人々は、その惨劇を忘れぬよう。
何時か彼女が舞い戻るの恐れ、物語として後世に書き記した。
その物語の題名は[血濡れの魔女]
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「まぁ、ワシも詳しくは分からんが大体こんな感じの話だったな。本を読むのは好かんくてな、人伝で聞いただけなんだわ」
俺はヴィーシュさんの話を黙って聞いていた。
100年前の話か、俺と同じ異世界から呼ばれた勇者。
彼女の話をちゃんと聞くのは、何気にこれが初めてな気がする。
名前と生活魔法作ったくらいしか知らないし。
今度調べておこう。
というか⋯⋯。
「⋯⋯それとアナスタシアが何の関係があるんです?」
シンプルにそう思った。
共通点なくないか?そもそも[白銀の魔女]は白髪何だから、関係ない気がするが⋯⋯。
「あの子も[血濡れの魔女]と同じ、氷属性の魔法を使うんだわ」
あー、なるほど。
使える属性が一致しているのか。
「まさか氷属性使えるってだけでそう呼ばれてるんですか?血濡れの魔女判定の範囲、広すぎじゃないですか?」
「そうだなぁ、後は髪色だな。物語では白髪が血で染まって、薄桃色になっていたそうだからな。何時しかその時の髪色で復活する、なんて言われるようになったらしい。」
あー、髪の色も似ていると。
それでもまだ偶然で済ませられるんじゃ⋯⋯。
俺の言葉を遮るように。
「それに、あの子自身が[白金]ランクの冒険者だからだ。」
「[白金]ランク!それって冒険者の最高ランクじゃないですか!」
彼女は見た感じ、俺と年はそう変わらないように見えたのに[白金]ランクにまで登り詰める程の冒険者だったのか。
「そうだ、[白金]ランクにまで行くと基本的に人外の領域だからな。それにあの子は単独で、氷系ドラゴンの中でも最高峰のブリザードドラゴンを単独で討伐しているからな。実力は本物だ。だからこそ魔女の生まれ代わりだと言われておる」
氷系ってことは自分と同じ属性のドラゴンを討伐したのか。
元の世界のゲームなんかでも同じ属性の攻撃や魔法は効きづらいのが当然だ。
彼女はその状態でドラゴンを討伐したのか⋯⋯。
凄いな。
「尤も、ワシはあの子が悪い存在には思えなくてな。実際周りに何か、悪さをするという事もないしな」
「そうですよね」
俺は同意した。
実際俺自身も何かされたという訳じゃないんだし、昔の事を言われてもなぁという感じだ。
そもそも本人なわけないし。
「他にも子供を躾ける時に、血濡れの魔女の髪が巻き付くぞ。なんてのもありましたね」
店の奥から戻って来たカルマンさんが、子供の躾で使われている事も教えてくれた。
「⋯⋯髪が巻き付く事の、何が怖いんですかね?」
本人の幽霊が現れるとかならわかるが。
髪って⋯⋯、何か理由でもあるんだろうか。
「誰が言い出したのか分からないけど。血濡れの魔女の髪に触れると、全身の血が吸い取られる、なんて話もあるんだよ。そういうのもあって街の人は、彼女を避けてるんだよ。下手な怒りを買って、暴れられても困る〜って具合でね」
「なるほど~。100年前のことがいろいろ歪められて、迷信みたいになってる感じですかね?」
あとでシャロに何か知ってないか聞いてみよう。
「ワシとしては、お前さんが気にしないなら仲良くしてやってほしいがな。1人でも気軽に喋れる相手が居るってのは、それだけで救われるもんだからな」
「分かりました。何せ俺は山育ちの世間知らずですから、周りの噂何て気にしませんよ」
周りには黙っているが、俺は異世界人。
この世界の常識なんて、分からん事だらけよ。
仲良くする人は、自分自身で決めればいいんだ。
用事も終わったので、2人に礼を言いヴィーシュさんの店を出る事にした。
新しい装備が出来るのが楽しみだ。
◇
おっあいつは⋯⋯。
宿屋に戻る途中で、エル雄を見つけた。
早速血濡れの魔女について問いただしてみる。
何百年と生きるエルフなら、生き証人位は居るだろうと思ったからだ。
「血濡れの魔女?⋯⋯ああ。噂は聞いたことがあるな、たしか勇者の仲間で氷の魔法使いだったか。詳しくと言っても、僕はまだ50歳位だからな。当時僕はまだ生まれてもいないし。そもそも我がエルフの国と人間の国とのやり取りなんて、僕が生まれた位の時期から始まった事だからな。当事者何ていないと思うぞ?」
「まじかー、残念。俺の予想では、どっかで話が捻じれて伝わってると思うんだけどな〜」
100年も経つと、そういうこともあるだろうし。
「知らないな。悪いが、もう用が無いなら行かせてもらうぞ?リリアーヌが待っているからな」
「おう、悪いな引き留めて」
エル雄に別れを告げて、宿屋に戻ることにした。
シャロに期待するか。
◇
宿屋に戻った俺は、早速シャロに聞いてみる事にした。
「血濡れの魔女~?あーなんか昔お父さんとお母さんに言われた気もするけど、何が怖いのか分かんなかったかなー」
そっか~。
相変わらず恐怖心がバグっている奴だった。
その後、夕食のハンバーグを食べながら、のんびり過ごすことにした。
アレックス君が早速ハンバーグをメニューに加えていた。
まだまだ不格好な見た目だが味は悪くない。
また何か他のレシピを教えて楽させてもらおう。
初めての[白金]ランク冒険者との出会いは思ったよりも好感触だったかな。
今後も縁があればまた出会うだろう。
思ったよりも再会が早かったりしてな、なーんて。
そんな事を思っていた。