151.嵐の過ぎた後に
俺はめっちゃ頑張った。どれくらい頑張ったかというと。
アナとアウラお嬢様の戦いを1人で止めた。
あの嵐の様な戦闘に1人で、突っ込んで行っただけでも褒めて貰いたい。
だから今、アナの膝枕で頭を撫でられているのは、名誉の負傷を癒す為である。
か、体が動かん⋯⋯。
ヒーラーによる回復が行われているが、回復まで時間が掛かりそうだ⋯⋯。
決して膝枕を1秒でも長く堪能したい為ではない。そんな事は断じてない。
ヒーラーの人も心なしか回復の手を緩めてくれている。
回復魔法を使う前に見つめた甲斐があったな。
ヒーラーの人を責めないでほしい。彼も必死に俺の回復に努めてくれているんだ。感謝する事は有れど、責める筋合いはない。仕方ない、仕方ないのだ。太もも柔らかい。
そんな訳で、嵐は終息し。訓練所には、嵐の余波を受けた冒険者達が横たわっていた。
まぁ、見学は自己責任なので⋯⋯。その後何が起きても、コチラは一切の責任を取る気は無いので⋯⋯。
正直止めただけでも有難く思ってもらいたい。
俺だって満身創痍なんだから。
荒れた訓練所は、アネモス家のメイドさんや執事がテキパキと修復工事を行っている。
ギルドの頭がバーコードのおっさんが、アウラお嬢様にペコペコ頭を下げている光景が目に入った。
荒らした本人が何故か偉そうにしているのはどうなんだろうか⋯⋯。
「ソラもあんまり無茶しないでね?言ってくれれば止めたのに⋯⋯」
「いいんだ。俺の犠牲で皆が助かるならな⋯⋯」
叫びながら止める様言ったが、止まらないから俺が体を張ったんですけどね。
そんな事を言っても仕方が無いので、それっぽい事を言っておく。
体の痛みもほとんど消えた頃、俺等も宿屋へと帰る事にした。
「あら、それなら馬車で送って差し上げますわ」
訓練所の修復工事はまだ終わっていないが、アウラお嬢様がその場に残る必要はないか。
どちらにしろ俺が返事をする前に簀巻きにされ、セバスさんに担がれたので。大人しく送ってもらう事になった。
◇
宿屋に着き、解放された俺達は、それぞれ思い思いの時間を過ごす事にした。
シャロ、アナ、マリアさん、なぜかアウラお嬢様も伴いゾロゾロと、アナの部屋へと女子会をしに向かった。
1階にポツンと残されたので、明日の準備をする事にした。
そう、俺は明日。
俺がこの世界に来て、初めて目にした草原へと向かう事に決めていた。
3人にはまだその事を言っていないが、夕飯の時にそう提案しようと思っている。
何も無くても、ピクニックって事にしてお茶を濁せばいい。
その為のお弁当をこれから作る事にした。
調理場ではすでにアレックス君が夜の仕込みをしている為、その邪魔にならない様にする。
⋯⋯さて、メニューをどうするか。
ピクニックといえばやはり、サンドイッチだよな。
サンドイッチ+何か摘まめるおかずを2~3品あればいいか。
そうなると⋯⋯。先ずはサンドイッチから作るか。
取り合えず挟む具は、ホーンラビットのハムに野菜。それと卵サンドを半分ずつ作ろう。
摘まめるおかずは、厚焼き玉子とウィンナーと唐揚げにしよう。
厚焼き玉子は一定の幅で切り、横に倒して更に斜めに切る。片方を回転させればハートの形になるので女子力枠はこれでいい。
ウインナーは包丁で切れ目を入れてタコさんウインナーにする。⋯⋯タコってこの世界に居るのか?まぁいいか。
サンドイッチと厚焼き玉子、ウインナーを作っている間に漬けて置いた、足が4本ある鳥の肉を唐揚げにしていく。
揚げ物を揚げていると。匂いに釣られたシャロがやって来た。
その後ろを、残りの3人がゾロゾロと付いてくる。
揚げ物の匂いは腹を刺激するからな。訓練場で体を動かしていたのでお腹がすていいたのだろう。
「ソラー、これ食べていい?」
油を落とすために置いていた唐揚げにシャロは目を付けた。
材料はまだまだあるから少し位ならいいか。そう思い許可する。
「それならいいぞ、一応まだまだ揚げるから足りなかったら言いな」
「やったー!ありがとー!」
シャロは揚がっていた唐揚げを全て持って行った。
⋯⋯弁当の分はちゃんと取ってから渡すか。
そんな訳で、その後は延々と唐揚げを揚げ。明日の分のお弁当は完成した。
⋯⋯ふう。さて、俺も参加してくるかな。
そう思って調理場を離れようとすると。ガシッと肩を掴まれ。
「ソラ、手伝って」
ここ最近、朝から晩まで仕込みをしているアレックス君に捕まった。
いい加減人増やしたら?とそう伝えても、レシピの流出がどうのこうの言っていたので、それ以上言わないでおいた。
この世界での飲食店は、独自のレシピが文字通り生命線なようなので、キッチンに関しては気軽に人を雇えないのだという。
それを言ったらレシピを教えた俺の手柄みたいになるが、宿の施設を色々と好き勝手使わせてもらっているのでお相子だろう。
でもやっぱり人手増やした方が良いんじゃない?
