156.勇者の日記
勇者の日記はまだまだ続く。
ページがどんどん捲れ。日記の内容が頭の中に送られてくる。
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勇者パーティとして活動を続けているが、魔王の情報が全然掴めない。
魔物を使役するのは分かってるけど、それ以上が分からない。とにかく色々な場所に現れる。そのくせすぐ逃げるらしい。
大人しく魔王城とかに、腰を下ろしておいて欲しい。
というかこの世界、小競り合いの戦争多すぎ!魔王倒すのに全員で力合わせろや!
特に貴族連中が酷い。
自分の領民を、全員奴隷だと思ってる節がある。私達には、ニコニコ顔で近付いてくるのも腹立つ。ムカつくけど無闇に殺す事はしない。一応この土地の管理者な訳だし。
そう、目の前で孤児を斬り捨てるのを見ても、私は動かない。
名のある鍛冶師が打った名刀?その試し斬りと。ふーん。
私はその剣に魔法を放つ。
なんだ、簡単に壊れるじゃん。こんなガラクタの何処が名刀なんだか。何?怒ってるの?
私は勇者様だよ?喧嘩なら買うぞ。
孤児に回復魔法を掛けて、何とか命を救う事は出来た。
あー、はいはい。出て行きまーす。ご飯あざしたー。
その夜。ハンゾウが生首を持ってきた。
いや、いる?じゃないよ。そこら辺に捨ててきて。というかさー、ちょっとコンビニ行ってくる。くらいの感覚で生首持ち帰るのやめて?
主君である私に無礼を働いた?うーん。記憶にございません。私は無関係。ハンゾウが勝手に殺った事です。
まぁ、あのカスが苦悶の表情で死んでるのを見れて、少しスカッとしたのは内緒ね。
あー、また戦争。そこの人ちょっと来て、どっちが悪い感じ?ここの領主の娘が殺された?犯人は嫁いだ先の領主貴族と。
ふーん。珍しい領民達ね、自分達の領主の為に怒るなんて。
しゃーない皆〜、加勢するよ〜。
開戦。
圧倒的にコチラが優勢。
私達が居て負けるハズないよね?
⋯⋯おいぃハンゾウ。なんだぁその首はぁ。
敵陣の奥に、豪華な服を着た男が居たから殺した?おそらく大将首でござると。
拡声魔法を発動。
敵将!討ち取ったりいいいい!!!
殺したら敵にも宣伝しろって、いつも言ってるでしょうが!ぶち殺すぞ!
終戦。
今回殺した大将は、軍の人間らしいので、実質的な犯人はまだ生きている様子。
領主同士で話し合いが行われている間、ハンゾウは縄で縛って、ミーシャに抑えてもらってる。
そうそう、亡くなった娘さんは10才なんだって。それを向こうの、ロリコン領主が無理矢理嫁がせたんだとか。
おっと、話し合いの部屋から怒声が聞こえて来た。
いっちょ首突っ込みますかな。
コイツは殺す。一族郎党皆殺しでいい。⋯⋯ヴァイス、この手を離して?落ち着け?私は落ち着いてるよ。頭から血の気が引いてるもの。
泣き叫んで気に入らないからと、物のように扱たって?こんな奴ら生きてる価値ないでしょ。
おい、ミーシャ、ハンゾウ。こいつの屋敷消しに行くよ。
その日、とある貴族の屋敷が一夜で更地になった。
当主である貴族の行方は分からないが、屋敷にいた当主の家族は、遺体だけ綺麗に更地に並べられていたという。
きっと魔王の仕業だと思う。
誰の心にも魔王は存在する。
そう、私の心の中にも⋯⋯。
ヴァイスから酷く怒られた。
勇者である私が、汚名になるような行動はするなだって。わかってますけどねー。あれは魔王の仕業でー。はい、すいません⋯⋯。
娘の父親である領主からお礼を言われたけど、私にそんなもの受け取る資格はないよね。
そういえば、私が魔法で作った地下室の具合はどお?防音も効いてて良い感じと、それは良かった。
声は一切漏れないようにしたから、好きに使うといい。生かさず殺さず⋯⋯ね。
私達の冒険は続く。
正直な話、うちのパーティは問題児が多すぎる。ミーシャ以外は問題児だ。私を含めてね。その辺は自覚してるので問題ない。
ヴァイスは口が悪いし喧嘩早い。見た目はスラッとしたクールビューティなのに、笑い声がカカカカカなのも残念すぎる。
取り敢えず殴ればいい、みたいな考えが根本にある模様。魔法の方が楽なのに。
ミーシャは大男だけど、問題を起こさない。そして料理が出来る。私の記憶から抽出したレシピ本を見て、この世界の似た食材で再現してくれる。カレーを再現した時は、思わず涙がこぼれた。むちゃくちゃ辛い⋯⋯。でも美味しい。
ハンゾウは定期的に悪人の生首を持ってくるし。起きた時テーブルの上に、3つの生首が置かれてた時は殺そうかと思った。
見目麗しい乙女の寝室に入り込むとか許せんよなぁ?生首は捨てた。
そんな問題児の多い勇者パーティだが。
わりと評判は良くて、2つ名も生まれた。
ヴァイスは『白銀』と呼ばれ。
ミーシャは『赤錆』と呼ばれ。
ハンゾウは『勇者パーティの人』と呼ばれている。
私はそのまま勇者。
ハンゾウは忍者と呼ばれたいらしいけど、人々の記憶に残らないので、そう呼ばれている。たまに勇者パーティって4人なの?!と言われる始末。
ハンゾウが不満そうだけど、私達がちゃんと覚えていればいいでしょ。そうじゃない?忍びの里を作りたいから知名度が欲しいと、知るかボケ!
まーたヴァイスが知らない奴ら相手に暴れてる。ハイハイ、胸の大きさでも弄られた?あ、本当に胸の事言われたのね⋯⋯。ごめんなさい⋯⋯。
ミーシャが仲裁に入って、騒動は落ち着いた。
相変わらず、ヴァイスの魔法はよく分からない。髪に氷を纏わせて操ってるけど、魔法陣とか出てないよね?この子、素の状態でも髪の毛操作するから、それが魔法の力なのか分からないんだよね。加護的なのは持ってないし。
以前ハンゾウのアンブッシュが、私達に通用するか検証した時も、姿を消したハンゾウを簡単に捕まえていたし。
その時は、周囲10mの範囲を、目に見えない位の細い髪の毛が常に警戒してるとか、訳分からない説明してたっけ。
因みに私の時は、フルオートの防御魔法を常に展開してるので、寝て起きたら壁にハンゾウがめり込んでた。
ミーシャに対しては。シンプルに鎧で弾かれ、そのまま掴まって終了。
ククク、ハンゾウは勇者パーティ内で最弱⋯⋯。不意打ちや暗殺が得意だから仕方ないか。
そんな私達が、王都を出て3年の月日が経っていたが、一向に魔王へと辿り着かない。色々な地を逃げ回っているらしい。
いやー、ほんとうにめんどくさい。
移動も私の魔法で作った馬車があるとはいえ、時間がかかる。転移魔法も作りはしたけど、私1人しか移動出来ない。
そのせいで、定期的にヴァイスの旦那さんと子供の写真を撮りに行かされている。
2人の話する時だけめちゃめちゃ乙女の顔になるのよね、あの子。
そもそも本当に、魔王が居るのか分からないけど。個人的には、王様が嘘をついてる可能性もあると思っている。
1度王都に戻って記憶を覗こうか⋯⋯。
そんな風に思い始めた頃。
ある街が魔物の大軍によって、滅ぼされたとの報せを受けた。




