148.結成!『ハーデンベルギア』
鐘の音が鳴る。
朝になったのだ。
俺はベッドから身を起こし、体を伸ばす。
昨日はようやく俺達4人のパーティ名が決まった。
その名も『ハーデンベルギア』
4人でパーティ名を議論していた時に、いきなり俺の頭の中に謎の声が響き、頭痛と共に聞こえて来たのだ。
俺の親友である、翼が好きだと言っていた花の名前だ。
花言葉は「出会えてよかった」「運命的な出会い」。
それを翼に言われた時、「お、おう⋯⋯」ってなった。
あくまでも翼が好きな花だからね、何も俺に向かってその言葉を投げかけた訳じゃないだろうけど、お、おうってなった。
それに、シャロとアナとマリアさん。
この3人に出会ったのも、運命的なのがあったのかもしれない。
この世界に来て、最初に出会ったのがシルバーファングとカールさん。
その次にシャロと出会い、そのまま一緒に色々な依頼をこなして何時しか、相棒の様になっていた。
アナもそうだ、マルコさんにヴィーシュさんを紹介してもらえなければ、出会う事も無かった。
[白金]ランクのアナと、あの時出会わなければ、その後に出会うという事も無かっただろう。
俺みたいな[銅]ランクの男と、一緒に居てくれるというだけで奇跡みたいなもんだ。
マリアさんも、いきなりアイリさんが引き合わせて来たが、結果としてマリアさん自身の秘密を、打ち明けてくれる程に信頼してもらえるようになった。
改めて、3人と出会えてよかったと思う。
⋯⋯⋯⋯俺も、異世界人だという事を打ち明けた方が良いだろうか。
正直に打ち明けた時、どんな反応をされるのか分からない。
この世界にとって、異世界人=勇者という位置づけだろうし。
その時、3人はどんな反応をするのだろうか⋯⋯。
もしかしたら拒絶されるかもしれない、そう考えると打ち明けるのを躊躇ってしまう。
⋯⋯この件については後回しという事で。
俺は身支度を整え、一階へと向かった。
一階に降りると、何時もの様にシャロが朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「おはよー」
シャロは何時も俺より早く起きるが、ちゃんと寝ているのか?寝る時間は大体同じくらいなのに、シャロより早く起きた事があっただろうか。わからん、覚えてない。
まぁいいや。取り敢えず今日は冒険者ギルドへ俺達のパーティ名を登録しに行かなきゃいけない。
俺は何時もの席に着き、シャロが用意した朝食を食べ始めた。
シャロが用意してくれたが、作ったのはアレックス君だ。
今日はサンドイッチか、アレックス君は時々思い付きで、クッソ重いメニューを出したりするので油断ならない。
サンドイッチの具は、ホーンラビットの肉と野菜に卵だ。うめうめ。
半分食べ終わる頃に、アナが起きて来た。
「⋯⋯おは、よ」
「おはよう」
相変わらず寝ぐせが凄い。今日は垂直に逆立っている、⋯⋯どういう原理?
アナが早起きな理由は、俺達と一緒にパーティ名を登録しに行く為だ。
アナの正式加入は、俺達3人のランクがもう少し上がってからになるが、仮で名前を入れておきたいのだそうだ。
椅子に座ったアナはふにゃふにゃしている。
⋯⋯。
「〈清潔魔法〉」
「⋯⋯!?うわ、お、おはよう?」
〈清潔魔法〉は何故か知らないが、寝ぐせも治す効果が有るうえに、寝ぼけている人の目も覚ます効果が有る。
先代勇者がそう設定したのかな?真相は分からないが、割と便利な機能だ。
目を覚ましたアナも朝食を食べ始め、シャロも席に着き3人一緒に朝食を食べた。
◇
俺達3人は準備を終え、マリアさんがやって来るのを待っていた。
俺はボーっと机に頬杖をつきながら考え事をしていた。
それは、教会で見た夢の事だ。
内容はハッキリ言って覚えていない。覚えていないが、始まりの地に行けという言葉は覚えている。
始まりの地。
俺の始まりの地なんて、日本なんだが⋯⋯。
そう思ったが、流石にそれは無いか。恐らくは異世界に来てからの始まりの地って意味だろう。
⋯⋯うーん。そう考えると、ドレスラードの事か?それだとしたらもう目標は達成している訳で。
いや、違うか?俺の始まりの地か⋯⋯。
しかしソラに電流走る——!
あ、もしかして⋯⋯、俺がこの世界へと転移した時に居た草原の事か?