俺はその後夜まで手伝わされた。
◇
夜になる頃にはアウラお嬢様は自分の屋敷に帰って行った。唐揚げのレシピを聞いて来たので、一応教えたが気にいったんだろうか。
アウラお嬢様が帰ったころ、シルバーファングの面々が家族を連れてやって来た。
そういえばお祝いをするとか言ってたな。正直内容の濃い一日だったので忘れていた。
他にもお客さんが続々と入って来て、シャーリー亭は今日も満席だ。
そして必然的に俺等は調理場へと押しやられた。
まぁいいよな、場所なんて関係ない。
今日は俺達がパーティを結成した日だ。
3人と調理場の隅でテーブルを囲み、俺は言う。
「えーっと、なんだ⋯⋯。正直こういうのは慣れていなんだけどな。俺はシャロとアナとマリアさんとパーティを組めて良かったと思っている。だから⋯⋯ね!乾杯!」
「「「かんぱーい」」」
いきなり挨拶をしろと言われても困る。こういうのは慣れていない。
気恥ずかしさを感じながら席に着き、アレックス君の作った料理をつまみながら俺達は同じ時間を過ごした。
その後、シルバーファングの席に挨拶をしに行った際に。
「俺達は今日からゴールドファングだ!」
とマルコさんが吠えていた。
⋯⋯⋯⋯まさか。
俺は思った疑問をハルクさんに伝えると。
「そうだよ、俺達は元々ブロンズファングから始まったからな⋯⋯」
「あの時は俺達もいいじゃん。と思っていたからな⋯⋯」
「今では、由来を言うのがちょっとな⋯⋯」
なるほど、シルバーファングはランクが上がりゴールドファングになったようだ。
俺達はこれからもハーデンベルギアなので悩む事は無いな。
⋯⋯そういえばまだその事を伝えていなかったな。俺は4人にパーティ名を決めた事を伝えた。
「ハーデンベルギアか、良いじゃないか。響きがいい」
「有名所と被っていないのもいいな」
「名前の由来とかはあるのか?」
「くっそ⋯⋯、俺等ももうちょい考えればよかったか⋯⋯」
他の人から見ても悪くない名前の様だ。
由来と言っても、異世界の花の名前だからな。ココはとりあえず何となく思いついたという事にしておいた。
「何となくですよ。何となく⋯⋯」
そう、なんとなくだ。この名前が浮かんだ時も、頭の中に謎の声が聞こえて来ただけなんだし。
あの声は一体何だったんだろうか⋯⋯。
レベルが上がった時に聞こえる声とは別の種類に思えた。
あの声は聞こえただけで脳みそを鷲掴みにされる感覚が有ったので、根本的に違う何かの声なのだろう。
ココでアレコレ考えた所で答えは出ないだろうし。もしかしたら始まりの場所とやらでその答えが出るのかも知れない。
明日。そう、明日その答えが分かるかもしれない。
俺はその思いを胸に、調理場に居る酔っ払い共の元へと戻っていった。
皆のもの~!呑んどるか~!!アルコールおいしい。
次回、いよいよメインストーリーが進行します。
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