157.勇者の日記2
とある街が魔物の軍勢に滅ぼされた報せを受け、1人先に転移魔法で向かう事になった。
こりゃ酷い。外壁はボロボロ、街の中はめちゃくちゃ。魔物の軍勢はもう何処にも居ないけど、その爪痕は確かに残されている。
私達に知らせが来るだけあって、既に何処ぞの軍が救助活動を始めていた。
お、あの人は王城で見た事ある気がする。こんにちは。⋯⋯なんでビクついてんの?あー、思い出した。私が魔法でボコったんだった。確か小言が煩かったんだよね〜。元気?状況説明よろしく。
生き残りの証言によると。
日の出とともに、大量の魔物が街に押し寄せたという。冒険者の力も借りたが物量に押し潰されたと。なるほどなるほど。
で、その魔物はその後どこに向かったの?あっちの方角?地図見せて。
そのまま真っ直ぐ進めば王都だね。
アンタらが急いで行ったって、間に合わんでしょ。大人しくココで救助活動してて。
私は何処に行くのかって?
魔王をぶっ殺しにいくのよ。
丁度私達パーティは、王都に向かう最中だったし。その途中で迎え撃つ。
転移魔法で仲間の元へと戻った。
という訳で、やるぞ皆の者。
援軍は多分無理じゃないかな?私が全力出すならアンタら以外邪魔だし。その方が思う存分暴れられるでしょ?
いい返事〜。流石私の仲間達。頼りにしているぞ〜。
それから2日経ち。
大地を埋め尽くす魔物の群れが見えてきた。おー、すごい光景。地面が動いてるみたい。
よーしヴァイス、ミーシャ、ハンゾウ。
殺るぞ。
絨毯爆撃魔法。
空中に浮かぶ無数の火球。全て同時に放たれ、着弾。弾ける閃光。一瞬遅れて爆撃の熱と衝撃波が襲い掛かる。
うーん。爽快。やっぱり範囲魔法は気持ちいいや。10分の1くらいは死んだかな?
次は⋯⋯、やっぱり勇者と言ったら雷魔法だよね。
落雷魔法。
何百という稲妻が魔物の群れを蹂躙する。
つぎー!
竜巻魔法。
群れの外側より、竜巻が襲い掛かり中央へと押しやる。
指をカメラのレンズの様にして、範囲をチェック。角度よーし、範囲よーし。放てー。
ブラックホール。
魔物の群れのど真ん中に現れた、黒い球体。
超重力の力により、球体の中心へと周囲の魔物は吸い込まれ、押し潰され、為す術なくその命を散らしていく。
そして限界まで圧縮された、魔物だった者達の塊がその場に残った。
うーん、呆気ないな⋯⋯。
これで終わり?魔王は居ないの?それとも巻き添え食らって死んだか⋯⋯。魔力探知は——、居るな。何体か生きてる。
動いた。皆来るよ!!戦闘態勢!!
〈限界突破〉!
〈最強の盾〉!
来いやぁあああ!!!
地形が変わる様な戦闘が終わり。
辺りは静まり返っていた。
魔王。確かに居た。魔物を従える者。
本人の力は、そこまで強い物では無かった。周りに居た魔物が異常だっだ。
どれもこれも、弱点の属性しか効かなかったし、常に最適解の魔法を撃ち込まなければいけなかった。そして何より。
どの魔物も、褐色の人間の上半身を生やしていた。
こんな魔物は今まで見た事がない。
それに魔王も変だ。
体の至る所に、魔石が植え付けられている。
⋯⋯何あんたら。魔王の知り合い?
何時の間にか、ローブを着たヤツらが6人いた。
我等が主の復活に協力して欲しい?何言ってんの?敵対する気はない、ねぇ。いや、ここで殺す。見逃す気は無いけど?お前らから嫌いな匂いがプンプンするのよ。
ハンゾウ!
⋯⋯ッチ。1人逃がしちゃった。ハンゾウが不意打ちで1人。私が2人、ヴァイスとミーシャが1人づつ。何が目的だったのやら⋯⋯。あ、記憶覗いとけばよかったあああ!!1人くらい生け捕りにするべきだつた⋯⋯。
まぁいいや、魔王は倒せたんだし。奴らの目論見は潰せたでしょう。多分。きっとおそらく。
その後は、魔王の死体を王様の目の前に放り投げ、勝利宣言をした。
私達の勝ち。報酬、たんまり用意しといてね?ケチったらどうなるか分かるよね?
それから何日間か、王都でパレードを行った。
そうです。私が勇者様です。はいありがと〜、こっちも手を振ってくれてありがと〜。あら私の真似?いいね〜。
私が!魔王を倒した!勇者シズクで〜す!!
王都中が、私達勇者パーティを称えている。きもT〜。たまんないよねぇ。アーハッハッハッハー!!
パレードも終わり、次はパーティーがあるという。
あれ、ヴァイスは帰るの?パーティーは?旦那と子供に会いたいのね。わかったわかった。お金は私が後でちゃんと持ってけばいいのね?ハイハイ、惚気話は後で聞きまーす。
パーティーが終わり。5日経過して、その時が来た。
ミーシャはまた1人で旅に出るの?そう⋯⋯、またどこかで会えるよ、きっと。
ハンゾウは⋯⋯、本当に忍びの里を作る気なのね。ハイハイ、完成したら見に行ってあげる。
2人共、困った事があったら私に頼りなさいよ?助けてあげる。うん、いい返事。
じゃあね。
王都からヴァイスの所までは、馬車で4日位の場所。あの子なら自分で走って帰るだろうから、もう着いてるよね。
サクッと転移魔法で、ヴァイスの所に行こう。
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そこでページが捲られるのが止まった。
色々と衝撃的過ぎて、何を言ったらいいのか分からない。
この日記が、先代勇者の物であることはわかった。
そして、その仲間の事も色々と規格外であるという事も。
その中でも気になるのが、魔王の周囲に居たという、褐色の人間の上半身を生やした魔物達。それはつまり、魔王の後ろには『狂王神教』が暗躍しているという事。
我等が主の復活。
それが奴らの目的か⋯⋯。
日記の残りは3分の1位。
確か、勇者が魔王を倒した後に起こる事は⋯⋯。
この日記にも登場した、勇者の仲間の1人。
ヴァイスという名の女性が『血濡れの魔女』と呼ばれるきっかけとなった事件。
伝記には、突然狂ったと書いてあったが、果たして本当にそうか?彼女は愛するものを奪われたと書いてあった。
それが本当なら、愛するものとは恐らく⋯⋯。
俺は日記に視線を落とす。
日記は、続きを読む気があるのか?と言いたげに、静かに佇んでいる。
ココから先は、後戻りは出来ないと。
その覚悟が、お前にはあるのかと。
俺は1度後ろを振り返り、アナとシャロ、マリアさんの様子を確認する。
今まで気付かなかった。
3人の姿が消えていた。
そして。
日記のページが、独りでに捲れ始めた。




