15.新たな出会い
ヴィーシュさんの鍛冶屋に新しい装備を新調しに来た俺は、ヴィーシュさんさんからの提案により、予算内で納める代わりに弟子である、カルマンさんの作った装備を買わないかと打診された。
勿論俺は承諾した。
最終的に師匠であるヴィーシュさんの監修が入る為。
下手な装備は出来ないだろうと思っていたからだ。
実際その通りになった。
その後も体の採寸などを行い、新しい武器が出来るまでの間、手ぶらになるのは不味い為。
今まで使っていた剣を、サービスで研いで貰える事になった。
その間の待ち時間を、店の中で過ごす事になった。
特にやることも無いので店の中をウロウロする。
すると、扉に設置されている鈴が音を立て。
扉が静かに開いた。
俺は不意に鳴った音の方を向くと。
扉を開けて、1人の女の子が店に入って来るのが見えた。
一目見て分かるほどの、美少女が居た。
まず目に入ったのは。
癖の無いストレートの髪が腰まで伸びており、薄桃色の髪の毛は桜の花を連想させた。
目もパッチリとしていたしスタイルも良い。
そして何よりも俺の目を引いたのが⋯⋯、大きい胸。
俺は大きい胸が好きだ。
昔親友にその話をした事があるが、すごい微妙な顔をされた。
別に変態的な事は言ってないし、大きいのっていいよね!位の事しか言ってなかった。
なのに微妙な顔をされた。
そんなどうでもいい、思い出が浮かんでいた俺に、店に入って来た女の子が声を掛けてきた。
「えーっと。貴方は新しい店員さん?」
透き通るような声で、俺が店員かを聞いてきた。
「あ、いえ。俺は今ヴィーシュさんに剣を研いでもらっている者です」
声を掛けられるとは思っていなかったので、緊張しながら返事をする。
「そうなんだ。結構時間かかる感じかな?」
「えーっと、さっき裏に引っ込んだので暫くかかると思います」
彼女は真っ直ぐ、俺を見ながら聞いてきた。
俺も真っ直ぐに、彼女の目を見ながら答える。
なんで真っ直ぐ見るのかと言うと。
女性というのは視線に敏感だ。
此方が幾ら注意して、胸を見ない様にしている風を装っても簡単にわかるそうだ。
だからこそ俺は目だけをみる!
第一印象を悪くするわけにはいかない。
その思いだけで、彼女の目を一心に見つめた。
無言が場を支配する。
え、気まず⋯⋯。
お互い無言で居ると、不意に彼女の視線が上にあがり。
「君。髪、真っ黒なんだね」
「へ?髪の毛?」
くっそ間抜けな声が出てしまった。
そう言われて自分の髪を触る。
ああ、そうか。
言われてみれば、俺みたいに真っ黒の髪の毛というのは珍しい。
この異世界の髪の色で多いのが茶色か金髪、時々青赤緑の様な色の人間もいる。
その中でも、黒に近い色の人もいたりするが少数だ。
そういう意味で、俺の髪の色が珍しかったんだろう。
⋯⋯そう言えば、桃色の髪は一度も街で見た事が無いな。
「私も、君みたいな髪色だったら良かったんだけどね」
彼女は微笑みながら告げた。
俺はその言葉を聞き。
「俺は、君の髪の方がキレイだと思いますよ」
俺の口からそんな言葉がこぼれた。
実際キレイだと思った。
何となくだがその髪の色が彼女に一番似合うんじゃないかと思った。
本当に何となくだが。
俺の言葉を聞き彼女は、口は微笑んだままだが、目を大きく見開いて驚いた表情をしていた。
おっと⋯⋯、俺何かやっちゃったか⋯⋯。
内心焦る。
彼女は自分の髪を指先で触りながらポツリと呟く。
「キレイ⋯⋯か。本当に?」
「もちろん」
俺は覚悟を決めて肯定した。
「なら。この髪⋯⋯触れる?」
そう言って彼女は、俺に近づきながら自身の髪を一束分手で掬い、俺に向けてさし出して来た。
これは⋯⋯。
頭の中で色々な考えが浮かんだ。これ触るとセクハラになる?でも自分で触って良いって言ってるわけだし大丈夫だよな?いやでも罠の可能性もあるわけで⋯⋯。
そんなん知るか、触らせてもらいます!