それだと俺の始まりの地という、言い方も納得がいく。
⋯⋯1度行ってみるか。
行ってみて何も無かったら、それはソレで構わない。『始まりの地は一体何処』問題が生まれるが、まぁ仕方ない。ゆっくり探せばいい。
どうせ日本には戻れないっぽいし。
時間はたっぷりある、のんびり探せばいいさ。
頭の中では色々考えているが、俺の目線はアナとシャロのやり取りに、釘付けになっていた。
2人はキャッキャッしながら、お互いの髪型を作っていた。
シャロは普段首の根元に垂らす感じのツインテールだが、後頭部にお団子の様にまとめられている。
アナは2つの三つ編みを作り、委員長の様な見た目になっていた。
そして2人の魔の手が俺に襲いかかる⋯⋯。
◇
「おはようございます〜」
宿屋の扉を開け、マリアさんが入って来た。
お、来たか。
俺は椅子から腰を上げ、シャロとアナに告げる。
「マリアさんも来たし行くぞー」
「「はーい」」
「⋯⋯えっと〜、その髪型は」
「似合いますよね?」
「え!?あ、うーん、まぁ、はい」
「なら問題ありませんね。行きましょう」
俺はマリアさんが来るまで、シャロとアナの玩具にされていたので、髪型が凄いことになっていた。
女児がお気に入りの髪留めを、ふんだんに使う様に、ワタシの最強カワイイめちゃかわヘアーにされていた。
まぁ要するに。
俺の短い髪の毛を、複数の髪留めで縛って、ハリネズミみたいな感じの髪型にされている。
そんな俺をシャロは腹を抱えて笑い、アナはニコニコしながら見ていた。
たまには⋯⋯な。そんな日があっていいだろう。
俺はマリアさんの横を通り抜け、颯爽と外へ向けて歩き出した。
◇
今日も賑わう冒険者ギルド。
冒険者達は、ワイワイガヤガヤと、思い思いに過ごしている。
そんな中、俺達4人は受付に居る、アイリさんへと向かった。
「アイリさん、こんにちは」
俺の爽やかな挨拶を受け、手元を見ていたアイリさんが顔を上げ、ギョッとする。
「おはようござ、なんですかその頭」
「似合いますよね?」
「いえ⋯⋯。似合いませんね」
アイリさんにはバッサリ切り捨てられた。
⋯⋯。
致し方ない。1人でも似合わないと言う者が居るのなら、それに従おう。
俺は髪留めを外しながら、アイリさんに今日来た理由を話す。
「アイリさん。パーティ名の登録をお願いします」
俺の言葉にアイリさんは、1つ頷き告げる。
「分かりました。名前は『魔女の眷属』で登録して良いんですね?」
何も良くないが?俺はキッパリと否定する。
「いえ。『ハーデンベルギア』でお願いします」
「⋯⋯『ハーデンベルギア』ですね。少し待っててくださいね。」
そう言って、席を立ち何かを取りに行った。
取り敢えず待っている間に最終確認だな。
3人に向き直り、問い掛ける。
「シャロ、アナ、マリアさん。パーティ名は『ハーデンベルギア』でいいんだな?」
「あたしはおっけー!」
「私も大丈夫」
「私もお2人と同じ気持ちです」
「⋯⋯分かった」
3人からの言葉を聞き、俺は受付へと向き直った。
少しの間待ってると。
手に何かの紙を持った、アイリさんが戻ってきた。
「お待たせしました。では、こちらの書類にパーティ名と、メンバーの名前をそれぞれ御記入下さい」
「分かりました」
アイリさんより手渡された紙に、『ハーデンベルギア』と書き、その下に自分の名前を書くと受付から身を引き、シャロに場所を譲る。
シャロ、アナ、マリアさんの順で名前を書き、アイリさんにその書類を提出した。
最後にアイリさんのチェックが入り。
無言で頷くと告げる。
「はい。それでは確認致します。パーティ名は『ハーデンベルギア』。メンバーは、ソラ、シャロ、アナスタシア・ベールイ、マリア・フォン・ネペンテス。で間違いありませんね?」
「「「はい」」」
「おっけーでーす」
「では、本日よりあなた方を『ハーデンベルギア』として、冒険者ギルドの方で登録させてもらいます。指名依頼が来た際はお知らせしますので、今後ともよろしくお願いしますね」
こうして俺達4人は『ハーデンベルギア』としての道を歩み始める事となった。
⋯⋯⋯⋯というかマリアさんのフルネームって、そんな感じなのか。