「じゃあお言葉に甘えて」
一言断って薄桃色の髪を撫でてみる。
すごいサラサラだ。
俺が女子ならシャンプーとトリートメント何使ってる?と質問攻めしただろう。
ん?ふと髪から目線を上げ彼女の顔を見ると。
先ほどと同じように何故か驚いた表情をしていた。
⋯⋯やらかしたか?そうか、冗談という線を失念していた。
おいおいコイツ本当に触りやがったよ、的な事を思われているんだろうか。
慌てて手を引っ込めて謝る。
「す、すいません!あまりにもキレイだったので思わず触ってしまって⋯⋯」
そのまま少し下がって、彼女から距離を取る。
「⋯⋯え?あぁ、ううん。大丈夫だよ。気にしないで」
「君⋯⋯名前はなんて言うの?」
青い色の瞳をじっと此方に向けながら。
彼女は俺の名前を聞いてきた。
⋯⋯どっちだ。
憲兵に差し出すために名前を聞いているのか。
それとも素直に俺に興味があるのか。
後者は自惚れが過ぎるが⋯⋯。
俺は小さい希望に賭ける事にした。
「俺はソラ。[銅]ランクの冒険者やってます。まだ駆け出しだけども⋯⋯」
「私の名前は、アナスタシア。アナって呼んでね」
彼女は微笑みながら名前を教えてくれた。
アナスタシアさんか⋯⋯。
俺は賭けに勝ったのか⋯⋯?
「それと、敬語も使わなくていいよ。私がそうしたいから」
「あ、はい。わかり⋯⋯わかった」
好感触を得られたようだ。
もっとも、彼女が元々そういう性格だった、可能性の方が高いが。
「うん。ねぇソラお願いがあるんだけど。」
「お願い?」
出会って直ぐに、お願いをされるほど親しくは無いと思うんだが⋯⋯。
そう考えているとアナスタシアは〈収納魔法〉から幾つかの鉱石を取り出した。
「ヴィーシュさんまだ時間かかるだろうし、これ渡しておいてもらっていいかな?」
「なるほど、わかった」
自分の代わりに、荷物の受け渡しを頼みたいだけか。
何か他に用事でもあるのだろうか。
「代わりに渡すのは良いけど、俺を信用していいの?」
会って間もない俺に荷物を預けるのは、流石に不用心ではないかと思い確認を取る。
「大丈夫だよ。君ならちゃんと渡してくれるでしょ?」
「⋯⋯渡しますが」
何だか心を見透かされているみたいだ。
どっちにしろ持ち逃げしても?彼女が憲兵に言えば、俺は捕まるだろうからな。
そのまま彼女は店の扉に近づき、ドアノブに手を掛けこちらを振り向き、一言。
「ソラ。またね」
そう言って店を出ていった。
「何だか不思議な子だな」
店の中に再度一人になり独り言が零れる。
その後暫く待ち、店の奥から剣を持ったヴィーシュさんが戻って来た。
「待たせたな。ほれ奇麗に砥げたぞ」
「ありがとうございます」
お礼を述べながら剣を受け取り、鞘から剣を引き出し刀身を眺める。
相変わらず研ぎ終わったばかりの剣はいいなぁ。
剣を収めて、先ほど店に現れたアナスタシアの話をヴィーシュさんに伝え、預かっていた荷物を渡した。
「なに?あの子が来てたのか⋯⋯そうか。お前さんには悪い事をしたな」
「悪い事?」
別に悪い子ではなかった気がするが。
ヴィーシュさんは、バツの悪そうな顔をしていた。
「悪いというか⋯⋯ほれ。怖かっただろう?」
「怖いってどういうことですか?」
ますます分からん。
怖い要素何て微塵も無かったんだが⋯⋯。
可愛すぎて怖いとか?⋯⋯ないな。
「お前さん方は。あの子の事を[血濡れの魔女]何て言って怯えているんだろう?」
「[血濡れの魔女]?なんですそれ」
初めて聞く言葉に俺は、何のことかサッパリ分からなかった。
[血濡れの魔女]なんて物騒な呼ばれ方してたのかあの子、⋯⋯そんな子には見えなかったが。
「なんだ、知らなかったのか。それなら仕方ないか。人間達の中では有名な話らしいんだがな」
「もし良かったら教えて貰えないですか?」
どんな話なのか気になる。
この後、予定も無いしヴィーシュさんが良かったら聞かせてもらおう。
そんな気持ちで頼んでみた。
「ワシもあまり詳しく知ってるわけではないんだがな。まぁいいだろう」
そうして、なぜ彼女が[血濡れの魔女]なんて物騒な呼び名で呼ばれているのか。
その原点ともいえる話を聞くこととなった。